工場プラント爆発事故をソーシャルメディアはどう伝えたか?

福田浩至 | 2012/05/07

 2012/4/22未明、三井化学岩国大竹工場で爆破事故が発生しました。死亡者も出す痛ましい事故です。地域住民に負傷者も出ました。被害者の方に哀悼の意を表します。私の郷里が山口県であることもあり、事故に深い関心を寄せていました。同時に、事故をネットがどのように報じたかを纏めてみました。事故報道におけるソーシャルメディアの使われ方を把握する助けになると考え、ブログ記事にしました。

 

事故の概要

 

発生場所:三井化学 岩国大竹工場(山口県玖珂郡和木町和木)のレゾルシンプラント

      (レゾルシンの用途:木材やタイヤの接着剤)
発生時間:2012/4/22 2:15 (8:05に2度目の爆発が発生)
被害状況
 人的損害 死亡1名、負傷21名
 物的損害 家屋損傷473件(主にガラス破損)、18プラントが損傷

 

  ※三井化学プレスリリースより引用

 

■ソーシャルメディアはどのように使われたか?

 

 表はネット上に現れた、事故を伝える情報を時系列に纏めたものです。もちろん、私が調べていて、認識できたものだけですので、網羅されたものではありません。しかし、概略の傾向ならば、掴めることもあると思います。

 

 

爆発が起きたのは2:15。大多数の方が眠りについている深夜です。
しかし、1分後にはtwitterで

 

「うぉ? なんかすげぇ音がした」

 

とのツイートが確認できました。爆音を聞いたたまたま起きていた広島在住の方が、リアルタイムに呟かれたのでしょう。更に2分後には場所を特定するツイートが発せられます。
 そして5分後には、2ちゃんねるでスレッドが立っています。しかし、タイトルは山口でなく「広島で工場爆発」と、なっています。このころから、twitter上では、多くの体験者の情報が投稿されていきますが、広島側からの投稿が目立ちます。現地から、30キロメートル離れている広島市内でも爆音が聞こえたということです。また、工場の場所は、山口県と広島県の県境付近にあります。このため、爆発は「広島」で起こったとの話題が多くみられました。また、工場から半径50Kmに渡り大きな振動も感じたこともあり、「工場の爆発は地震が原因」といった話題も多く見られました。いわゆる風評が流れている状況です。

 

始めて大規模に拡散したのは7分後。ツイップルにアップされた写真です。フォロワーは450名程度の方ですが、topsyで調べると、2,700件(*1)ほど拡散されました。写真のインパクトの大きさを物語っています。

 

 

 

 著名なニュースサイトの第一報は、発生から52分が経過した3:07にYahoo!ニュースでのYomiuriOnlineのニュース記事でした。さすがに4000件(*1)を越える拡散がなされています。このあたりで、事故の概要、場所、死傷者の数等が明らかになりました。ほぼ同時期にニコニコ動画に当時の様子を記録したビデオがアップされています。ビデオは、爆発5分後から11分21秒間撮影されています。ビデオの最後には、消防車のサイレン音が聞こえます。消防車の到着は2:25頃だったことが分かります。
 

その後、新しい局面を迎えます。事故発生から約1時間が経過した3:18には、当該工場が放射性物質を保管していることを示したブログが掲載されます。ここでは、文部科学省の報告書が添付されています。文中、「平成22年度放射性廃棄物管理状況」という表の中に「三井化学㈱ 岩国大竹工場山口3,379 本」と記載があります。最近、関心が高いテーマですので、このブログが大きな話題となり、既にネット上では、放射能飛散のリスクに関する話題が広がってゆきます。3:40にはNaverまとめで、放射性物質の状況も含め、事故の全貌を把握できる記事が掲載されました。

 

 Facebookはどうだったでしょう?私の友人では話題にしている人は皆無でしたので、自らのウオールでは情報を得られませんでした。しかし、勤務先を「三井化学」にされている方を、多数見つけることができました。6:00ごろ、岩国工場に緊急招集されたことを投稿した方があり、その友人からの安否を気遣うコメントを見つけました。また、同僚の死を嘆く投稿も確認できました。勿論、公開されている情報だけしか確認はできませんが、普段投稿されている方々も、自重をされているのか、22日には、夕方まで殆ど投稿を確認できませんでした。恐らく、非公開で友人同士では、様々なやりとりをされているのではないかと思われます。

 

