ネット炎上リスクを”クチコミ”から診断する方法を考えてみた

福田浩至 | 2021/03/01

ネット炎上リスクを”クチコミ”から診断する方法を考えてみた

「我社のネット炎上のリスクって、一言で言うとどんなものがあるの?」

上司からこんな質問をされたときに、「我社の評判は最近それほど悪くはないので、炎上は起きづらいのでは…」などと感覚的に回答してしまっては、企業のリスク対策として不安が残るのではないでしょうか。

しかし、ネット上のクチコミをしっかり分析すれば、ある程度根拠のある回答を示すことができます。そこで今回は、ソーシャルリスニングを活用し、クチコミから企業の「ネット炎上」リスクを診断する方法を考えました。

 

【1】ネット上のクチコミから炎上リスクを把握するには

まず、企業のネット炎上のリスクを把握するために、企業の担当者は何を見るべきなのでしょうか。以下の3つの着想をもとに、ネット炎上のクチコミやリスクの種類を俯瞰して見ていきます。

 

着想1:クチコミを”関心の種類”ごとに分類する

企業や商品に関するネット上のクチコミは、商品を使用した感想や、発表されたリリース記事に対する意見など、特定の関心ごとについての意見を発信されていることが多くみられます。

その関心ごとを、会社内の組織体制と対応付けて仕分けることで、責任組織が明らかとなり、対策を講じやすくなると考えられます。関心ごとを「顧客体験」「社員のふるまい」「会社からのメッセージ」とに3つに分類した場合、次のような責任部署との対応関係が想定できます。

【話題の関心の分類例】

①顧客体験
サービスを利用した人、利用しようとしている人の感想や意見
・対応部門:営業部門、カスタマサポート、商品企画部門、など

 

②社員のふるまい
社員やアルバイトなどの勤務形態や行動に対する感想や意見
・対応部門:人事・総務部門、など

 

③会社からのメッセージ
会社の発表内容や事業に関する感想や意見
・対応部門:広報部門、経営企画、など

 

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以下、それぞれの関心の範疇を顧客領域社員領域会社領域と記すこととします。

 

着想2:クチコミを”リスクの種類”で分類する

一般財団法人 日本規格協会による「JIS-Q31000 : 2019 リスクマネジメント-指針 」によれば、リスクとは次のように定義されています。

目的に対する不確かさの影響。

注記1 影響とは,期待されていることからかい(乖)離することをいう。影響には,好ましいもの,好ましくないもの,又はその両方の場合があり得る。影響は,機会又は脅威を示したり,創り出したり,もたらしたりすることがあり得る。


これは言い換えると、リスクとは、

・ネガティブな話題が拡散するリスク
・ポジティブな話題が拡散しないリスク


の両面を見る必要があるということです。

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着想3:クチコミの”絶対量とトピック”を把握する

ネット上で企業に関するクチコミの絶対量が多いということは、ネット上での該当企業やサービス・商品の認知につながります。この中で、認知が広がる契機となる話題(以下、「トピック」と記します)が存在します。

トピックが発生した際には、クチコミは急激に増加し、世間の関心が一気に高まります。そこで、例えばTwitter上のクチコミからネット炎上リスクを把握したい場合は、ツイート件数の推移とトピックの発生形態を把握することで、現在の企業や商品・サービスに関する認知レベルと、それを変化させる原因を把握することができると考えられます。

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以上の3つの着想に基づき、企業や商品・サービスに関するネット上の炎上リスクを分析・診断してみたいと思います。

 

【2】ネット炎上リスクを分析してみる|分析事例「出前館」

コロナ禍の中、Uber Eatsや出前館など配達代行事業を行う企業はこの一年間で認知度が飛躍的に高まりました。そこで今回は「出前館」を事例として、ネット上での認知度が高まっていく中で、ネット炎上のリスクはどのようなものが考えられるのかを分析してみます。

