ネット上の話題はどう拡散したか?〜企業の評判を形成しているのは

福田浩至 | 2021/12/10

ネット上の話題はどう拡散したか?〜企業の評判を形成しているのは

皆さんは自社の商品・サービスがネット上で話題になった際、どのように/誰に話題が拡散されたかを把握できていますか?

 

クチコミの拡散傾向を把握することは、企業の評判を理解するだけでなく、企業アカウントやオウンドメディア運用における情報発信のヒントにもできます。企業や商品・サービスに関するクチコミの拡散に影響を与えた話題、その発生源を分析・評価する方法を紹介します。

 

 

【1】クチコミを収集する(事例:カインズ)

本記事ではホームセンターのカインズを事例とし、クチコミの拡散傾向を分析します。

 

コロナ禍の巣ごもり需要によって競争が激化したホームセンター業界の中、2019年〜2020年度と売上首位に立ったカインズは、今年10月にリフォーム事業の強化を発表するなど今後にも注目が集まっています。とりわけ、デジタル戦略を推進している記事を多く目にするようになりました。

 

一方で、世間の人々はカインズの事業活動をどう見ているのでしょうか? 今回は、以下の条件でカインズのクチコミデータを収集します。

 

【クチコミデータの収集条件】
●対象メディア:Twitter
●使用ツール:Brandwatch
●収集条件:「カインズ」「CAINZ」を含むツイート
●収集期間:2020年12月6日〜2021年11月31日

 

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「カインズ」に関するツイート件数推移

 

上のグラフは、今回の条件に該当するツイート件数の日次推移です。期間中の1日あたりの平均ツイート件数は810ツイートでした。グラフを見るとツイート数が急増したタイミングが何度かあるのが分かります。

 

 

【2】拡散に影響を与えたクチコミを抽出・分類する

収集期間において計49回、ツイートが急増した状態を確認できました。急増した状態それぞれに、その拡散のきっかけとなったツイート(以下、トピックと記します)が存在します。

 

下表は、ツイートが急増したタイミング(拡散日)と、拡散の勢いの強さ順(拡散強度)をリストアップしたものです。表では49回のトピックのうち、拡散強度が大きい順に上位10回分のトピックを表示しています。拡散のタイミングと規模の検知基準はトレンド方式に従いました。

 

※トレンド方式や拡散規模の詳しい説明はこちらの記事をご参照ください。

 

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「カインズ」に関する拡散強度が高いツイート(上位10回)

 

表中、左から3列目から順に、以下について記載しています。

●拡散の勢いの強さ(拡散強度
●ツイート内容(一部)
個人法人かの属性
●投稿者のユーザー名
●投稿したユーザーのフォロワー数(フォロワー数は2021年12月2日現在)
●ツイート内容によって以下にグループ分けした内容種別

 

【内容種別の詳細】
・ニュース/TIPS:カインズのプレスリリースや企業にまつわる話題
・告知:自身の営業活動などを発信しているツイート*
・他者の話題:他者が発信した話題に自身の意見を加えて発信したツイート
・顧客体験:顧客がカインズの店舗等での体験を語っているツイート

*カインズのオウンドメディア「となりのカインズ」に執筆したライターが記事掲載されたことを紹介するツイートも含みます。

 

全てのトピックの中で最も拡散したものは「となりのカインズさん」に掲載された記事を、ライター品田遊さん(ダ・ダ・恐山)が紹介した以下のツイートです。

 

表から拡散規模上位のトピックをみると、2位5位にリリース記事「珪藻土マットの自主回収」を取り上げたライブドアニュース公式アカウントのツイートが入っており、注目の集まったニュースであったことが分かります。

 

計49回発生したトピックのうち、ツイートを行った投稿元アカウントの種別をみると、上記を含め個人アカウントによるトピックは35回、企業や組織の公式アカウント*によるトピックは14回となりました。
*本稿では、法人アカウントと記します。

 

なお、複数回のトピックを生み出したアカウントが5件確認できました。最もトピックを量産したのは、リュウジ@料理のおにいさんバズレシピさんでした。期間中4回のトピックを生み出しています。全て「となりのカインズさん」で公開しているレシピ記事の紹介です。フォロワー約200万人も抱えるアカウントですので、その影響力が裏付けられる結果となりました。

 

この他には、カインズ公式となりのカインズさんの公式アカウントに加えて、2020年12月に珪藻土バスマットの自主回収記事をニュース記事として発表したライブドアニュースの公式アカウント国分町味よし公式アカウント(カインズ店舗敷地内のキッチンカー)の4つの法人アカウントがそれぞれ2回のトピックを生み出しています。

 

以下の棒グラフは、上記の計49回のトピックを属性と内容種別ごとに回数を示しています。

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「カインズ」に関するツイート:属性別のトピック数

 

