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大坂なおみ選手を巡る炎上事例から学ぶ:企業が直面するダイバーシティリスク

関根健介 | 2019/10/04

大坂なおみ選手を巡る炎上事例から学ぶ:企業が直面するダイバーシティリスク

ソーシャルメディアが日常生活に深く浸透し、企業やブランドが予期せぬ形で炎上に巻き込まれるリスクは常に存在します。中でも、人種や多様性といったセンシティブなテーマは、一度炎上するとその影響が国境を越え、グローバルな批判へと発展しやすい傾向があります。
本記事では、テニス界のスター、大坂なおみ選手を巡って発生した2つの事例は、その典型であり、広報担当者が学ぶべき多くの教訓を含んでいます。これらの事例から、事前のリスク検知、迅速かつ誠実な対応、そして何よりも多様性への深い理解の重要性を学び、未来の炎上を未然に防ぐための示唆を得ることができます。

 

概要:事実の時系列整理

大坂なおみ選手に関連する炎上事例は、主に以下の二つが挙げられます。

1. 日清食品「カップヌードル」アニメCMにおける「ホワイトウォッシュ」問題

2019年1月11日

日清食品が「カップヌードル」の広告として、漫画『テニスの王子様』とのコラボレーションアニメーションCMを公開しました。このCMでは、大坂なおみ選手が実際の肌の色よりも白く、髪の色も明るい茶色に描かれていました。参考動画

2019年1月16日

国内外からの「白人化(ホワイトウォッシュ)ではないか」との批判を受けて、日清食品は動画を削除しました。

2019年1月24日

日清食品は「配慮が欠けていた」「意図的に白くした事実はない」と謝罪し、今後多様性の問題により配慮する意向を示しました。

2019年1月24日

大坂なおみ選手自身が記者会見でこの問題に言及し、「明らかに私の肌は褐色だ。かなりはっきりしている」「今度また私を描いたりすることがあれば、その時は私に相談すべきだと思う」と述べました。

2. お笑いコンビ「Aマッソ」による差別的発言問題

2019年9月22日

お笑いコンビ「Aマッソ」がイベントで、「大坂なおみに必要なものは?」という問いに対し、「漂白剤。あの人日焼けしすぎやろ!」と発言しました。

2019年9月24日

この発言がネット上で問題視され、Aマッソの所属事務所であるワタナベエンターテインメントが公式サイトで謝罪コメントを発表。二人に対して厳重注意を行い、ダイバーシティ(多様性)意識を高めるための講義を実施したことを明らかにしました。Aマッソの二人も直筆の謝罪コメントを発表し、反省の意を表明しました。

2019年9月29日

大坂なおみ選手は自身のTwitter上で、この問題を取り上げた記事を添付し、“Too sunburned” lol that’s wild. Little did they know, with Shiseido anessa perfect uv sunscreen I never get sunburned(訳:日焼けしすぎって(笑) 資生堂のアネッサパーフェクトUVの日焼け止めがあるから、私が絶対に日焼けしないって、全く分かってないんだね)」と、自身がブランドアンバサダーを務める商品の名前を出したウィットに富んだ切り返しを披露しました。

 

リスク兆候:炎上前後の兆候をどう検知できたか

これらの事例には、炎上を予見し、未然に防ぐための兆候が潜んでいました。

日清食品のケース

過去の類似事案の有無

大坂なおみ選手は、日清のCM以前にも2018年9月にオーストラリアの漫画家によって金髪の白人女性のように描かれ、批判を浴びた経緯がありました。このような特定の人物やテーマに関する過去の炎上事例は、今後のリスクを予測する上で重要なサインとなります。

グローバルな「ホワイトウォッシュ」への意識

「ホワイトウォッシュ」は、特に欧米では映画や広告業界で長年議論されてきた「熱すぎる問題」であり、その概念が日本国内で十分に認識されていなかった可能性が指摘されています。グローバル展開する企業は、各国の文化的・社会的な感度や議論の潮流を継続的にモニタリングする必要があります。