なお、今回はクチコミの対象をTwitterとして、Twitterの全量データを検索・分析対象とすることが可能なソーシャルメディア・アナリティクスツール「Brandwatch」をお借りし、データ収集を行っています。

クチコミの観測期間は、2020年1月31日〜2021年1月31日までとしました。

 

①「出前館」を含むツイートの日次件数推移を見る

下のグラフで、青い棒グラフが「出前館」を含むツイートの日次件数推移です。グレーの面グラフはその7日間移動平均をまとめたものです。昨年2月くらいには500件/日にも満たなかったものが、昨年末ごろには2,000件/日以上と、ツイート件数が4~5倍ほど増加しています。この結果からも1年間で出前館の認知度が大幅に高まったことが分かります。

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グレーの面グラフを見ると、昨年4月末にツイート件数が急増するタイミングが確認されますが、拡散が落ち着くと、ツイートの日次件数の7日移動平均値は500件程度に戻っています。恒常的に1,000件/日を超えるようになったのは昨年10月中旬の拡散以降であり、11月からは徐々にツイート件数が増加し、年末あたりから2,000件/日程度に達しています。

 

②クチコミを「関心の種類」「リスクの種類」で分類する

このようなツイート件数が増加した原因を探るために、ここからツイート=クチコミを分類していきます。

まずは「着想1」に沿って、「出前館」を含むツイートを各関心領域、すなわち顧客領域社員領域会社領域のごと、さらに「着想2」のとおりリスクの種類、すなわちネガティブな話題とポジティブな話題に分類します。その結果が以下のグラフです。

1. 顧客領域のツイート

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2. 社員領域のツイート

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3. 会社領域のツイート

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また、グラフの元となる日次ツイート数を週単位でまとめて、日次平均件数の推移を下表にまとめました。

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このツイートの日次平均件数の推移をもとに、「着想3」に基づき、出前館の認知が広がる契機となった話題、すなわちトピックを検出していきます。

 

③話題の拡散タイミング・規模からトピックを検出する

トピックの検出方法はトレンド方式を活用します。さらにトレンド方式により検知したトピックの拡散強度拡散規模を特定していきます。

※トレンド方式・拡散強度の詳しい説明は以下記事をご参照ください。

https://media.looops.net/fukuda/2020/05/20/sociallistening_hashtag01/

 


以下は検知されたトピックの拡散規模を計算し、グラフ化したものです。グラフにより話題の種類ごとにトピックの拡散規模を対比ができるよう、ネガティブの拡散規模をマイナス値で表記しています。

1. 顧客領域のトピック

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2. 社員領域のトピック

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3. 会社領域のトピック

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また、グラフの元となるトピックの発生回数と拡散強度を週単位でまとめて日次平均件数の推移を下表にまとめました。

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ネガティブ・ポジティブの列ごとに色が付いているのが、拡散強度が大きかったタイミングです。それぞれの領域のトピックを見てみましょう。

 

 

顧客領域のポジティブなトピック

期間中、拡散強度が最も大きいポジティブなトピックは、昨年4月30日の出前館公式アカウントの告知投稿「クーポン配布対象者増員」のリツイートでした。クーポンでおごってもらったという、数多くの吉本興業のタレントがリツイートを行っています。知名度のあるタレントを活用することで、クチコミが大きく増えました

 

ポジティブなトピックは上記を含めて14件確認されました。昨年2月、8月は発生しなかったものの、それ以外の期間では数多く発生しています。

 

顧客領域のネガティブなトピック

一方、ネガティブなトピックは5件確認されました。昨年8月中旬までは4月24日の1件だけであり、それ以降で4件確認されています。顧客領域で最も拡散強度の大きいネガティブトピックは以下のサービス利用者の不満でした。

 

また、昨年10月11日のキャンペーンの不正利用に対する出前館の対応方針が、大きく関心を集め、ネガティブなトピックとして検知しています。

 

