ネット炎上が企業イメージに及ぼす影響を考えてみた

福田浩至 | 2022/06/08

ネット炎上が企業イメージに及ぼす影響を考えてみた

今年3月から5月にかけて、吉野家に関連していわゆる炎上事案が連発しました。

同じ人物や企業・団体がネット炎上が連続的に引き起こすことは「燃料投下」などと称されて、過去から多くの事例があります。広く知られているものとしては、2011年初頭の「スカスカおせち事件」が挙げられます。この事案は、おせちを購入した顧客の投稿写真を発端にして、不衛生な調理現場の写真、代表者の過去の発言なども批判にさらされました。一度注目を集めると「燃えやすい」環境が整うことがわかります。

今回は、今年3月から5月にかけて連発した吉野家に関連する炎上事案をもとに、炎上事案の深刻度を考察してみたいと思います。

 

炎上の深刻度を表す4つのLEVEL

 

過去に執筆した以下の記事「ネット炎上のメカニズム:ネット炎上の拡大プロセス」ではネット炎上の深刻度を下図のように4段階に分類して説明しています。

 

  • LEVEL1:ネット炎上の発生

この段階では、多くはネット上で話題が発生しただけで、あまり多くの人には知られていない状態です。例えば、社員が友人と業務上知り得た秘密をTwitterに投稿してしまったものの、認知がほとんど広がっていない状態です。

  • LEVEL2:ネット社会で認知

ネット社会に広く知られる段階です。しかし、テレビなどのマスメディアではまだほとんど取り上げられていない状態です。

  • LEVEL3:リアル社会で認知

テレビなどのマスメディアで取り上げられ、国民の大多数の方が認知している状態です。

  • LEVEL4:イメージの定着

マスメディアをはじめ様々なメディアで報道が繰り返し続けられる状態です。ネット炎上という言葉では収まらない、社会問題として世間が取り扱うまでに育った状態です。

 

冒頭の「スカスカおせち」の事件では、年初早々からテレビをはじめ様々なメディアで取り上げられ、大きな話題となりました。自社の能力を超えた量の注文を受けたことへの批判、調理場の衛生管理など様々な話題で議論を巻き起こしました。まさにLEVEL4にまで発展した事案でした。

 

ソーシャルリスニングを活用したクチコミの拡散分析

 

今回発生した炎上事例の拡散状況をソーシャルリスニングを活用して分析してみましょう。

下図は「吉野家」を含むツイート件数の日次推移(2022/1/1〜2022/5/15)です。

【クチコミデータの収集条件】
●対象メディア:Twitter
●使用ツール:Brandwatch
●収集条件:「吉野家」を含むツイートのうち、「キャンペーン」に関連するツイートを除外したもの
●収集期間:2022年1月1日〜2021年5月15日
●サンプル率:52%

下図からは、3/25ごろ、4/18ごろ、5/7ごろにツイート件数が急増している状態が確認できます。

この急増の原因については、「なぜ吉野家は「炎上3連チャン」をやらかしたのか わずか1カ月半の間に」でも紹介されている通り、次のような所謂、ネット炎上の原因となる話題がありました。もう少し詳細に見てみましょう。

下表は、収集期間中のツイートの拡散状態を定量化したものです。表中の数字の意味は以下の通りです。

・拡散強度:該当日のツイートの急増度合いを数値化したもの
・拡散期間:ツイートが増大している期間
・拡散規模:拡散期間中の拡散強度の合計値
算定方法はこちらを参考ください。

 

 

今年に入ってから6回の拡散機会があったことがわかります。その中で、特に直近の3つの事案の拡散規模が大きくなっていることがわかります。これらの事案は、全てマスメディアでも取り上げられていますので、炎上の深刻度は少なくともLEVEL3(ネット社会で認知)以上です。

なお本稿では、拡散の原因となった話題のことをトピックと称することとします。

  • トピック1:拡散期間:3/23-3/25、拡散規模:60.3
    220回来店すると丼に名前も入れてくれるキャンペーンに関連したお客様相談室長の高圧的な対応。
    (以下、「名入り丼」事案と称します。)
  • トピック2:拡散期間:4/18-4/20、拡散規模:79.1
    役員(当時)が、大学主催の社会人講座でマーケティング施策を「生娘をシャブ漬け戦略」と呼称。
    (以下、「不適切発言」事案と称します。)
  • トピック3:拡散期間:5/5-5/8、拡散規模:42.3
    採用担当者が、外国籍と思われる学生に対して、説明会参加お断りのメールを配信。
    (以下、「外国籍差別」事案と称します。)

 