三井化学側の情報発信は、7:00の工場長会見が最初。9:00の時点でHPにはリリース情報はありませんでした。日曜日の朝でしたが、代表電話に電話すると、女性の広報担当者が対応してくださいました。既に大勢のスタッフが出勤し、対応している最中とのことでした。放射性物質の被害状況について伺うと、詳細がわかり次第、折り返し連絡するとの返答をされました。その後、「放射性物質を保管している建家の被災状況などが判明した」ということで、10時過ぎに、返事の電話連絡を頂戴しました。HP上の掲載第一報は、11:00ごろ。その後14:00に第二報が発信されました。

 

 自治体はどうでしょう?まず、山口県です。6:34、県庁に問い合わせた人の確認情報として、「劣化ウランの所蔵を認識しており、影響がない旨の回答を得た」ことをtwitterで発信しています。しかし、県のHPでは、漸く13:00ごろに事故の事実が掲載されました。騒ぎの拡大を配慮してか、工場が「放射性物質」の所蔵している事実を伺わせる表現はありませんでした。

 

 岩国市は11:00ごろに防災メールを配信していますが、「配信が遅すぎる」との市民から指摘されています。知人が岩国市役所に連絡をしたところ、9:00現在で、対応にでた担当者は、爆発した工場敷地内に放射性物質を保管している事実を、知らなかったとのことでした。また、その事実がニュースサイトでも流れた後にも連絡を入れ、「放射性物質に不安を抱く市民が大勢いるのに、なぜ、テレビなどを通じた市民への連絡をなぜしないのか?」などと質問すると、「我々にはその権限がない。放射能の状況を伝えるのは原子力保安院の仕事。我々は企業からの報告を市民に伝えるだけ。」といった返答をされ、市民の安全を守るといった意識がないと、憤慨していました。

*1: 4/22 19時ごろ、topsy(http://www.topsy.com/)で確認

 

■ソーシャルメディア・チャンネル毎のまとめ

 

 表は、この事故において、各ソーシャルメディア・チャネルの使われた様を整理したものです。

 

 事故発生からのおおよその経過時間によって、変遷する情報を3段階に分けてみました。

 

混乱」段階では、

専ら「何が起きたか?」が話題になり、twitter、2ちゃんねるを中心に情報が発信されています。

整理」段階では、

少し引いて冷静に「今、分かっていることはなにか?」を確認しあう情報が主体となります。情報源は、ニュースサイトやまとめサイトが重要な役割を担います。

成熟」段階では、

公的な機関・企業からの正式表明も確定し、総括や今後の復旧についての話題が主になります。ここでは、混乱期に情報の発信源として活躍したtwitterや2ちゃんねるは、主たる役割を明らかになったことを拡散するエンジンに変質しています。

 

■仮説と対策

 

 今回の事故における、ネット上の情報拡散実態を元に、以下のことが仮定できます。

 

・密室でない、公共空間で明らかになった事故は、どんな時間でも、誰かが即座にネットに書きこむ
・「混乱」段階の発信源はtwitter。「整理」段階の発信源はニュースサイト及びマスメディア
・ニュースサイト・マスメディア報道は事故経過後、およそ1時間(勿論、地震速報のような特別な仕組みが確立してる場合は別)
・当事者が能動的に発信しない(確とした情報がない)と、憶測が拡大する
・自治体は、少なくとも「混乱」段階は受動的である

 

これらの傾向を踏まえて、当事者企業ができる行動を整理してみました。

 

(1)当事者企業が、迅速に発信する
 とりわけ、「混乱」段階での情報発信は、風評の拡散を抑制する効果があります。「混乱」段階で、拡散するポイントは2段階ありました。

 

 ①twitterによる拡散(今回の事故では、事故発生後7分後)
 ②ニュースサイトの告知(今回の事故では、事故発生後52分後)

 です。それぞれの、前に当事者企業としての発信があれば、誤った情報が拡散することは、ないでしょう。

 ①までには事故があった事実を、②までには一旦そこまでに把握できている状況を発信することが出来れば、風説の抑制に効果があるでしょう。
 これらの行動は、生活者より先に当事者が行動している事実を発信することにもなります。

 

(2)論点(生活者の懸念点)を常にチェックし、それに対応する視点で情報を発信する
 今回の事故では、最初は爆発建家に対する関心が主でした。直接影響が及び周辺住人にとって、深刻な問題です。そして途中から、工場内で放射性物質を所有していたことが、話題になりました。こうなると、関心を寄せる人々は、全国に広がります。実際、放射性物質の有無については、それ自体が風評であるという対立意見や、これから大変なことになるといった、今となっては誤った情報が沢山確認できました。こうなると、爆発建家の消火状況や被害状況とともに、放射性物質を格納している建家と爆発した建家の位置関係や、保管している放射性物質の内容(種類や量、保管状態)等を積極的に公開することが求められます。

 

