ソーシャルメディアをリスクマネジメントシステムに組み入れる

福田浩至 | 2013/07/09

ソーシャルメディアをリスクマネジメントシステムに組み入れる

4/8、丸亀製麺のFacebookページに「カビの生えたザルの写真」が投稿され、大きな話題になりました。大手ニュースサイトや人気ブログサービス、そしてテレビのニュースにまで取り上げられる、いわゆる大炎上事件に発展しました。当のFacebookページは、5/9の謝罪メッセージを最後に今日(7/8)まで更新されていません。実質、運用停止状況にあります。この騒ぎが起きるまでは、このFacebookページは、美味しそうなうどんの写真と、それを楽しむファンのコメントに彩られた素敵なコミュニティでした。

 

事例の概要

 

4/8に一人の顧客が「カビの生えたザル」の写真をクレーム付きで丸亀製麺のFacebookページに投稿しました。その後、5/9になって、トリドール社(丸亀製麺の事業会社)がニュースリリースをホームページに掲載しています。

 

「竹すだれがカビだらけ」 丸亀製麺のFacebookページに客が写真投稿 運営企業が公式サイトで謝罪

 

上記のとおり写真投稿から、リリース掲載まで1ヶ月の時が経っています。ニュース記事のタイトルには「1か月間放置」の文字が並びました。しかし、実際の投稿をチェックすると、4/8写真投稿から4時間で丸亀製麺側からの対応コメントが投稿されています。誠実に非を認め、謝罪する内容です。4/8当日だけでも写真投稿者と運用担当者は何度もメッセージを交換しています。しかし、ニュース記事はこれを会社の対応と認めず「1ヶ月放置」と一刀両断にしました。もっと早くニュースリリースを出していれば、或は当日、コメントへの対応だけでなく、公式Facebookページに謝罪メッセージを投稿していれば、ここまでの騒ぎにはならなかったかもしれません。また、4/16には、この顧客は丸亀製麺側の対応に不満を漏らしてもいます。対応にも問題があったのかもしれません。5/9以降の批判は、タイミングだけでなくホームページに掲載されたリリース記事の内容を指摘するものも少なくありませんでした。「カビが発見された店舗名も報告すべき」「文章の責任部著・責任者・問い合わせ先が記載されていない」「具体的な調査結果の報告がない」といった指摘が見られました。 対応次第では、もう少し違う結果が導けたのではなかったのでしょうか?実際、リスクマネジマネジメントの甘さを指摘する意見もネット上に多く見られました。

 

何れにせよ、たった1人の顧客のたった1件の投稿は、上場企業に謝罪リリースを発行させ、これまで大切に育んできた顧客接点の運用を根本から見なおさせることになりました。トリドール社のIR情報によると、丸亀製麺 既存店の4月以降の客数は減少しているように見受けられます。その因果関係を示す会社側からの発表はいまのところ、ありません。

ソーシャルメディアは、その普及と共に、企業に及ぼすダメージも増しています。既に、企業のリスクマネジメントシステムにおいても、配慮が不可欠な時代になっていると考えます。

 

ソーシャルメディアとリスクマネジメントシステム

 

貴方の会社のリスクマネジメントシステムは、ソーシャルメディアのリスクを配慮されているでしょうか?リスクマネジメントシステムの策定は、コンプライアンス部門や管理部門が担当する企業をよくみかけます。 これらの部門が主体的にソーシャルメディアを運用することは、あまりありません。このため、リスクマネジメントシステムにソーシャルメディアの観点が、配慮されていないケースが少なくありません。 ソーシャルメディアが普及した今、リスク要素として考え、リスクマネジメントシステムに反映させることが必要な時代になってきました。企業のリスクマネジメントシステムとソーシャルメディアの関係性は、2つの視点があります。

 

 1.ソーシャルメディアの管理(ソーシャルメディアが生み出すリスクを管理する)

 2.ソーシャルメディアの活用(ソーシャルメディアを活用してリスクを低減する)

 

本稿では、 「1.ソーシャルメディアの管理」視点を、次稿では、「2.ソーシャルメディアの活用」視点を説明します。

 

ソーシャルメディアが生み出すリスクを管理する

 

 ソーシャルメディアが企業に与えるリスクは、何と言っても「ネット炎上」と称される、企業の評判を悪くさせる現象でしょう。現在の我が国のリスクマネジメント規格であるJIS Q 31000では、リスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義しています。この場合の不確かさの影響(リスク)とは、通常期待する企業の評判より悪く評価されることだけでなく、企業の評判が良く評価される事象があった場合、一層向上させる機会があったにも係わらず、逸失した場合もリスクと捉えます。

