年初に書いた記事「ソーシャルメディアやスタートアップを中心に、海外の2012年予測記事をピックアップ 」は海外メディアの予測記事を集約したものだが、ソーシャル系では「Frictionless Sharing (手間のかからない共有)」が多くの注目を集めていた。その発端となったのは、FacebookがF8で発表したOpen Graphアプリ構想だ。ブログからソーシャルネットワーク、さらにスマートフォン・アプリへと、効率的な情報シェアリングはソーシャルサービスの根幹をなす機能として進化してきた。この記事では、いよいよ実用化がはじまったFacebook Open Graphアプリの概要にふれた後、情報シェアリングの進化、さらにFrictionless Sharingを実現するための投稿デバイスと応用事例まで、この新潮流にフォーカスして多面的に考察していきたい。
Facebook Open Graphアプリの概要
Facebookの持つ人間関係を中心としたデータベースを「Social Graph」という。その「Social Graph」の構成要素をサードパーティーが拡張するための仕様が「Open Graph」だ。したがって、従来のGraph APIが外部から「Social Graph」にアクセスするためのプログラミング・インターフェースであるのに対して、Open Graph APIは外部から「Social Graph」を拡張を可能とするものと考えれば良いだろう。Facebookのデベロッパー向けサイト(Open Graph) にある図を用いて、もう少し具体的に見ていこう。
ソーシャルグラフの基本は「ノード」と「エッジ」であらわされる。ノードとは接点、エッジとはノード間を結ぶ線のことだ。具体的には円形であらわされている人間やアプリがノード、その間を結ぶFriend、Like、Listenなどの関係性がエッジだ。「Open Graph」では、このエッジおよびオブジェクトを拡張するものだ。
技術的に書くと、Facebook APIでは、ノードは「Object」、エッジは「Action」(厳密にいうとFriend以外)として定義される。例えば、斉藤徹(Object) が in the looop(Object) を Read(Action) するというように記述される。in the looopはオンライン上のブログなので「最後のページに達したらReadは完了」とロジックを定義しておけば、読者が最後のページに達した時点でReadというActionの完了をFacebookが自動識別できる。ここでは「曲を聴く」「写真を見る」「記事を読む」などオンライン上の行動を自動識別できるものと、「料理する(Cook)」のように明示的にボタンをクリックすることで手動識別するものの二つのタイプがある点に注意したい。
このOpen Graph APIを使った「Open Graph アプリ」は、別名「タイムラインアプリ」とも呼ばれている。Open Graphアプリの特徴は、(1)独自に定義したオブジェクトやアクションを利用できる (2)ユーザーのタイムラインやティッカー、フィードに表示するために毎回許諾を得る必要がない ことの2点があげられる。ただし現時点では、Action申請に対してFacebookがその可否を都度チェックすると発表 (Submit for Approval) している。これはActionが多様化してOpen Graphアプリが急増すると共有情報の洪水につながること、またプライバシーの侵害になるアプリが登場する可能性があるためだろう。
このOGアプリに関するさらに詳しい技術的解説については、ループス許直人によるブログ記事「今、話題のFacebook open graphアプリとは何か」に記載されている。またFacebookのOepn Graph Protocalについて詳細を知りたい方は筆者の過去記事「Facebook Open Graph ProtocalとセマンテックWebの進化を探る」を参考にしていただきたい。
情報シェアリングの進化
ブログからソーシャルネットワーク、さらに新世代アプリへと、ソーシャルメディア上の情報共有は進化をとげている。サービスによって紆余曲折があり必ずしも線形的ではないが、情報シェアリングのトレンドには次の3つの方向性があると言えるだろう。
- ストリームベース(文章など)から、オーガナイズドフォーム(ボタンなど)へ
- ピープル・セントリック(人をフォロー)から、トピック・セントリック(興味をフォロー)へ
- フロー型(情報が一時的に流れる)から、ストック型(情報が系統だてて蓄積される)へ
去年1年間でトラフィックが40倍になったことで注目される新世代ソーシャルメディア Pinterest はまさに典型例で、これから3つのトレンドをすべてカバーしている。つまり、よりシンプルなアクションで、効果的にセレンディピティを創出し、コレクションとしての実用性も合わせ持つサービスに仕上がっているのだ。そしてこれらのトレンドのうち、 Aの延長上にあるのがこの記事のテーマである Fictionless Sharing、摩擦のない情報共有だ。例えば Pinterest は新世代のブックマークサービスだが、以下の点で既存サービスを凌駕している。