これは、実質タダ同然で利用できるクーポンが、一人一回の利用に限定しているものの、申し込み時にチェックする仕組みがないため、複数回利用した人が多数発生したことで話題となりました。

今回検出したトピックは、出前館公式アカウントが発した「回収に参ります」という対応方針を受けて、次のような数多くのパロディツイートが拡散したために発生しました。反感を持っているというより、対応方針をネタにしている状況が見て取れます。

 

 

社員領域のポジティブなトピック

期間中、7件のトピックが確認されています。最も拡散したポジティブなトピックは、8月24日の公式アンバサダーに任命されたタレントの以下のツイートでした。社員領域と記していますが、ここには配達員やプロモーションに参加しているタレントも含めています。9月のトピックも別の公式アンバサダーのツイートでした。この期間に積極的にアンバサダーを活用した認知施策が講じられていたことが伺えます。

 

また、期間中2番目に大規模な拡散が確認できたのは、以下のアルバイト求人投稿です。ほかの配達バイトよりもお金を稼げるということ=待遇の良さを訴求しています。

 

 

社員領域のネガティブなトピック

一方で、ネガティブなトピックは期間中に3件確認されました。グラフから分かる通り、ポジティブなトピックに比べて拡散規模が小さいことが分かります。拡散規模が最も大きかったネガティブなトピックは、昨年9月11日の以下の投稿です。市場拡大の中、配達員の指導が後手に回ることを懸念した内容です。このころはUber Eatsのドライバーと比較した投稿も増えています。

 

 

会社領域のポジティブなトピック

ポジティブなトピックの最大値は、昨年10月15~16日にかけての以下の2つのツイートです。退任された中村会長を称賛する投稿と、ストップ高となった株価を紹介する話題です。この企業の業績が伸びていることに呼応したツイートが大量に発生し、ポジティブなトピックとして検知されました。

 

 

会社領域のネガティブなトピック

一方で、ネガティブなトピックは、昨年8月以降に3件検知されています。最も強い拡散を示したのは、昨年10月11日の以下のツイートでした。顧客領域のネガティブトピックとして先ほど紹介した、キャンペーンの不正利用への対応に呼応し、他のキャンペーン対応に関する話題が拡散しています。

 

 

【3】クチコミ分析から分かったこと

以上のような結果から、出前館に関する話題には以下のような傾向があることが分かりました。

 

①ツイート件数の傾向

まず、ツイート件数の推移を見てみましょう。昨年2月には平均500件にも満たなかった「出前館」を含むツイートは今年1月には2,000件を超えるほどに増加しました。それだけこの1年間で認知度が高まったことの証左です。

「顧客」「社員」「会社」の3領域それぞれの傾向を見てみましょう。下のグラフは期中の各領域の日次平均ツイート件数です。

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グラフではネガティブな話題とポジティブな話題の対比ができるよう、ネガティブな話題をマイナス値で表記しています。顧客領域のポジティブな話題のツイートが圧倒的に多いことが分かります。また、顧客体験を通じて芽生えた感想や意見が強く影響することも分かります。

さらに、領域別にネガティブな話題とポジティブな話題のツイートの件数比率(ネガポジ比と記します)の月次推移を見てみましょう。

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ツイート件数が比較的少ない昨年9月ごろまでは、社員領域でネガポジ比は30~50%で推移していましたが、ツイート件数が増えてきた昨年後半は25%程度で落ち着いています。会社領域も、社員領域と同じく昨年後半は30%程度で推移しています。一方で、ツイート件数が最も多い顧客領域では、10%前後で安定しています。

 

②トピックの傾向

次に、トピックについても見てみましょう。下のグラフに3領域のトピックの件数と拡散強度の累計値をまとめました。トレンド方式ではツイート件数推移の変動割合をもとにトピックスを算定しているため、絶対的なツイート件数にかかわらず、変動状態を比較することができます。