 つまり、企業は「① 評判を悪くするリスク」と「② 評判を良くする機会を逸失するリスク」を管理することが必要になります。図は、それぞれのリスクを引き起こす主な要因を、リスクの原因毎にまとめたものです。 

 

 

 

A 事業活動  

 

① 評判を悪くするリスク

 

  • 概要

企業の不祥事を目にした人が、ソーシャルメディア上で、ネガティブな行動を取る可能性があります。冒頭の丸亀製麺の事例は、まさにこのケースです。それ以外にも、2011年正月の「すかすかおせち事件」等が、該当します。勿論、大勢の死者が出るような大災害であれば、ソーシャルメディアでの活動によって、生活者の評判が大きく変容することはないでしょう。一方で、比較的軽微な不祥事が企業に及ぼすダメージは、ソーシャルメディアでの拡散次第で大きく異なる可能性があります。拡散を助ける主なポイントには、次のようなものがあります。

 

 ・不祥事の内容

  不謹慎ではありますが、一般生活者にとって内容が面白ければ、拡散が進みます。

 ・視覚的なインパクト

  上記の「すかすかおせち事件」や「カビの生えたざる事件」では、投稿された写真が決め手でした。

  実際、広告より随分見劣りするおせち料理の通販トラブルなど、この事件の前からありました。

  写真が読者にリアリティー(当事者意識)を与えたのです。

 ・ブランドイメージとのギャップ

  ホテルの従業員が顧客としてやってきた有名人の目撃情報を暴露する事案がしばしば話題になります。

  これは、「ホテルとは顧客情報を厳格に管理するのが当然」というイメージとのギャップによるものです。

 

  • リスクマネジメント活動

この手の不祥事は、ソーシャルメディアは「結果として拡散の道具に使われた」に過ぎず、発生を抑止する活動はできません。ソーシャルメディアで実践できるリスクマネジメント活動としては、不祥事が発生した場合の的確な対応(危機管理対応)に活用することがあります。言い換えれば、危機管理対応に、一般生活者との広報手段・対話手段としてソーシャルメディア活用を想定することです。

 

危機管理対応では、アカウンタビリティー(説明責任)を自覚し、嘘をついたり、誤魔化したり、意味もなく公開を遅らせたりしないように心がけます。とりわけソーシャルメディアが、生活者が話題拡散手段として、企業の広報・対話手段としての活用を想定すると、一層に迅速な対応や誠実な態度を貫くことがもとめられるようになりました。このような心構えと行動指針を予め策定し、有事に備えましょう。想定問答集を作成していたり、シミュレーションをしておくことも、機器に直面したときい慌てずに対処できる有効な準備です。的確な対応は、時に批判ではなく、賞賛を得ることも少なくありません。この視点については、次稿で詳しく見てゆきます。

 

また、生活者に当てて、日頃から会社が責任をもって運用しているアカウント情報とその運用目的をホームページ等に掲載しておくことをお勧めします。(当社では、これをコミュニケーション・ガイドラインと称しています。)これらを明らかにしておくことで、なりすましアカウントの発生や、無責任な第三者が広める風評の拡散を防止する効果があります。日頃からしっかりとソーシャルメディアアカウントを運用していれば、なりすましアカウントの発生を阻止できます。

 

もう一つ重要な活動に「傾聴」があります。「傾聴」とはネット上の生活者の発言に耳を傾けることです。カスタマーサービスなどに電話をかけてくる人ほどの憤りはなくても、ちょっとした不満や意見をネット上に漏らすひとは大勢います。これらの声を聞くことで、求められるアカウンタビリティーを理解できます。また、拡散の様子を把握するにもなります。

 

② 評価を高める機会を逸失するリスク

 

  • 概要

素晴らしい事業成果や社会貢献活動等、企業が評判を良くする活動を実践しているのに、そのことが知られていない場合が考えられます。

 

  • リスクマネジメント活動

積極的に広報活動するとともに、日頃から、一般生活者と対話/交流を継続することで、より多くの人に、会社に関心を持ってもらうように働きかけることが考えられます。ソーシャルメディアは、活動を告知する手段、日頃からの生活者との円滑な関係を構築する手段の一つとして、機能させること考えられます。

 

B 社員の行動

 

① 評判を悪くするリスク

 