- 情報発見の効率性 … 文字ベースでなく映像ベースのため、認知速度が格段に早い
- 情報登録の効率性 … シェアしたい情報を、テキスト不要、2〜3クリックで登録できる
- 出会いの効率性 … シェア情報の元情報(シェア元やURL)をたどり、同好の人々と出会える
Frictionless Sharing を狭義でとらえると 2 の「情報登録の効率性」が、さらに広義でとらえると1〜3の「発見、登録、出会いの効率性」がキーとなる。ここでは狭義で考えてみよう。オンライン上には、一次情報としての「Webコンテンツ」と、二次情報としての「他人がシェアしたコンテンツ」がある。このうち、前者はブックマークレット、後者はシェアボタン(Like, Retweet, Repinなど)をクリックすることで情報がシェアされるが、これをいかにシンプルな操作で実現するかがポイントということだ。ただし、これらは新しい着想ではない。例えばPinterestのようなページ内の一部情報を抽出するタイプのブックマークレットは、2005年に登場したKaboodle が実現していた機能である。したがって新世代のソーシャルサービスにおいては、次の2点の付加価値がさらに重要になるだろう。
- シームレスな情報登録の効率性 … オンサイトは当然のこと、外部サイト、さらにリアル世界でも単純操作でシェアが完結する
- シンプル操作による思考の効率性 … 機能をシンプルに絞り込むことで、 1〜4 までを流れるように操作できる
4においては、(1)Facebookのようなオンライン情報におけるアクションを自動識別して投稿する仕組み、さらには (2)オフライン情報(近況、写真、動画、場所など) を認識装置(スマートフォン、タブレット、RFIDカード、生体認証装置など)を利用して簡単に投稿できる仕組みが重要となる。実社会のあらゆる情報がクラウドに取り込まれるビッグトレンドの中で、今後はモバイル装置以外にも、さまざまな電子機器、さまざまな読取装置、さまざまな生体認証装置、さまざまなデータ送信装置からの自動的な情報共有に注目が集まるだろう。
また5においては、1〜4のような物理的な操作性だけでなく「思考作業」という摩擦の最小化を図る点がポイントとなる。この考え方は、「心理的取引コスト」、つまり思考することに費やされるコスト(時間や労力)を最小にするという点で「フリーミアムモデル」にも通じるものだ。
Frictionless Sharing を実現するための投稿デバイスと応用事例
現実社会の行動がソーシャルメディア上に投稿されると、その行動を友人が閲覧し、広く伝播していくきっかけになる。企業からすると、利用者の行動そのものが「商品サービスの顧客体験」となるため、いかに簡単に利用者行動をオンラインに投稿してもらえるかが重要なポイントとなる。以下に、さまざまな行動をシェアリングするための典型的なパターンと投稿装置をあげてみたい。(以下、Facebook Open Graphアプリは、Facebook OGアプリと省略)
- ネット接続された機器で音楽を聴く → Facebook OGアプリで行動を自動投稿
- ネット接続された機器でテレビや映画を見る → Facebook OGアプリで行動を自動投稿
- ネット接続された機器でブログや電子書籍を読む → Facebook OGアプリで行動を自動投稿
- GPSとネット接続された機器でジョギングする → Facebook OGアプリで行動を自動投稿
- 脈拍測定とネット接続された機器で運動する → Facebook OGアプリで運動量を自動投稿
- 店舗や会場で 特定商品を推薦(いいね!)する →
(1) ネット接続された機器 : 商品近辺にネット機器を設置。Facebookアプリなどで手動投稿
(2) QRコード : 携帯でQRコードを読取り商品サイトを表示。いいねボタンを手動でクリック
(3) RFIDカード : アカウント情報を記録して配布、読取装置を経由して自動投稿
(4) 生体認証装置 : 指紋、虹彩、顔、音声等で個人を識別、Facebook OGアプリで自動投稿
このうち、6に分類したものの多くは「オンライン to オフライン (O2O)」、つまりオンラインでの活動や効果を、実店舗やリアルイベントへの集客や購買行動に結びつける施策として語られているものだ。O2Oにおいても、いかに実行動を Frictionless にソーシャルメディアに投稿するかがキーとなってくるわけだ。最後に、5つほど典型的なO2O事例をあげる。顧客体験シェアの簡素化施策として参考にしてほしい。
■ナイキ事例 (iPhoneアプリとFacebookアプリ)
2011年1月、オランダのナイキ社は、ランニングの退屈さを払拭し、より楽しめるものにするためのキャンペーン「TAKE MOKUM」というイベントを開催した。これは「Nike+ GPS」というランナーのペースや走行距離、時間、消費カロリーなどを測定できるiPhneアプリとFacebookアプリを組み合わせて参加するもの。利用者はFacebook上アプリの地図の上に、アートな感覚でランニングルートを描くことができ、ユーザーごとのクリエイティブな絵を創りだすことができる。結果として、わずか6週間で9,000人ものランナーを増やすことに成功したという。
