兵庫県知事選挙のネットクチコミを分析してみた

福田浩至 | 2024/12/10

兵庫県知事選挙のネットクチコミを分析してみた

兵庫知事選挙が大変な注目を浴びています。マスメディアは、次のような投票に影響を及ぼすメディアのパラダイムシフトを示すニュース記事を数多く配信しています。

 

斎藤知事再選で「SNSに負けた」はメディアの言い訳、自主規制でがんじがらめの報道が信頼を取り戻すには(ダイアモンドオンライン)
斎藤氏の再選はマスコミの敗北、SNSの勝利か 兵庫県知事選 米トランプ氏報道と符合も(産経新聞)

つまり、有権者がテレビ・新聞の報道だけでなく、XやYouTubeなどのSNSの情報も拠り所とする傾向が高まっていることが、今回の選挙結果にも大きく影響を与えたとしています。
今回は、兵庫知事選挙に関するネット上のクチコミを分析してみたいと思います。

話題量の推移

下のグラフは、関連投稿の日次件数推移です。
収集条件は以下の通りです。
対象メディア:X
収集期間:2024/3/1から2024/11/30
収集ツール:brandwatch
抽出条件:”兵庫県知事選” OR “斎藤元彦”
(上記に表記ゆらぎなども抽出対象に含まれるようんに条件を設定)

昨年から今年3月にかけての1日当たりのポスト件数は、400~600件でしたが、24年4月~6月で2,500件、7月~9月で47,000件、10月以降では180,000件とその急増してます。

ネット上で話題となりはじめたのは3月28日のこの投稿です。

これは、朝日新聞デジタルの記事『知事や職員を中傷する文書流布か 退職間際の兵庫県幹部、処分を検討』がYahoo!ニュースに掲載されたものを引用したポストです。

 

論点の推移

 

では、この間どのような話題に関心が集まってきたのか見てみましょう。

下表では、該当する投稿内での頻出語を期間を区切って上位20件を抽出しています。

 

表は、6~9月は月次、9月30日以降は、週次で集計したものを示しています。

表の中では、各単語を以下の種類ごとに色分けをしています。

  • ベージュ:斎藤氏が失職する理由となった単語 「パワハラ」「告発」「疑惑」「百条委員会」「問題」「(お)ねだり」「告発」
  • 黄色:メディア関連単語 「マスコミ」「新聞」「テレビ」「報道」「SNS」
  • グレー:ハッシュタグ
  • 紺色:斎藤元彦氏
  • 緑色:立花隆志氏
  • 茶色:稲村和美氏
  • 青色:奥谷謙一氏
  • 紫色:折田楓氏

斎藤氏が失職する9月末までは、ベージュの単語が上位を占めていますが、10月以降はほかの単語が上位に入り、上位10位以内にはほとんど現れなくなります。

もっとも、失職から半月程度は話題量は減少傾向にありました。世間の関心も少し薄らいだ様相を呈しています。

そのような状況の中、10月7日週から11月11日週までは、グレーのハッシュタグが目立つようになります。これは、選挙戦を意識し、拡散を狙った投稿が急増したことを示しています。

特に#斎藤元彦がんばれ#さいとう元知事がんばれ といった斎藤氏を応援したい意図をもったハッシュタグが目立ちます。#兵庫県知事選挙などの汎用的なハッシュタグよりも多く使用されているところに、勢いを感じますね。これらのハッシュタグを用いて10/7週にもっとも拡散したポストは以下の、【公式】さいとう元彦応援アカウントからの投稿でした。

また、選挙選序盤には優勢と言われていた稲村和美氏の話題が急増しています。しかしながら、立花隆志氏(緑色)は10月21日週に登場すると、最有力候補であった稲村氏の話題量よりも立花氏の話題量のほうが多くなっています。この傾向は、選挙投開票日である11月17日まで続きます。

開票直後のインタビューで稲村氏が「斎藤候補というより…何と争ったのか」と述べていますが、象徴するような事象です。

選挙選が終了した11月18週にはグレー(ハッシュタグ)はなくなり、黄色(SNS,マスコミ、メディア、テレビなど)の単語がランクインし始めます。

冒頭のメディアのパラダイムシフトに関連した話題の割合が多くなっていきました。

このように、話題の関心は目まぐるしく変化しながら選挙戦を終えることになりました。

その後、11月25週にはPR会社社長の折田氏(紫色)の話題が急増したことがわかります。

 

本当にマスメディアの敗北だった?

 

冒頭の記事のように、今回の選挙を受けて「SNSに負けた」、「マスコミの敗北、SNSの勝利」といったセンセーショナルな言葉が並んでいます。

本当にマスメディアはSNSに負けたのでしょうか?

