焼肉きんぐ炎上事例から学ぶ企業のSNSリスク対策

福田浩至 | 2025/05/28

焼肉きんぐ炎上事例から学ぶ企業のSNSリスク対策

焼肉きんぐ炎上から学ぶSNSリスク管理

目次

事例の概要

2025年3月31日、焼肉きんぐを運営する株式会社物語コーポレーションは「SNS上の投稿に関する当社の対応について」と題するお知らせをウェブサイトに掲載しました。発端は、ある店舗での深夜の泥酔客対応が不適切であったことで、この問題はSNS上で大きな話題となりました。

本件は最近のネット炎上のトレンドを象徴する特徴を持ち、現代の炎上対応について多くの示唆を与える重要な事案です。

 

炎上の経緯と特徴

ThreadsからXへの拡散パターン

今回の炎上には大きな特徴があります。話題の発生場所がMeta社が2023年7月にサービス開始したThreadsだったという点です。

発端となったのは、泥酔客の隣の席にいた顧客(以下、被害顧客)が2025年3月28日22時52分に行ったThreads投稿です。

家族で焼肉きんぐに来てたのですが、席についた頃から隣の席の方が気分悪そうにしており、何度も外に出たり、おえっおえっと苦しそうにしてました。 まあそれは気にしなかったのですが、そのうち大きいゴミ袋をテーブルの上に広げゲロゲロ何回も30分くらい?吐いてました。 お店の人からゴミ袋貰ったらしいです。私達は隣の席なのでテーブルの上で吐いてるので嫌でも見えてしまうし声も聞こえるし気分が悪くなって食欲無くなってしまい後半食べれませんでした。子供がいたので子供達は食べていたので時間いっぱいまでいました。

(投稿の冒頭部分のみ抜粋)

その後、被害顧客は3月31日までにThreadsに12件の投稿を行いました。3月28日(金)の夜から3月29日(土)22:56までは、マネージャーA氏とのやりとりが続き、その対応への不満や憤りを投稿しています。3月30日(日)19:51からはマネージャーA氏の上席者に対応が変わり、憤りも収まっていき、3月31日(月)21:00を最後に顧客の投稿は終息しました。

 

テキストのみでの大きな反響

被害顧客の投稿に対するユーザーのリアクション(いいね、コメント、リポスト、インプレッション)を見ると、最初の投稿が圧倒的に大きな数値を記録しています。これまでの飲食店や小売店での「顧客テロ」「バイトテロ」では、衝撃的な写真や動画が添付されているケースが大多数でしたが、今回はテキストのみでこれほどの反響を呼んだ点が注目されます。

 

プラットフォーム間での話題移転

Threadsは全世界で3.2億人、国内では1000万人を超えるMAU(Monthly Active Users)を持つプラットフォームとして存在感を高めています。3月31日夜にはThreads上では話題が終息しそうな様子を見せましたが、SNS全体では収まることはありませんでした。

3月31日以降、話題の主戦場はXに移りました。XとThreadsで今回の事案に関する投稿のうち表示回数1万回を超える投稿の推移を見ると、3月31日以降はXでの投稿が圧倒的に多くなっています。

 

Xで3月28日~4月6日までで、今回の事案に関連する投稿のうち、表示回数が多い上位10件をリストアップしたものです。水色の行は企業・ニュースアカウント、ピンクの行はフォロワー数が1万人を超える投稿を示しています。

Xでの拡散の起点となったのは、3月29日15:54の投稿(Threadsの最初の投稿から約17時間後)で、Threadsの投稿画面のキャプチャ画像を添付したものでした。

このように、Thredsの最初の投稿画面のキャプチャ画像を添付して投稿しています。

その後、本格的な拡散は3月31日15:52の約300万人のフォロワーを持つ滝沢ガレソ氏の投稿によるもので、Threadsの続報投稿のキャプチャ画像を添付し、事案の顛末を箇条書きで分かりやすく説明していました。

企業の炎上対策フレームワーク

当初、泥酔客による嘔吐で迷惑を被った店舗は被害者でしたが、その対応の拙さによって顧客に迷惑をかける加害者となってしまいました。この事例を教訓として、適切な対処法を検討したいと思います。

企業が実施できる炎上対策は以下の3つに分類されます。

事案の場合、どのような対策を講じることができたでしょうか?