Aマッソのケース

差別的な表現への無知・無配慮

発言内容が「漂白剤」や「日焼けしすぎ」といった直接的な差別を示唆するものであり、特定の属性に対する偏見やステレオタイプを助長するものでした。これは、表現者が多様性や人権に関する基本的な知識・配慮を欠いていたことを示します。

ライブイベントでのリスク管理

イベントやライブパフォーマンスは、その場で生まれる「生」の表現が魅力である一方、予期せぬ不適切な発言が瞬時に拡散するリスクをはらんでいます。事前の内容チェックや、出演者へのコンプライアンス教育の徹底が重要です。

 

炎上原因:

両事例におけるユーザーの怒りのポイントは、共通して「差別的表現」と「多様性への配慮の欠如」に集約されます。

日清食品のケース

アイデンティティの否定: 大坂選手の肌の色を白く描いたことは、彼女の持つハイチ系アメリカ人の父親と日本人の母親という多文化的なアイデンティティを「消し去る」行為と受け取られました。特に、マイノリティの象徴でもある有名人に対して、その特徴を否定するような表現は、深刻な怒りを買います。

企業倫理とグローバルスタンダードへの意識不足: 日清食品は「配慮が欠けていた」と謝罪しましたが、海外からは「白人至上主義を含んだ愚行だ」「恥を知れ」といった厳しい批判が寄せられました。世界的な企業として求められる多様性への意識が不十分であると認識されたことが、炎上を拡大させました。

Aマッソのケース

直接的な人種差別・外見差別: 「漂白剤が必要」「日焼けしすぎ」という発言は、大坂選手の肌の色に対する直接的な侮辱であり、人種差別的な言動に他なりません。ユーモアのつもりでも、人を傷つける発言は決して許されません。

影響力を持つ立場としての無責任: お笑い芸人という公の場で影響力を持つ立場にありながら、他者を傷つける無知な発言をしたことに対し、多くの批判が集まりました。謝罪文で「笑いと履き違えた、最低な発言」「人前に立つ人間として以前に、一人の人間として絶対にあるまじき言動であった」と認めているように、プロフェッショナルとしての自覚の欠如も怒りの原因でした。

 

企業の対応:実施内容と反応

日清食品の対応

実施内容

批判を受けてすぐにアニメ動画を削除し、広報担当者を通じて「配慮が欠けていた」と謝罪。同時に「意図的に白くした事実はない」と釈明し、今後は多様性への配慮を強化する旨を表明しました。

反応

動画の削除と謝罪は迅速でしたが、大坂選手自身が「私の肌は明らかに褐色だ」「次は私に相談すべきだと思う」と発言したことから、一方的な謝罪だけでなく、関係者との対話や事前確認の重要性が浮き彫りになりました。批判の声の中には、「日本のヌードルメーカーによると、この白人の女の子は大坂なおみだそうだ。彼らは彼女の黒人と日本人の特徴を完全に消してしまっている。白人至上主義を含んだ愚行だ」という強い意見もあり、単なる「配慮不足」以上の問題と捉えられました。
Naomi Osaka: Noodle company apologises for ‘white-washing’

Aマッソと所属事務所の対応

実施内容

発言からわずか2日後の迅速な謝罪でした。所属事務所は公式サイトで謝罪文を掲載し、コンビに厳重注意とダイバーシティ意識向上のための講義を実施したことを発表。加納愛子さん、村上愛さん両名も直筆の謝罪コメントを発表し、反省の言葉を述べました。

反応

大坂なおみ選手がこの謝罪から5日後に見せた「大人の対応」とも評されたウィットに富んだ返しは、ネット上で「お笑い芸人よりセンスある返し」「大坂選手の方がよっぽどユーモアがある」と絶賛され、炎上を鎮静化させる効果がありました。この大坂選手の対応により、Aマッソへの直接的な批判のトーンは和らぎましたが、一方で芸人としての「小物感」や「恥ずかしさ」を浮き彫りにする結果となりました。

 

