ソーシャルシフト:ドゥ・ザ・ライト・シング 〜 すべての顧客接点で、正しいことができる組織へ〜 ②

斉藤徹 | 2011/10/07

本ブログ記事は、日本経済新聞出版社より11月11日に出版予定の書籍「ソーシャルシフト」からの抜粋※です。Amazonでは 先行予約の受けつけ も開始されましたのでご興味ある方はご確認いただけると幸いです。

※抜粋内容は本書籍と同内容ではございません。本ブログ用にリライティングしていますので予めご了承ください。

 

透明性の時代の新しいリーダーシップ・スタイル

 

経営層からトップダウンで眺める企業像と、現場からボトムアップで見上げる企業像は、同じ実体であってもその見え方が全く異なっている。経営幹部にとって自社組織とは秩序だった経営資源であり、コントロールすべき精密な道具に見える。一方、現場社員にとって自社組織とは得体のしれない管理者の集合体であり、現場で日々起こる問題を先送りするスポンジのような存在だ。

 

企業は顧客からお金をいただくことで存続しているにもかかわらず、社員はいつの間にか給与額を決定する経営サイドに顔を向けるようになっていく。本来、組織は有能な人材の持つエネルギーと専門知識を有効活用するために生まれたにもかかわらず、時に合理的マネジメントスタイルが社員の持つ個性的で多様なパワーを封殺してきた。

 

しかし、新しい時代が到来した。企業にとって都合の良い情報を発信し、顧客の購買行動をコントロールすること。権限管理と情報統制によって、社員の生産行動をコントロールすること。長く続いた統制志向のマネジメントスタイルは、顧客や社員が力を持たないことを前提とした時代のものであり、もはや通用しなくなりつつある。

 

「グランズウェル」の共著者シャーリーン・リー氏は、新著「Open Leadership」において、透明性の時代における新しいリーダーシップ・スタイル「オープン・リーダーシップ」を提言した。オープン・リーダーシップとは、謙虚に、かつ自信を持ってコントロールを手放すと同時に、相手から献身と責任感を引き出す能力を持つリーダーのあり方だ。これは、役員室という管制塔から顧客や社員をコントロールしようとする従来型マネジメントと一線を画すものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出所 : フェイスブック時代のオープン企業戦略

 

古典的なリーダーシップ論のひとつに、ダグラス・マグレガーの著書『企業の人間的側面』の中に登場するX理論Y理論がある。アブラハム・マズローが先に唱えた欲求段階説を基礎としたマネジメント論だ。X理論は「人間は本来なまけたがる生き物で、責任をとりたがらず、放っておくと仕事をしなくなる」という考え方。この場合、命令や強制で管理し、目標が達成できなければ懲罰といった、「アメとムチ」による経営手法となる。それに対してY理論は「人間は本来進んで働きたがる生き物で、自己実現のために自ら行動し、進んで問題解決をする」という考え方だ。

 

マクレガーは著書の中で、権限行使と命令統制による経営手法をX理論として批判し、自律性を重んじるY理論に基づいた経営が望ましいと主張したが、現実社会の中では必ずしもY理論は万能ではなかった。現在、企業におけるマネジメントでは、X理論を基本におきながら、Y理論を組み合わせていくスタイルが一般的だ。しかしながら、ソーシャルメディアの浸透で社員が情報発信力や団結力を持つようになった。そのため、コントロール志向のマネジメントが難しくなり、Y理論しか通用しない局面が増えてきたのだ。

 

一方、商売という側面を見ても、商品のコモディティ化がすすみ、モノではなくサービスの付加価値が重要になってきた。商品を個別カスタマイズすることは困難だが、サービスであればお客様ごとに最適なカスタマイズが可能だ。ただしそれには、お客様一人ひとりの事情を踏まえたヒューマンな応対が重要となる。そのため、おのずと顧客接点である現場社員の重要性が増して来たのだ。事件は会議室ではなく、現場でおきているからだ。

 

ザッポスや東急ハンズが現場主義を取り、コールセンターや店舗の社員に大きな権限委譲を行っているのは、そのような外部環境の変化を先取りしているからだ。そして、現場主義になればなるほど、社員一人ひとりを信頼し、自律的な判断を尊重するオープン・リーダーシップにシフトしていくのは必然の流れと言えるだろう。

 

ソーシャルメディア時代においてHERO(High Empowered and Resourceful Operative、大きな力を与えられ、臨機応変に行動できる社員)の重要性が叫ばれている。これからの時代、主役は現場のHERO、それをバックアップするのはHEROと信頼で結ばれたオープンリーダーだ。

 

ヒット映画「踊る大捜査線パート2」の中で、リーダー不在で自律的に行動する犯罪集団に向かって、青島刑事が叫ぶ言葉がある。「リーダーが優秀なら、組織だって悪くない」青島刑事は、自らの信念を曲げることのない典型的な現場のHERO像であり、それをバックアップするのは現場を信頼し自律的判断を尊重するオープンリーダー、室井警視正だ。彼らは深い信頼の絆で結ばれている。彼らの連携プレーこそ、これからの企業が見習うべきひとつのお手本と言えるだろう。

 

<次回へ続く>

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:斉藤徹

株式会社ループス・コミュニケーションズ代表取締役。

 

1985年、慶應義塾大学理工学部を卒業し、日本IBM株式会社入社。1991年2月、株式会社フレックスファームを創業。2005年7月、株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。20年を超える起業家としての経験とビジネスに関する知見に基づき、ソーシャルシフトの提唱者として「透明な時代におけるビジネス改革」を企業に提言している。著書に『再起動 リブート』(ダイヤモンド社)『BEソーシャル 社員と顧客に愛される5つのシフト』『ソーシャルシフト これからの企業にとって一番大切なこと』(日本経済新聞出版社)、『新ソーシャルメディア完全読本』(アスキー新書)、『ソーシャルシフト 新しい顧客戦略の教科書』(共著、KADOKAWA)など多数。

 

2016年4月から学習院大学経済学部経営学科の特別客員教授に就任。「起業論」「企業経営とトップマネジメント」「企業経営とソーシャルキャピタル」「インキュベーション塾」の講義を担当する。

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