1.リスク対応

今回は金曜日の深夜帯に発生した事案でした。発生時に店舗スタッフが適切に対応できていれば、全く違う結果になっていたでしょう。対策はシステム思考で以下のように考える必要があります。

(1)事象レベル:対応マニュアルの整備 店舗スタッフ向けに対応マニュアルを用意し、他の客に迷惑がかかる場合の適切な対応を定め、指導します。ただし、多種多様なトラブルを網羅したルールの策定は現実的ではありません。

(2)習慣レベル:組織的対応の仕組み化 トラブル対応を一人に任せるのではなく、組織的に対応する運用に改めます。複数名での対応だけでなく、対応内容を関係者にリアルタイムで共有することを習慣づけることが重要です。

(3)構造レベル:早期発見システムの構築 ソーシャルリスニングを定期的に実施し、早期に炎上の火種を組織が把握できる仕組みを構築します。Xだけでなく、企業ごとにリスニングするメディアを事前に選定しておく必要があります。

(4)意識レベル:企業理念の浸透 店舗は何のために存在し、顧客にどのような価値を提供することを目指しているのかを社員一人一人が理解し、実践することが重要です。そのための研修会の開催も考えられます。社員一人一人が会社や店舗のミッションを理解し、自律的に実践できれば、網羅的なルールがなくても今回のようなトラブルは防げるはずです。

 

2.リスク検知

被害顧客が最初にThreadsに投稿したのは2025年3月28日22時52分でした。当初、マネージャーA氏が対応しましたが、「帰る帰らないはお客様の判断。食べる食べないもお客様の判断」「飲食代15%オフをさせていただきます」といった的外れな対応に終始し、被害顧客の憤りをさらに煽る結果となりました。

翌日本社カスタマーセンターにクレームを入れても状況は改善せず、事態が変わったのは2日後の30日夕方、マネージャーA氏の上席者からの謝罪があってからでした。

もし29日のうちにThreadsの被害顧客の連続投稿とその投稿に対する他ユーザーのリアクションやコメントを確認していれば、深刻な事案であることを把握でき、12件の被害者投稿は半分程度で収まっていた可能性があります。Xでの29日以降の拡散も食い止められたかもしれません。

1分でも1秒でも早期に火種に気づくことが重要であり、そのためにはソーシャルリスニング活動の実施が不可欠です。

しかし、すべてのSNSを常にリスニングすることは現実的ではありません。最も拡散力・影響力のあるXのリスニングは必須ですが、火種が生まれるSNSは多様化しています。今回はThreadsでしたが、TikTokやYahoo!ニュース、各種ブログメディアで発生することも考えられます。近年はGoogle Mapのコメント欄や転職サイトなども、ネガティブな話題が生まれやすい場所となっています。

企業によって火種が生まれやすい「場所」は異なるため、まずは自社や自社製品の話題がどのSNSで語られているかを把握することが重要です。

 

3.予防活動

今回の事案について効果的な予防活動として、以下が考えられます。

(1)自社の評判把握 自社や自社製品がネット上でどのように語られているかを把握します。これにより、どのSNSでどういった観点で話されているかを把握し、ソーシャルリスニングの運用方法を定める参考とします。

(2)リスクマネジメントシステムの構築 事案発生時の対応フロー、エスカレーションフローをルールとして定めます。ルール策定後は、社員への浸透と実践のための働きかけを行います。シナリオを作成してシミュレーション(予行演習)を行うことで、ルールの実効性を検証すると同時に、各人が取るべき対応を自分事として理解する機会とします。

 

まとめ

失敗した際に「あの時、こうしておけばよかった」と考えることがあります。自分の行動に対するタラレバを考えても結果は変わりませんが、他社の炎上事例を自分事としてタラレバを考え、対策を準備することは非常に有意義であり、多くの学びを得ることができます。

現代のSNS環境では、火種となる投稿が発生するプラットフォームが多様化し、プラットフォーム間での話題移転も頻繁に起こります。企業は単一のSNSだけでなく、自社に関連する話題が発生しやすい複数のプラットフォームを継続的に監視し、早期発見・早期対応の体制を整える必要があります。

また、根本的には従業員一人一人が企業の理念を理解し、顧客志向の対応を自律的に実践できる組織づくりが最も重要な予防策といえるでしょう。

 

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:福田浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理) 多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。
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