3つのトピックの拡散状況の詳細分析

 

それそれのトピックの拡散状況を細かく見ていきましょう。そのために、各トピックのみを収集する検索条件を新たに作成し、各トピックだけに絞り込んだツイートを収集して分析してみました。

 

「名入り丼」事案

下のグラフは「名入り丼」事案だけに絞り込んだツイートの拡散が発生した期間前後の日次件数推移グラフです。

 

拡散のきっかけとなった一連の投稿は以下のです。3/23の投稿ですが、本格的な拡散はグラフのとおり3/24です。

また、前述の表「吉野家の話題が拡散したケース(2022/1/1-2022/5/15)」の2/11-2/12の拡散事案の原因は、トピック1の「名入り丼」事案と同じキャンペーンの目標の220回到達した顧客が投稿した以下のツイートでした。

これに対し、たくさんの返信が寄せられています。

凄い!お疲れ様でした

264万人の頂点すごいです。長期間の修行お疲れ様でした

凄い! どのくらい食べると1位になれるんですか?

そんな中、「名前を入れようとしたらどうやら不可能なようです(´・ω・`)」といった文言に反応された方が、このような返信をされています。

お疲れさまでした。まさか1位とは。。名前は残念でした。転売対策なんでしょうが好きな文字刻ませたら良いのに…(´・ω・`)

この時点で、名入りについては顧客の間で話題になっていたことがわかります。

3/23のトピックは3/26にはおおむね収束したものの、3/31に再び増加しています。これは、弁護士ドットコムが書いた記事「吉野家「お客様相談室」対応めぐり謝罪 「室長は実在します」誹謗中傷を懸念」がYahoo!ニュースに掲載されたためです。Yahoo!ニュースでも1,600件を超えるコメントが寄せられています。

 

「不適切発言」事案

続いて、「不適切発言」事案について見てみましょう。
下のグラフは、「名入り丼」事案同様に「不適切発言」事案だけを絞り込んだツイートの拡散が発生した期間前後の日次件数推移グラフです。また、前述した「名入り丼」事案だけを絞り込んだツイートの日次件数推移グラフも重ねて表示しています。

 

4/18に急速に拡散していますが、拡散の契機となったツイートは4/17に1.8万人のフォロワーを抱える個人アカウントからのツイートです。ツイート内に実際に講座を受講された人のコメントが引用されています。翌4/18にこのツイートをさらに引用した投稿が数多くなされました。また、吉野家からも正式なリリースも発表されました。翌日4/19には解任のリリースも発表されています。問題発言をした講座の実施日は4/16です。発言から3日で解任されたことになります。以降、様々なメディアや論客が考察記事を投稿しています。また、グラフではこのタイミングでは、前述の「名入り丼」事案のツイートも若干増加していることがわかります。今回の事案に触れた方が、1ヶ月前の事案を想起させたことが伺えます。

 

「外国人差別」事案

最後に、「外国人差別」事案について見てみましょう。下のグラフは、前の2つのトピック同様に「不適切発言」事案だけを絞り込んだツイートの拡散が発生した期間前後の日次件数推移グラフです。また、前の2つのトピックを絞り込んだツイートの日次件数推移グラフも重ねて表示しています。

 

「外国人差別」事案の拡散の契機となったツイートは以下です。この投稿は5/3 23:36に投稿されています。この投稿から5/4にまとめサイトが立ち上がりましたが、本格的な拡散はゴールデンウイークが開けた5/6あたりからです。さまざまなニュースサイトでも取り上げられ認知が広がっていきました。このタイミングで、一旦沈積化していた「不適切発言」事案のツイートも急増していることがわかります。

https://twitter.com/K5cc0X/status/1521498867484741632

 

トピックの相乗効果

 

「外国籍差別」事案が発生したタイミングでの他のトピックの拡散状況を見てみましょう。同様に下図に拡散強度を棒グラフにしてみました。5/5から「名入り丼」事案の拡散が確認できます。「外国籍差別」事案は1日遅れて5/6から拡散が始まっています。また、それぞれの拡散のピークは5/7です。収束についても、「名入り丼」事案が5/9まで拡散が続いています。

 

5/5の該当ツイートには以下のようなものがあります。単に個別の事案に対する反応ではなく、続々と発生する複数の事案を取り上げて、企業の体制や体質に対して疑問を呈しています。

 

トピック発生時の定性分析

 

下表は、各トピックが発生したタイミングにおける「トピックスに直接関係する事案以外のツイート」に含まれる頻出単語ランキングです(テレビ番組に取り上げられた際に出演していた芸能人名や類似単語を省略し、出現頻度の多い単語から順番にランキングしました)。

