独ペプシコ炎上事例と米P&G成功事例に学ぶ、ソーシャルメディアに染み出す広告体験

斉藤徹 | 2012/11/07

 

「ソーシャルメディアは、ステロイドを飲んだ会話だ」

 

イスラエルの著名な投資家で、インスタント・メッセージのパイオニア、ICQの創業者でもあるヨシ・ヴァルディ氏は、「ステロイド」という過剰な表現を用いてそのパワフルな増幅力を言いあらわした。現実にソーシャルメディアのパワーは絶大だ。米国で初めての黒人大統領を創りだし、中東ではチュニジア、エジプト、リビアの独裁政権を転覆させた。そして、それは企業にとっても対岸の火事ではない。

スカンジナビア航空CEOだったヤン・カールソンは、企業と顧客とのさまざまな接点を「真実の瞬間」と表現した。この言葉はスペイン語 “La hora de la verdad” に由来するもので、闘牛士が牛と接触する瞬間、いわば死命を決する一瞬をあらわしており、カールトン氏のその重要性を語っている。特に彼が力をいれたのは、顧客と社員との属人的な接点だ。「年間約1000万人の旅客が、それぞれ5人のスカンジナビア航空社員に接する。1年間にすると5000万回、平均15秒の間に、顧客の脳裏にスカンジナビア航空の印象が刻みつけられる。その5000万回の『真実の瞬間』こそが、結局スカンジナビア航空の成功を左右する。その瞬間こそ私たちが顧客に、スカンジナビア航空が最良の選択だったと納得していただかなくてはいけない時なのだ」。その施策は、失速寸前だった同社の業績を短期的にV字回復させ、超一流のサービス企業としてその名を轟かせるにいたった。

 

そしてソーシャルメディアは、企業にとって最も大切な「真実の瞬間」を見事に切り取り、パワフルに拡散しはじめた。今や、生活者は企業とのあらゆる接点において「その企業をいかに感じたか」を瞬時にシェアしている。それもわざわざ文章に創意工夫をこらし、写真や動画を添付し、どう友人に自分の気持ちを伝えることができるか、クリエイティブまで施して投稿する。彼らこそが「歩く広告塔」であり、顧客接点こそが「広告を生み出す瞬間」となったのだ。 

 

図1.  購買前、購買時、購買後における主要な顧客接点

 

企業には多くの顧客接点がある。印刷媒体、テレビCM、クーポン、ウェブサイト、ダイレクトメール、メールマガジン、イベントや展示会、メディア掲載記事、投資家への告知情報、自社ブログやコミュニティ、店舗ディスプレイ、店頭広告、コマースサイト、販売員、製品サービスの品質、ロイヤリティプログラム、顧客サービスの案内ページ、顧客サービス担当員、ユーザー講習会、請求書、顧客サーベイ、コミュニティ活動、社会貢献活動、株主総会。そして全局面的な顧客接点となるソーシャルメディアも登場した。

 

企業の顧客体験は、ソーシャルメディアにどのように拡散し、企業にどれほどのインパクトを与えるのであろうか。新著「BE ソーシャル!」では、企業にとって主要な顧客接点である (1)広告宣伝、(2)企業広報、(3)コンタクトセンター、(4)ウェブやソーシャルメディア、(5)店舗や顧客サービス を順に取り上げ、ネガティブな事例とポジティブな事例を対比することで、その本質を考察している。この記事では広告宣伝をとりあげ、独ペプシコと米P&Gの事例を対比してみたい。

 

 

1. 広告宣伝でのネガティブ体験 〜 ドイツ・ペプシコ

 

2008年12月、ドイツのペプシコから「ペプシ・マックス」の広告を依頼された広告代理店BBDO社は、ライフスタイル雑誌のウェブサイトで「自殺をテーマにしたパロディ・クリエイティブ」が読者に受けると考え、豆のような姿をした青いキャラクターに「ペプシ・マックスのたいへん孤独な1カロリー」を演じさせることにした。3本の広告内で、このキャラクターは首にロープを巻いたり、瓶から毒を飲んだり、最後にはピストルで頭を打ち抜き、血しぶきまであがったイラストを開発し、プロモーションがはじまった。

