本ブログ記事は、日本経済新聞出版社より近日出版予定の書籍「ソーシャルシフト」からの抜粋※です。ループスの新しいメディアである「In the looop」では、最新の書籍内容や執筆コンセプトを早い段階で皆さまに公開させていただくことで、様々なフィードバックをいただければと考えています。さらに今後は、私斉藤だけでなく、ループスが誇るスペシャリスト集団によるブログ記事も随時公開していきます。これまでブログをご愛読いただいている方々はもちろん、新しくループスを知る方々にとって、ためになり役立つコンテンツを提供していきたいと考えています。引き続き応援いただけると幸いです。
※抜粋内容は本書籍と同内容ではございません。本ブログ用にリライティングしていますので予めご了承ください。
社員も経営資源として管理する、旧来型マネジメントの限界
ソーシャルメディアは、生活者に情報を発信し、共有し、交流し、ともに行動する力を与えた。中東における民主化運動による「アラブの春」は、わずか一年でチュニジア、エジプト、リビアと飛び火し、磐石と思われていた長期独裁政権を転覆させ、世界中の独裁者を震撼させた。無名の人々が、理不尽な統制や不透明な情報操作を嫌い、ソーシャルメディアを通じてパワーを結集させた。いわば生活者の「共感」が生んだ革命だ。
それは遠い国の政治ニュースではない。これから企業が晒されるであろう透明化プロセスの幕開けと考えるべきだろう。情報システム部門によるアクセス統制も、スマートフォンの普及により幻想となった。社員は、同じ企業グループの社員、取引先、顧客、さらには家族や友人と、仕事や自社ブランドについても会話をする。社員は企業内の不正を見抜く恐ろしい力を持つ一方、最も熱烈なブランド支持者でもある。
企業の理念や使命、価値観に共感すれば、社員は自律的に動きはじめ、その情熱が他の社員や顧客に伝播していく。一方で、社会正義に反するような行為は社員の反感を買い、彼らの味方である家族や友人によって拡散されていく。
そんな時代を見越して、ザッポスのような最先端企業では、あえて就業時間中もTwitterで社内外と交流することを推奨し、社員による「ピープル・ブランディング」を行っている。しかしながら、それができるのは、ザッポスの理念、社員一人ひとりの行動や考え方、サイトデザイン、顧客との応対、社員間の交流、トップの立ち振る舞いなど、企業活動すべてにおいて裏表なく一貫したポリシーが貫かれているからに他ならない。
顧客接点はもちろんソーシャルメディアだけではない。ウェブサイト、広告、販促用印刷物、店頭、販売担当員、製品サービスの品質、カスタマーサービス。透明性の時代、これらの顧客接点で、統一されたすばらしい顧客体験、ブランド・エクスペリエンスを提供すること。それこそが生活者に共感され、ソーシャルメディアに愛されるキーファクターとなるが、それを旧来型の中央コントロールシステムで制御するのは困難だろう。
マイクロマネジメントという言葉がある。これは管理者である上司が、部下の業務に細かく干渉することだ。マイクロマネジメントを行う管理者は、業務のあらゆる手順を監督し、意志決定を部下に任せない。その結果、必要な意志決定を遅らせ、職場の風通しを悪くさせ、方向性を二転三転させる。
大震災の際、NHKのTwitterアカウント担当者が、放送内容のUSTREAM中継を自らの責任で許可したことが話題となり、ソーシャルメディア上で勇気ある行動に賞賛が集まった。「停電のため、テレビがご覧になれない地域があります。人命にかかわることですから、少しでも情報が届く手段があるのでしたら、活用して頂きたく存じます(ただ、これは私の独断ですので、あとで責任は取るつもりです)」
組織を適切に運用するためのルールは大切だが、必ずしも非常時にはあてはまらない。”Do the right thing” 、正しいことをするのが一番だ。盲目的なルール遵守は、時として誤った行動を促してしまう。目的より手段を優先させることになるからだ。”The end justifies the means”、結果は手段を正当化するという英語のことわざだ。非常時には各人が共通の目的に向い、それぞれが自ら判断して行動することの重要性が増してくる。
企業は、性悪説の法治統制を基本とし、センターから経営資源をコントロールすることが、経営効率を高める最善の手段だったからだ。しかし、生活者も社員も自由に交流できるソーシャルメディアの登場で、ゲームのルールは大きく変わった。クラシックからジャズへ。シンクロナイズドスイミングからサッカーへ。企業は、マネジメントスタイルを刷新する必要性に迫られている。
<次回に続く>