SNSの反応:感情のトーンや拡散ルート

日清食品のケース

感情のトーン

批判は強い怒り、失望、人種差別への非難が中心でした。特に海外のユーザーからは「白人至上主義を含んだ愚行」「馬鹿げている」「ひどい描写だ。恥を知れ」といった直接的で感情的な言葉が多数寄せられました。日本国内でも「デリケートさ、思慮深さが全く感じられない」といった声が上がりました。

拡散ルート

米国Twitterを中心に拡散し、オーストラリアのニュースサイトなど海外メディアもこの問題を大きく取り上げました。これにより、日本国内だけでなく、国際的なニュースとして広範囲に波紋を広げました。

Aマッソのケース

感情のトーン

Aマッソへの批判自体はありましたが、大坂なおみ選手のユーモラスな返しによって、大坂選手への賞賛と共感が主要な感情のトーンとなりました。ネットユーザーからは「お笑い芸人よりセンスある返し」「10歳も若い大坂に大人の対応で切り返されるなんて、恥ずかしい」など、大坂選手の対応を絶賛する声が多く寄せられました。

拡散ルート

大坂選手自身のTwitter投稿が拡散の起点となり、日本国内のニュースサイトやソーシャルメディアで大きく報じられました。このケースでは、大坂選手自身の対応が炎上の様相をポジティブな方向に転換させる役割を果たしました。

 

教訓:学ぶべきポイント+未然防止策

これらの事例は、企業がソーシャルメディア時代の炎上リスクにどう向き合うべきか、重要な示唆を与えています。

1. 多様性への深い理解と感度向上

  • グローバル視点の徹底: 日本社会の均質性ゆえに日常的に意識されにくい人種や差別の問題も、グローバル企業においては最重要課題です。国内外の文化や人種に関する問題意識、歴史的背景を深く理解し、表現が与える影響を多角的に検証する体制を築く必要があります。
  • 社内研修の徹底: 企画・制作部門だけでなく、広報、経営層まで含め、多様性(ダイバーシティ&インクルージョン)に関する定期的な研修を義務化し、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)を排除する努力が不可欠です。

2. コミュニケーション戦略における「対話」と「透明性」

  • 対象者への事前確認・共同制作: 実在の人物、特に多様な背景を持つ方を起用する際は、本人やその関係者との密なコミュニケーション、そして表現内容の事前確認を行うことが極めて重要です。可能であれば、共同でコンテンツを制作することで、本人の意向とブランドのメッセージを融合させ、誤解を防ぐことができます。
  • 「悪意はない」だけでは不十分: 「意図的ではなかった」という釈明は、炎上した際に「悪意はなかった」と捉えられがちですが、受け手がどう感じるかという「影響」の視点が何よりも重要です。企業は、表現が社会に与える影響に責任を持つべきです。

3. ソーシャルリスニングと迅速な危機管理体制

  • 早期のリスク検知: 過去の類似事例や特定のテーマに対する世間の反応を常に監視する「ソーシャルリスニング」を強化し、炎上の兆候を早期に察知できる体制を構築することが不可欠です。
  • 迅速かつ誠実な対応: 万が一炎上が発生した場合、初期対応のスピードと内容がその後のブランドイメージを大きく左右します。責任の所在を明確にし、迅速に事実を把握した上で、誠実な謝罪と具体的な改善策を示すことが求められます。

 

まとめ

ソーシャルメディアにおける炎上は、単なる批判に留まらず、企業の存在意義や社会的責任が問われる場となりつつあります。大坂なおみ選手を巡る一連の事例は、グローバル社会における多様性への理解が、もはや企業の倫理だけでなく、ビジネス上の喫緊の課題であることを明確に示しています。

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:関根健介
ループス・コミュニケーションズ所属。某コンサルティング会社にてWebマーケティングやバイラルマーケティングを経験した後、数年放浪し2011年12月からループスへジョイン。ソーシャルメディアの健全な普及をねがい日々精進しています。関心のあるテーマはO2O・地域活性×ソーシャル・医療×ソーシャル・ソーシャルコマース ま〜ソーシャル全般です。 【座右の銘】 意思あるところに道あり 【Facebook】www.facebook.com/kensuke.sekine.7 【Twitter】 @kensuke_sekine
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