  • 概要

社員が遵守すべきルールを破り、ソーシャルメディアを通じて拡散してゆくことが考えられます。ルールとは、就業規則や倫理規定、行動規範等の社内ルール、法律・条例を指します。あまりにも当然のことですが、毎日のようにネット上では抵触する行動が話題になっています。ルールを破るケースは、無意識に行う場合と意図的に行う場合があります。前者では、居酒屋で社員同士で話していた顧客の悪口がTwitterに書きこまれたや、設定を誤って本来公開してはならない情報を暴露してしまう例等があります。後者では、2010年の尖閣沖の漁船衝突事故の映像を政府の意向に背き、Youtubeに投稿した海上保安庁職員の例等や、レイプした相手を実名で批判した米国の女性テクニカルライターのがあります。決意のレベルは随分異なりますが、面白半分で飲酒運転や電車内の盗撮行為をTwitter等で告白する人も意図的にルールを破っている事例です。

 

  • リスクマネジメント活動

ソーシャルメディアがなければ、気のおけない仲間うちから広がらなかったネタも、見ず知らずの人が「面白い」とか「ひどい」と感じたら、全世界に拡散してゆく恐れが有ることを社員全員が自覚せねばなりません。このため、社員向けに遵守すべき項目をまとめ(社員向けガイドライン)を作成し、各人に理解を促し、実践してもらうことが不可欠です。

 

また、問題が発生した場合あるいは、発生の懸念が生じた場合に、早期に検知し、対策を講じる仕組みを構築することが大切です。そのために、社員のソーシャルメディアの活用状況を把握・傾聴しておくことも効果があります。但し、個人アカウントの公開を強制すれば、会社が個人の行動を監視していることになります。常日頃から社員同士が親交厚く過ごし、問題があれば、お互いが注意しあうような関係性を育むことがリスク対策にもなると思います。採用活動で不合格になった人や不満を持った退職者も脅威です。職場での円滑な人間関係や採用・退職時の丁寧な処遇等を細やかに配慮することがリスク低減につながります。

 

② 評価を高める機会を逸失するリスク

 

  • 概要

社外に人脈が豊富な人。音楽、スポーツ、ボランティア、学会、勉強会参加等、業務以外で特別な活動をしている人。そのような社員は、活動内容にもよりますが、会社内に良い刺激を与えたり、世間での会社の評判を知らず知らず、高めてくれます。中にはソーシャルメディアを効果的に活用して、人脈を拡大したり、活動の幅を広げている人もいるでしょう。

 

ハーバードビジネスレビュー「ソーシャルメディアで武装する組織」には,このような行動を企業が制度としてバックアップすることが提案されています。「権限を与えられ,問題解決に資源を持つ社員」を HERO(High Empowered Resourceful Operative)と定義し,彼らが積極的に活動できる環境を用意することが大切であることを訴えています。オンライン上で,的確な判断と行動ができる社員に最大限の裁量を与え,会社がバックアップする制度(HERO契約)を用意することを提案しています。

 

  • リスクマネジメント活動

社員向けガイドラインを策定する際に、このような活動を支援するルールを配慮することが考えられます。HERO社員には、特別な資格を設け、通常の社員と異なる運用ルールを設けることも考えられます。また、社員同士のコミュニケーションの活発化を促進することです。お互いの業務内容や志向を把握し、尊敬しあえる・気遣える機会を増やせば、活動の活性化や該当する人材の拡大にも役立つでしょう。社内ソーシャルネットワークを活用することも有効です。オンライン上のコミュニケーションを円滑に楽しむためのトレーニングにもなります。

 

C ソーシャルアカウントの運用

 

① 評判を悪くするリスク

 

  • 概要

企業が責任をもって運用しているソーシャルメディアアカウント、いわゆる公式アカウントを運用している場合、そのアカウントを通じて好戦的な態度をとったり、相手の心情を逆なでする行動をとることが懸念されます。一運用担当者の発言とはいえ、公式アカウントであれば、会社の総意として捉えられることも十分ありえます。例えば、2011年の夏、長万部町のまんべくんTwitterアカウントは、「どう見ても日本の侵略戦争が全てのはじまり」と断定して物議を醸しました。長万部町には、「それが町の見解か?」といった問合せやクレームが多数寄せられました。また、東日本大震災の当日、あるTSUTAYA店舗のTwitterアカウントが「テレビは地震ばっかりでつまらない、 そんなあなた、ご来店お待ちしています」と投げかけ、大顰蹙を買いました。

 

ある企業では「知らないうちに様々な現場部門が、思い思いに公式アカウントを立ち上げて困る」といった話を聞いたことがあります。本稿でも何度も公式アカウントという名称を使っていますが、その定義をしていない企業も少なくありません。