個人アカウントでは、顧客体験に関するトピックが17回告知に関するトピックが13回でした。告知投稿のうち7回は「となりのカインズさん」ライターの投稿です。それ以外は主に著名人の投稿です。例えば、ミュージシャンの山﨑まさよしさんの以下のテレビ番組出演時のツイートなどがあります。

https://twitter.com/official_yama/status/1438016310982557701?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1438016310982557701%7Ctwgr%5E%7Ctwcon%5Es1_&ref_url=https%3A%2F%2Fnote.com%2Flooopscom%2Fn%2Fned44c9fe6400

 

 

【3】顧客体験のトピックを深堀りする

顧客体験に分類された17回のトピックを見てみましょう。下の円グラフは顧客体験に分類されたトピックで顧客が何について語っているかを仕分けしたものです。

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「カインズ」に関するツイート:「顧客体験」トピックの内訳

 

商品に関する顧客体験はどんな投稿?

17回のトピックのうち、9回が商品に関するトピックとなりました。最も拡散したトピックは漫画家の木崎アオコさんの以下の投稿です。

 

フォロワー数15万人です。この投稿を見てまな板を買い求めた人も少なくないのではないでしょうか。こういった投稿がたくさん生まれると企業としてはありがたいですよね。

 

特に拡散したトピックのもう一つが、漫画家の鴻池 剛さんの以下の投稿です。こちらも、100万人を超えるフォロワーを抱えるアカウントです。

 

フォロワー数が多くないと話題の拡散は見込めない・・・いえ、決してそうではありません。

 

顧客体験に区分したトピックの発信アカウントのフォロワー数を見てみると、最低が67人、最大が103万人と大きなばらつきがあります。

 

 

フォロワー数が少ないアカウントでトピックを生み出した投稿はどんな投稿?

フォロワー数が67人であるのに、大きな拡散を引き起こしたツイートが以下です。

 

コロナウィルスが猛威を奮っていた2021年2月の投稿です。厳しい環境化でも営業してくれていることへの感謝を込めた投稿です。その想いに多くの方が共感された証左ですね。

 

フォロワー数204人のアカウントからの投稿も強い拡散を示しました。

 

フクロウが店舗内をカートで移動している写真です。珍しくも、ほのぼのとする写真ですね。目に止まった方も相当いらっしゃったことと思われます。

 

 

【4】まとめ

今回はカインズのクチコミについて、拡散を引き起こした話題(トピック)を特定し、その傾向を調べてみました。また、特に顧客体験に基づくトピックを深掘りしてみました。これらにより、以下のようなことが分かりました。

 

①拡散の発生する頻度や規模を比較できる


これにより、拡散の度合いを起案ごとに比較評価することが可能になります。今回は、カインズを含むツイートを対象として計49回のトピックを検出しました。さらにニュースメディア別に分類目的のクエリを設定し、ツイート数の推移を元に拡散規模を求めることで、ニュースメディア間での発信力を比較することができます。

これを活用すれば、自社アカウントやメディアからの発信やプレスリリースなどの効率的に拡散してくれるメディアを特定することができます。また、自社メディアの記事ごと、ライターごとの拡散を比較することも可能になります。同様に、競合他社で発生したトピックの特徴を定量・定性の両観点から比較・分析することで自社アカウントやメディアの運用に活用できます。

 

②トピックを生み出したユーザの属性が把握できる


今回は、トピックを生み出しているアカウントを法人と個人の属性に分けて傾向を分析しました。特に、個人アカウントにおいては、顧客体験を語っているケースが17回検出されています。うち9回が商品に対する感想でした。単に、商品に対する購入した顧客の感想だけでなく、拡散強度を比較することで、共感の広がりを比較することができます。

 

また、漫画家の顧客体験がトピックスとして評価されたケースが2回ありました。このような方に顧客体験をしてもらえるような施策を考えると、相応な効果が期待できるのではないでしょうか?

 

③トピックを生み出しやすい話題を把握できる

 

フォロワー数が少なくとも、共感を生み出したトピックが確認できました。今回は、エッセンシャルワーカーの方々に感謝の意を伝える投稿とペットが店舗内をカートに乗って移動する様子を写した写真の投稿でした。

 

例えば、

・コロナ対策として工夫していることを積極的に発信する
・店舗に同伴したペットの写真を撮影・投稿するキャンペーン等を実施する*

といったことが、話題を拡散するきっかけにはならないでしょうか?

*カインズでは、”スーパー併設店舗は不可能ですが、それ以外の店舗は可能です。”とルールがあるので、可能な店舗・エリアでの実施が考えられます。

https://customer.cainz.com/support/faq/0000000061/0000000104/000001474


このようにクチコミ分析を活用することで、企業の評判に与える影響を把握することができます。企業やサービス・商品のクチコミ分析を行う上でヒントとなれば幸いです。

 

ループス・コミュニケーションズでは、企業や商品・サービスのネット上での評判/炎上リスクを分析する「リスク診断」をはじめ、クチコミ分析サービスを提供しています。皆さまの会社やブランドについて分析してみたいといったご要望がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

 

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:福田浩至

株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理)

多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。

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