 

最初にこの広告に反応したのは、業界誌であるアドエイジだ。彼らがウェブ記事として取り上げツイートしたところ、すぐさま生活者が反感を持って反応しはじめ、ごく短時間で数十回も転送(リツイート)された。中でも、実の姉を自殺で亡くしたクリスティン・ルー氏が「拝啓、ペプシと広告代理店BBDO様、私の姉は自殺しました。ソーダ飲料を売るのに自殺を使うのは私には不快です。残念ながら」とツイート。人々は彼女の言葉に共感し、ツイッター上で一気に批判が集まる。

 

しばらくして、ペプシコのソーシャルメディア担当部長であるB・ボニン・ボウ氏がこのツイートを発見する。ペプシコはラッキーだった。彼は5週間前に入社したばかりだったが、ブロガーやツイッターユーザーとして多数の読者を持つ有名人で、ソーシャルメディア上でのこうした問題の性質を熟知していたからだ。彼は即座に会話に参加し、自ら親友を自殺で失った経験をつぶやき、心無い広告についてルー氏に謝罪した。さらにその数分後に、別のペプシコ・インターナショナルの広報幹部がツイッターを通じてルー氏に公式に謝罪、問題の広告を取り下げると約束したことで騒ぎは収まった。掲載からわずか2日で広告は取り下げられ、BBDO社はペプシコから広告契約を解除された。

 

 

2. 広告宣伝でのポジティブ体験事例 〜 P&G

 

2010年2月、男性用デオドラント・ブランドでトップシェアを持つP&G「オールドスパイス」は、リサーチ結果から男性コロン消費の鍵は実は女性にあることを掴み、女性の満足度を高めるようなキャンペーン「The man your man could smell like (あなたの彼もこんな香りに)」を開始した。この元NFL選手イザイヤ・ムスタファ氏を起用したセクシーなテレビCMは大ヒット、ソーシャルメディアでもブームとなり、ユーチューブでも数千万回再生される成果をあげる。

 

そして、彼らはソーシャルメディアを巧みに連動させる企てを実施した。生活者からのCMに対する面白い反応や質問に対してムスタファ氏自らが語るレスポンス動画を、なんとユーザー投稿から1時間以内に作成し、ユーチューブにアップしはじめたのだ。レスポンス動画の数は186件、しかも巧みに有名人やスターバックのようなブランドも巻き込むことにも成功した。

 

例えばディグ創業者のケビン・ローズ氏が風邪で寝こんでいるのを聴いて制作した激励動画ではムスタファ氏がこんなメッセージを語った。

 

「ケビン、体の調子はどうだい?よくなっているといいけど。私自身一度は風邪をひいたことがない。というのも身体の98%が筋肉でできていて、筋肉は病気にならないからな。俺の体で筋肉でない1%は耳だ。軟骨でできているからな。だが調べてみると、耳は熱を出さないようだ。これって俺たち2人にとってすばらしいことだって思わないか?つまり、俺は肉体において明らかに勝っていて、お前はネットの天才だから知性で勝っている。お前の明晰な頭脳と、俺の強靭な肉体と、ワイルドでハンサムなこの顔がひとつになったら、どう思う?いや、それはお前にはできない。俺にも。誰にも。なぜなら、それを考え出すと脳が爆発するからな。それは健康的ではない。ではケビン、ありがとう。いや、お前の天才的なコンピュータ言語で言おう。 10010110100001101」

 

それを見たローズ氏が「これまでで最高の動画だよ!」と転送(リツイート)すると、さらにムスタファ氏はこんなメッセージを彼に送る。

 