(3)積極的に公官庁・自治体に情報を共有し、支援を得る
 事故が発生した初期段階では、自治体は多くの情報を持ち合わせていませんでした。しかし、地域住民は自治体が発信する情報を拠り所にします。自治体が正確に情報を提供できれば、地域住民の混乱は抑制されます。結果的に企業の対応負担も、軽減できるでしょう。

 

以上が、リスクマネジメントの中でも、危機管理対応(事後対応)の施策です。以降は、狭義のリスクマネジメント(事前準備)の施策です。

 

(4)公式アカウントを運用する
 今回、三井化学も地方自治体(山口県、岩国市)ともソーシャルメディアを運用してはいませんでした。三井化学は、5/3までにプレスリリースを11回配信しています。段階的に公開できる情報を出来る限り発信してきたことが分かります。しかし、ネット上での発信は、11:00のプレスリリース。事故から8時間45分経過した時点です。その間、三井化学がどのような対応をとっているのか、全く分かりません。不安を抱く生活者は、憶測を始めたり、関係部署に電話をしたり、友人に相談したりし始めます。混乱は刻々と拡散してゆきます。ソーシャルメディア・アカウントを運用していれば、もっと早期に発信できたこともあるのではないでしょうか?

 三井化学に電話問い合わせをした際に、担当者の方は「今後、これらの活用も検討してゆきたい」と話していました。企業にとっては迅速に情報を発信する手段の確保は、リスクマネジメントの一助になるだけでなく、当事者がしっかり対応している事実を明らかにする効果もあります。これは地域住民の生活を守る自治体も同様です。

 

(5)ベンチマークをとっておく
 トラブル発生時に慌てずに的確な対応を実現するためには、公式アカウントの運用ルールを策定することが必要です。しかし、事故の内容や発生タイミングによって①、②のリードタイムは、異なります。第一報をどのような内容で発信するか、第二報をどのようなタイミングで発信するか等、自社に起こりそうなトラブルに類似する事案をベンチマークとしていれば、合理的な設計がしやすくなります。

 

 誰もが情報を発信できる時代です。企業のリスクマネジメントシステムを設計する際に、ソーシャルメディアの「使い方」と「使われ方」を十分に考慮することは、もはや、欠くことが出来ませんね。

 

※更新 ツイートの引用文言が間違っていたので、修正しました。(2012/5/10)

COMMENT

10 件のフィードバック

  1. suzuka0506 より:

    これは貴重なlogになる > 工場プラント爆発事故をソーシャルメディアはどう伝えたか? in the looop 福田浩至
    http://t.co/n4VjcBkT

  2. takeshi_kato より:

    情報の広がり方をチャネル別や仮説・対策としてまとめています。誰もが情報を発信できる時代におけるリスクマネジメント。 / 工場プラント爆発事故をソーシャルメディアはどう伝えたか? http://t.co/6a6cgPwB

  3. taka_hvc より:

    工場プラント爆発事故をソーシャルメディアはどう伝えたか? in the looop 福田浩至 http://t.co/Gnzshfbg

  4. heroicjack より:

    ある案件について、SNSではどのように伝わっているのかを分析・調査した記事。本当はこういうのは国がやって欲しい、思うのは自分だけ?/工場プラント爆発事故をソーシャルメディアはどう伝えたか? in the looop 福田浩至 http://t.co/e7JrylhU

  5. skotaro より:

    工場プラント爆発事故をソーシャルメディアはどう伝えたか? http://t.co/gAmkNlyN (via @summify)

  6. s_nishikawa より:

    工場プラント爆発事故をソーシャルメディアはどう伝えたか? http://t.co/gAmkNlyN (via @summify)

  7. hiroshimanaka より:

    工場プラント爆発事故をソーシャルメディアはどう伝えたか? http://t.co/pJ5KgZTx @LooopsComさんから

  8. journalismlab より:

    工場プラント爆発事故をソーシャルメディアはどう伝えたか? http://t.co/0ZNH5D33

  9. hiroshimanaka より:

    工場プラント爆発事故をソーシャルメディアはどう伝えたか? http://t.co/pJ5FJpKn @LooopsComさんから

  10. sakuzo52 より:

    工場プラント爆発事故をソーシャルメディアはどう伝えたか? [ITL] http://t.co/XVJoZMK9 @LooopsComさんから

AUTHOR PROFILE

  • 著者:福田浩至

ループス・コミュニケーションズ副社長。

企業がソーシャルメディアを運用する際のリスクマネジメントが専門分野(安全に・効果的に運用するための組織構築やガイドライン策定などのサービスを担当しています)。

趣味は「ドカ食い」です。バランスを取るために、ときどき「ジョギング」をしていますが、なかなか均衡がとれません。

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