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期間中のポジティブなトピックの発生件数は、会社領域で18回、顧客領域で14回、社員領域で8回となりました。拡散規模(累計)では社員領域が最大、次いで会社領域顧客領域の順となりました。

一方ネガティブなトピックの発生件数は、顧客領域6回、社員領域3回、会社領域3回であり、拡散規模(累計)では会社領域が最大となりました。つまり、会社領域のネガティブなトピックは1件あたりの拡散規模は、他領域に比べて大きくなる傾向があることが分かります。また、時系列推移を確認すると、すべての領域においてネガティブなトピックは、昨年8月中旬以前では、4月24日の顧客領域の1件のみ検出されたのみです。

また、認知度の高まりに伴い、ネガティブなトピックも増加する傾向が確認できます。しかし、会社領域では、昨年8月中旬から10月中旬まで3件のネガティブなトピックを確認しましたが、10月中旬以降は検知されていません。

前述の通り顧客領域社員領域ではツイート件数のネガポジ比は安定しているものの、ネガティブトピックが昨年12月後半から複数回発生しています。特に顧客領域では前述のとおり今年1月24日にシステム障害に伴う配達遅延に関する比較的大きなネガティブトピックが見られます。

 

【4】まとめ:ネット炎上リスク診断結果

以上のことから出前館のネット炎上リスクの診断結果をまとめてみました。

 

①現在の評判

期間中にクチコミ=ツイート件数は4倍に増大し、世間の認知は大きく高まりました。つまり、期初と比較すると、出前館に関する話題が拡散する可能性は大幅に高まっています。とりわけ他領域と比較して、顧客領域のツイート件数が圧倒的多数であり、顧客のサービス利用体験がそのまま会社の評判を決定づける状況です。

ネガポジ比率を見てみると、顧客領域のネガティブ比率は10%程度と、提供サービスに対しても好意的な意見が大勢を占めています。

一方で、昨年12月以降、顧客領域社員領域のネガティブなトピックが増加しています。顧客領域ではシステム障害、社員領域では配達員の話題が目立っています。競合サービスと配達員と比較するクチコミも増えており、配達代行業各社の配達員の質に対する関心が高まっていることがうかがえます。

会社領域ではネガティブなトピックは昨年11月以降発生していません。以降は小規模ですが、ポジティブなトピックが継続的に発生しています。10月の対応が適切だったと評価してもよいのではないでしょうか。

 

②懸念されるリスク

【ネガティブな話題が拡散するリスク】

上記のとおり、会社領域はおおむね評判が良い状況が推移しています。しかし、顧客領域では、今年1月に発生したシステム障害がネガティブなトピックとして検知されています。

社員領域では、配達員の業務に関する話題が増加しています。ネガティブな話題が広がるリスクを抑制するには、システムの安定的な稼働を維持することがいっそう求められます。また、配達員の質に対する関心が高まっています。配達員のサービスレベルの向上(交通ルールの遵守など指導を強化)することの優先度を上げることが望ましいといえます。

【ポジティブな話題が拡散しないリスク】

特に会社領域については、最近ネガティブな話題が発生していません。一方で、ポジティブな話題があまり大規模に広がっていない状況も確認できます。積極的に企業イメージを向上させる施策を講じてもよいタイミングではないかと考えます。

また、競合他社と比較して、配達員のサービス品質の評判は優位にあります。この特徴をより伝わりやすくする施策も効果的であると考えます。

以上のように、今回はソーシャルリスニングをもとに、企業のネット炎上リスクを俯瞰して診断する手法を考えてみました。次の記事では、Uber Eatsのネット炎上リスクの分析と出前館との比較を行います。

 

 

ループス・コミュニケーションズでは、企業や商品・サービスのネット上での評判/今後の炎上リスクを分析する「ネット炎上リスク診断サービス」を提供しています。もしも皆さまの会社やブランドについて分析してみたいといったご要望がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

 

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:福田浩至

株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理)

多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。

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