表中、主としてポジティブな話題に使われている単語は青色、ネガティブな話題に使われている単語は赤色、企業自体に対する話題に使われている単語は緑色、様々な使われ方をしていてネガティブ/ポジティブといったはっきりとした傾向がない単語は白色で色分けしています。

 

3/23-3/25「名入り丼」事案の際には、事案に関連するツイート以外は、テレビ番組に取り上げられた話題が上位を占めています。

4/18-4/20「不適切発言」事案の際も、当該事案と「名入り丼」事案以外のツイートはポジティブな話題が上位を占めています。1位〜4位にランキングしている単語は、ちょうどこのタイミングで発表になった新商品「親子丼」の話題です。商品を評価する次のようなツイートも数多く見られます。

それにも増して「不適切発言」事案とタイミングが一緒になってしまったことを同情するツイートも数多く確認できました。

5/6-5/9「外国籍差別」事案のタイミングは、その前のトピックとは潮目が変わっていることがわかります。出現頻度1位は「吉野(家)」です。最も拡散したツイートは以下です。

 

ツイート内には明示的な言葉はありませんが、採用ページには「外国籍社員」を歓迎するメッセージを発信しています。この内容と担当者の行動の乖離に多くの人が関心を持ったことがわかります。これまでのトピックでは、お客様相談室長や役員に論点が集中していましたが、一連のトピックを受けて、このような問題を引き起こし続ける企業体質に対する言及が急増している傾向が明らかになりました。

ちなみに、13位以降の「日本」「政治」などのネガティブな単語は、新しいネガティブな話題に使われているものです。

今回のトピックは、まさにLEVEL3(リアル社会の認知)から社会問題の提起がなされ、LEVEL4(イメージの定着)に進展したプロセスを目の当たりにしたように考えられます。実際に「外国籍差別」事案が発生したタイミングでは、外国人の雇用条件について問題提起をする次のツイートが拡散しています。

そして、今後このような社会問題が議論される際には、今回のトピックが引用されたり、想起されたりすることが多くなります。つまり、吉野家は外国籍の人に対して差別的な対応をする会社といったイメージが定着する可能性が高まったことを意味しています。

 

今回の教訓

 

前述の記事「ネット炎上のメカニズム:ネット炎上の拡大プロセス」では、LEVEL4に至った段階で講じることができる対策について、次のように記しました。

危機管理対応事案として発生した意見に対して個別に対策するというより、将来を見据えて定着しつつあるネガティブな企業イメージを抜本的に変えることに着手することが、建設的な行動だと思います。

この段階では、リアクティブな対応を講じても、一朝一夕にイメージが払拭されることはありません。このようなトピックが発生した真因を探し、導き出した対策を地道に辛抱強く実践すること以外にありません。それよりも、LEVEL4に進展させない対策が極めて重要です。

今回はすでに「名入り丼」事案と「不適切発言」事案という深刻度がLEVEL3まで進展しているトピックが連発しています。このタイミングまでに各トピックの対策を実施すると同時に、LEVEL4に発展しそうなケースを探し出し、対策を講じるほかありません。実効的な施策として次のようなことが考えられます。

  • トピックを引き起こした部署以外のメンバーが他山の石として、自分ごととして行動を見直すこと

自分の業務がトラブルを引き起こす張本人になる自覚を持ってもらうための啓蒙教育を実施することが望まれます。これも、単に座学として学ぶだけではなく、自身の業務がトラブルの発端になる可能性を探るワークショップや、ロールプレイなどを組み入れたアクティブラーニングが効果があるでしょう。

  • 兆候を早期に検知する仕組みを組織として持つこと

具体的な手法としては、継続的なソーシャルリスニング活動と社員向け・顧客向け・採用応募者向けなど様々なステークホルダーに対するアンケートの実施が考えられます。これらがリスクを察知するセンサーになります。センサーを設置するだけでなく、リスクを検知したのちの共有方法・対処方法などリスク対応プロセスをしっかり整えてこそ実効的なマネジメントシステムとして機能することになります。

このようなシステムが整備されていれば、「不適切発言」事案のような社外活動については手の打ちようがないにせよ、少なくとも「名入れ丼」事案や「外国籍差別」事案については、効果的なリアクティブな対処も可能だと思います。

 

ループス・コミュニケーションズでは、ソーシャルリスニングの戦略立案から導入、運用サポートまで、ソーシャルリスニングのビジネス活用支援を行っています。まずはお気軽にお問い合わせください。

 

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:福田浩至

株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理)

多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。

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