 

  • リスクマネジメント活動

運用者向けのルール(運用者向けガイドライン)を策定し、独自判断でやって良いこと・承認が必要なこと等、行動基準を策定しましょう。策定するだけでなく運用過程における遵守状況を評価することも大切です。また、読者の反応に関心を常に持ちましょう。トラブルの火種を早期に発見出来れば、次の打ち手の選択しも広がります。

 

また「公式アカウントとは何か」を定めましょう。具体的には、公式アカウントが設立の申請・承認プロセス、運用時の約束毎などを定義しなければなりません。これらを定義した文書を、当社では「運用定義書」と称しています。

 

② 評価を高める機会を逸失するリスク

 

  • 概要

今時、ソーシャルメディアアカウントの様々な個性を発揮します。Facebookであれば伊藤ハムの「ハム係長」、Twitterであればニッセンの「スミス」等、人気のキャラクターを作り上げている企業も少なくありません。 勿論、アカウントの目的によって、強い個性が必要な場合と、そうでない場合があります。同じ情報を発信するにも、読者が共感する方法があります。また、個性的な運用をしない場合でも、反感を抱かれにくい方法、好感を抱かれやすい方法を検討しましょう。

 

また、ブログであればPV(page view)やUU(Unique User)、Facebookページであればファン数やリーチ数、Twitterではフォリワー数やリツイート数等が低調であることもリスクになります。常日頃からコミュニティが活性化しており、より多くの人が会社に関心をもっていれば、ソーシャルメディアアカウントの広報機能は強力になるからです。

 

  • リスクマネジメント活動

それらを実践することを阻害する要因があれば、その芽をつみましょう。例えば、必ず上席者の承認をもって投稿内容を確定する運用では、上席者のスタンスによっては個性的な行動は難しくなります。

 

また、運用中のソーシャルメディアアカウントを活性化させることも、リスクマネジメント活動として効果があります。他社のソーシャルメディアアカウントがどのような運用をしているのか、常に関心をもち、調査することも、運用担当者の経験値を高める良い習慣です。

 

ソーシャルメディア・ポリシー

ソーシャルメディアが生み出すリスクを管理するために求められるリスクマネジメント活動としては、以下のようなものがありました。

 

・危機管理対応に、一般生活者との広報手段・対話手段としてソーシャルメディア活用を想定すること

・企業がステークホルダー(生活者、株主、取引先、社員等)と円滑な交流を常に持ち続けること

・ネット上の声に関心を持ち、傾聴すること

・HERO社員の活動を支援すること

・社員同士が、お互いの業務に関心を持ち、円滑な交流を常に持ち続けること

・公式アカウントの円滑な運営を支援すること

・他社/他人の好事例や失敗事例を活発に共有・評価し合うこと

 

そして、これらを実践するために、企業の様々なステークホルダーがソーシャルメディアと接する際に、理解してもらいたい事柄を文書化することも、重要なリスクマネジメント活動です。当社では、これらの文書体系を総称してソーシャルメディア・ポリシー(図)と称しています。各文書の概要を説明します。

 


  • コミュニケーションガイドライン

生活者に向けて、企業のソーシャルメディア活用方針や公式アカウントの紹介をします。


  • 社員向けガイドライン

社員に向けて、公私においてソーシャルメディアに接する場合に、推奨する行動、特に注意してもらいたい行動、禁止事項を定義します。


  • 運用者向けガイドライン

公式アカウント運用者に向けて、運用ルールを定義します。投稿する際の確認事項、コメントに対する返信方針、困ったときの相談窓口等、なるべく自律的にアカウント運用を可能にするための約束事を整備します。


  • 運用定義書

管理者に向けて、公式アカウント開設の申請・承認方法や社外への告知方法、運用時に最低限遵守すべき項目を定義します。 

 

これらの文書体系は、各文書に整合性がとれていることは勿論、就業規則、守秘義務契約、個人情報の取扱規程等の既存の規則とも矛盾があってはなりません。ソーシャルメディア・ポリシーの構築とその内容のメンテナンス、そしてそれらの周知活動は、リスクマネジメントにとっても大切な活動です。

 

 

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:福田浩至

ループス・コミュニケーションズ副社長。

企業がソーシャルメディアを運用する際のリスクマネジメントが専門分野(安全に・効果的に運用するための組織構築やガイドライン策定などのサービスを担当しています)。

趣味は「ドカ食い」です。バランスを取るために、ときどき「ジョギング」をしていますが、なかなか均衡がとれません。

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