「ケビンがリツイートしたよ、このクソ野郎。オールドスパイス・マンからの最高の動画ギフトをお届けしよう。ケビン、また会ったな。お前は、男の中の男だ。今、一番大事なのは、さっさと身体治して、俺たちのような男を作ることだぜ。将来の赤ちゃんのためにも、早く良くなってくれ。将来の赤ちゃんのためにな」

 

そして、再びケビンが転送(リツイート)するという見事な連鎖が生まれたのだ。結果としてユーチューブでの動画再生回数は1.5億回、ツイッターのフォロワーは27倍、フェイスブックのファン数は9倍になった。売上は初回の大ヒットCM時点で57%増、ソーシャルメディア連動により107%増となる。カテゴリ・シェアは5%アップの18%を達成し、予想を遥かに超えた効果を得ることに成功した。

 

 

3. 広告宣伝における顧客体験拡散の特徴

 

広告宣伝に関して、ペプシコとP&Gの事例から学べることは何か。それはまず、広告や宣伝がソーシャルメディアと機能的に連動しているか否かに関わらず、生活者はリアルタイムに評価やレスポンスするということ。それを意識する必要があるという点だろう。もはや一方的な広告宣伝はありえない。生活者の反感を買えば炎上するし、共感されると拡散していく。特に事前期待を大きく上回ったり、大きく下回ったりした場合、生活者のリアルタイムな評価が広がっていくことは避けられないようになってきた。P&G事例のように、生活者が驚き、熱狂するような対話を生み出せれば、その相乗的な広告効果は絶大なものとなる。

 

またペプシコ広告の炎上をおさめたボウやP&G広告を成功に導いた主役のムスタファなど、人間性、個人のキャラクターが今まで以上に重要になる。ペプシコでは、ボウの相手の個人的な事情、感情に十分配慮した人間的な応対、速やかな謝罪が功を奏して、炎上は沈静化した。P&Gのケースでは、著名人自らが、臨場感にあふれた、インパクトあるレスポンス動画を作成したことが生活者の驚きを創出し、熱狂へと導いた。また筋書きがないカタチで、インフルエンサーを即興的に巻き込んでいった効果も大きかった。予定調和ではない新鮮さがポイントだろう。ただし、ソーシャルメディアではリアルタイムな対話が大切になるため、キャラクターの作り込みが困難である点に注意したい。実際にオールドスパイスのプロモーションの舞台裏では、ムスタファ自らが面白いユーザー投稿を選び、回答のアイデアも出していた。演じるだけでなく、キャラクター本人の積極的な対話参加が生活者の共感を生む効果をもたらしたのだ。

 

[参考文献]

・日経BP社 ビジネス・ツイッター (シェル・イスラエル)  
・翔泳社 リッスン・ファースト (スティーブン・D・ラパポート)

 

 

同記事は「BEソーシャル!」の挿入コラムからの抜粋を編集したものです。 

 

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11 件のフィードバック

  1. yujinlogue より:

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  2. itachaichai より:

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  3. takeshi_kato より:

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  4. news_pickup より:

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:斉藤徹

株式会社ループス・コミュニケーションズ代表取締役。

 

1985年、慶應義塾大学理工学部を卒業し、日本IBM株式会社入社。1991年2月、株式会社フレックスファームを創業。2005年7月、株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。20年を超える起業家としての経験とビジネスに関する知見に基づき、ソーシャルシフトの提唱者として「透明な時代におけるビジネス改革」を企業に提言している。著書に『再起動 リブート』(ダイヤモンド社)『BEソーシャル 社員と顧客に愛される5つのシフト』『ソーシャルシフト これからの企業にとって一番大切なこと』(日本経済新聞出版社)、『新ソーシャルメディア完全読本』(アスキー新書)、『ソーシャルシフト 新しい顧客戦略の教科書』(共著、KADOKAWA)など多数。

 

2016年4月から学習院大学経済学部経営学科の特別客員教授に就任。「起業論」「企業経営とトップマネジメント」「企業経営とソーシャルキャピタル」「インキュベーション塾」の講義を担当する。

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