テレビ局は地上波放送、新聞社は発行紙面以外に、ニュースサイトを開設しています。それらのサイトから発信する記事はどの程度、話題として扱われているのか調べてみました。

下のグラフは、今回対象とした投稿のなかで、新聞社やテレビ局に関連する投稿の件数トレンドを示しています。

このグラフでは、大まかなトレンドを把握するために、日次投稿件数を7日間平均に置き換えてグラフ化しました。対象とした投稿の条件は以下の通りです。

  • 新聞社(緑色)
    朝日新聞、読売新聞、沖縄タイムスなど新聞社名を含むもの。(全国紙、地方紙、スポーツ新聞を含む)
    asahi.comnikkei.comなど新聞社が運営するニュースメディアの記事を引用したもの。
  • テレビ局(青色)
    NHK、フジテレビ、関西テレビなどテレビ局名を含むもの。(全国キー局、地方放送局、有料放送局を含む)
    fnn.jpnhk.or.jpなどテレビ局が運営するニュースサイト名を含むもの。
  • オンラインメディア他(橙色)
    Yahoo!ニュースCnet Japanなど、オンラインニュースメディア名を含むもの。文春オンラインダイアモンドオンラインなど雑誌メディアも含む。

 

9/30の斎藤氏辞職から10/31知事選告示日までの間に、新聞社、テレビ局に関連する投稿が相当少なくなっています。しかしながら、11月前半の選挙期間中は開票日に向けて急速に話題が増加していることがわかります。また、大多数は新聞社の話題であることがわかります。

実際にすべての投稿のなかでの割合(SOV:Share of Voice)を見てみましょう。下のグラフは、該当ポストを新聞社、テレビ局、オンラインメディア、その他に分類して、それぞれの件数割合の日次推移を示しています。新聞社関連の投稿は4月には10%を超えたものの、そのほかの期間では5%程度で推移しています。テレビ局関連の投稿は6月のみ10%程度を占めていましたたが、それ以外の月では1~3%で推移しています。この結果を見ると、新聞社とテレビ局関連の話題を集めてもSOVネット上で会話される話題の10%にも満たず、90%以上はそれらとは関係のない話題が占有していることがわかります。とりわけ選挙期間直前にあたる10月前半には5%程度に落ち込んでいます。

 

この割合は、リポストや返信などの投稿も対象としています。

投稿のソースとしてどの程度の割合がマスメディアに関連しているかを把握するため、リポストや返信などを取り除いたオリジナル投稿だけのSOVを見てみましょう。

 

以下は、リポストや返信投稿などを除き、オリジナル投稿のみを対象とした場合の投稿件数の日次トレンドです。

 

 

 

 

 

選挙期間直前にあたる10月前半に、特に新聞社関連の投稿が急増していることがわかります。

最も多くの人に目に触れた(リーチが最大であった)投稿は、神戸新聞NEXTの10/2【独自】兵庫知事選、維新が清水参院議員を擁立へ 衆院くら替え取りやめ、斎藤氏の対立候補に 元アナウンサー(神戸新聞NEXT) を話題とした発言でした。

 

下のグラフは、オリジナル投稿のみを対象とした場合の各カテゴリーのSOVです。新聞社、テレビ局、オンラインメディアの割合を合算すると、3月には8%弱でした.

その後、これらのカテゴリーのSOVは拡大を続け、8月には20%に到達、9月も14%程度を維持しています。

 

 

まとめ

今回の兵庫県知事選挙の投票率は55.65%。前回(2021年)の41.1%から15%弱も増えています。

テレビの視聴率が低下し、新聞の購読者が減少しています。

一方で、前回の選挙では、ここまで全国的な大きな話題にはなっておらず、SNSが今回の有権者の投票に行くモチベーションを与えたことは間違いないでしょう。

下の表は、各月のオリジナル投稿を新聞社、テレビ局、オンラインメディア、その他にYouTubeを加えて、それぞれの投稿件数ベースの割合(SOV)をまとめたものです。

 

本件の話題が増加し始めた7月以降の傾向を見てみると、新聞社では8月をピーク(12%)に11月(7%)とシェアが減少傾向にあります。テレビ局の話題も同様です。

一方で、YouTubeの話題は10月9%、11月11%と増加傾向にあります。こういった数字を見ると、ネットユーザーの利用する情報ソースも新聞やテレビからYouTubeへのシフトが鮮明になっていることがわかります。

下図は、ネット炎上におけるソーシャルメディアが果たす役割を図示したものです。主に話題の発信源となるケースと専ら話題の増幅器として機能するケースが考えられます。

ネット社会の大きな特徴としてサイバーカスケードがあります。これは、ある事柄への特定の意見が急激に多数を占め、先鋭化する傾向をもつという現象です。

自分が目に触れ、共感した意見に感化され、それをSNSを通じて他社に伝える。

これを見た人が同様に拡散してゆきます。つまりSNSが増幅器の役割を果たすことになります。

 

大切なのは拡散される話題の質です。

情報通信白書で実施したアンケートによると、信頼度は「新聞」61.1%、「テレビ」60.7%に対して「インターネット」は28.9%と大きな差があります。
令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書, 総務省, 2024.6.21)

今回は選挙戦がテーマですが、このような傾向は人々の様々な行動においても同様です。本来マスメディアの発信する内容は信頼できる確かな拠り所です。

SNSの影響力が高まり、話題の拡散パワーが段違いに強化された今日においては、期待される役割と責任は一層重要になったのではないでしょうか?

 

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:福田浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理) 多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。
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