■ ディーゼル事例 (QRコード)
2011年5月、ディーゼル・マドリート支店における事例だ。店舗内で、目玉商品の前にQRコードつきのPOPを配置し、それを携帯電話で読み込むとその商品ページが表示される。そこに配置されているFacebookいいね!ボタンを押すとその商品が値引きになるとともに、友人にフィードが伝播する仕組みだ。コマースサイト上の商品につける「いいね!」ボタンをリアル店舗の商品にも配置したものと言えるだろう。ソーシャルメディアを活用した事例ではないが、昨年度カンヌ広告祭メディア部門でグランプリを受賞したTESCOの”Virtual Grocery Store” (地下鉄ポスターの商品に印刷されているQRコードをスマートフォンで読み込むことでオンライン購入でき、商品が自宅に届くという仕組み)などもQRコードを巧みに活用したことで注目を集めたものだ。
■ ルノー事例 (RFIDカード)
2011年4月、オランダで開催されたモーターショーにて、ルノーは来場者にRFIDカードを配布して事前に自分のFacebookアカウントを登録してもらう。展示車の近くにあるRFIDカードリーダーにそのカードをかざすと、ルノーのFacebookページと自分のウォールに車の情報が共有される仕組みだ。驚くべきは12日間で25万人がシェアしたこと。Facebook平均友人数は130人と言われている。単純計算で言うと、一次伝播だけで25万人 × 130人 = 3250万人。それだけの人にルノーの新車情報がリーチしたわけだ。しかもルノー発ではなく友人発のメッセージであり、単純広告より遥かに高い認識率で伝播した点が重要だ。
■メイシーズ事例 (Virtual Fitting Room & iPad)
2010年9月、米国百貨店のメイシーズが、フィッティングルームをFacebookと連動した「マジック・フィッティングルーム」をニューヨーク店舗内でローンチした。季節ごと1000着の洋服をイメージ登録し、バーチャルな着替えを体験できる。そしてお気に入りの服があれば、手元にあるiPadベースの端末を操作し、Facebookの友人にその写真をシェアすることができる仕組みだ。このサービスは大反響を呼び、開始6週間で1.6万人が来店して体験、そのうち1万人以上がFacebookで写真をシェアし、友人に意見を求めている。つまり130万人以上の人々に、自分の友人の顔写真が入ったホットな情報としてリーチしたわけだ。このクチコミ効果で現在の来店者数は増加中で、店舗集客や売上にも貢献している。
■コカコーラ事例 (顔認識端末 Facelook)
2011年8月、イスラエルのコカコーラ社がFacebookと連動して「夏の思い出はコカコーラとともに」というイベントを開催した。プールや遊園地、ライブなどコカコーラが展開するイベント会場に、ユーザーの写真をFacebookのウォールに自動投稿してくれる端末「フェイスルック・マシーン」を設置したのだ。使い方は、まず自分の顔を登録。顔画像認識APIを用いて本人の判別が行われ、それ以降は「自分の顔」だけを用いてFacebookのウォールに写真やコメントを投稿できるというもの。離れている友人とイベント体験を共有し、それが集客を呼ぶという他のオンラインtoオフライン事例と同様の設計になっている。
記事執筆) 斉藤 徹 https://www.facebook.com/toru.saito
ふんなるほど、そーデスカ!やっぱり?全然分からん
ふむふむ
Facebook がリードする Frictionless Sharing を多面的に考察する
今後は、様々な電子機器、読取装置、データ送信装置などからの自動的な情報共有に注目が集まるだろう、と。
あとで
組み込みシステム(デバイス)はクラウドとつながることで新しい価値を作り出すことができると思っていますが、つなげる相手はクラウドでなく Facebook… http://t.co/d50JG1PO
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便利さこそがITの本質だと思う。決して面白さや新しさではない。–Facebook がリードする Frictionless Sharing を多面的に考察する http://t.co/DU8cwZhA @LooopsComさんから
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#1tp
広告事例がいいね!
“Facebook がリードする Frictionless Sharing を多面的に考察する in the looop 斉藤徹” http://t.co/2e3n0i2S
memo: http://t.co/anWNfIXC
Facebookが目指すところは"Frictionless Sharing(摩擦のない共有)" 、なるほど