2022年のクリスマスイブに大手宅配ピザチェーン「ドミノ・ピザ」で発生した大規模な遅延騒動は、SNSを中心に「炎上」という形で大きく拡散されました。予約していた商品が届かない、配達が大幅に遅れる、店舗が大混乱に陥るなどの事態が発生し、顧客からの不満が噴出。この騒動は、年一度の特別な日における「お客様との約束」の重みと、「顧客満足」という目に見えない価値の重要性を改めて認識する機会となりました。本記事では、この事例から、企業の広報・マーケティング活動において避けられない繁忙期の炎上リスクと、その未然防止策について学びを深めます。
概要:事実の時系列整理
2022年12月24日のクリスマスイブ、多くの顧客が楽しみにしていたドミノ・ピザの予約商品が、予定時間を過ぎても受け取れない、または配達されないという事態が発生しました。
オンライン予約システムの表示が長時間「商品を準備しています」のままだったり、店舗に電話しても繋がらないなどの報告が相次ぎました。
これに対し、不満を抱いた顧客が店舗に殺到し、店内は人で溢れ、大混乱に陥る様子がSNS上で動画や写真とともに急速に拡散され、Yahoo!ニュースでも速報として取り上げられるまでに発展しました。一部店舗では、警察が出動する事態にまで発展したと報告されています。
具体的な事例:千葉県のドミノ・ピザ八柱店では、19時10分頃に受け取りに行った客が20人ほどの行列に遭遇し、店員に電話したところ「まだ焼き始めていない」「まだ17時台の客のピザを焼いている」と告げられ、最終的に予約時間から約1時間半遅れで商品を受け取りました。その際、謝罪はなかったと客は語っています。
ドミノ・ピザは、この事態を受け、12月25日には公式ホームページで「想定を大幅に上回るご注文をいただき、多くのお客様にご迷惑をお掛けした」として謝罪文を掲載しました。
その後、2023年1月5日の取材で、全体の約2割弱にあたる約180店舗で問題が発生していたことを認め、一部店舗のトラブル原因は本部の支援が不十分だったためであると説明しました。一方で、2021年のクリスマス期間と比較して、全体の3分の1の店舗では顧客満足度が大幅に向上していたとも報告しています。
リスク兆候:炎上前後の兆候をどう検知できたか
今回の炎上には、いくつかの兆候が見られました。
過去の類似事例の繰り返し
ドミノ・ピザでは、今回の騒動の2年前のクリスマスイブにも店舗前に長蛇の列ができ、約100人の行列や2時間待ちがSNSで話題になるなど、同様の騒動が何度か発生していました。
これは、以前から繁忙期のキャパシティ管理に課題があったことを示唆しています。
キャンペーン時の混乱の頻発
2022年には、6月の「Lサイズピザを買うとMサイズ2枚無料」キャンペーンや11月の「ドミノの100円WEEK!」キャンペーン、サッカーワールドカップ日本戦の開催日など、注文が殺到するプロモーション時に、遅延や一部商品の品切れが頻繁に発生し、ネット上で批判の的となっていました。これは、特定のイベントやプロモーションが注文キャパシティを超える可能性を事前に予測できる兆候だったと言えます。
SNSでの積極的な当日注文の呼びかけ
クリスマスイブ当日(12月24日)の0時に、ドミノ・ピザの公式SNSアカウントが「当日の注文も間に合います…!まだ!間に合います…!」と投稿し、注文を促していました。
現場の混乱状況が拡散される中でこの投稿は「あおり文句」と受け取られ、炎上を加速させました。これは、現場のリアルタイムな状況と乖離した広報活動が、顧客の不満を増幅させるリスクがあることを示しています。
🎄メリークリスマスイブ🎅
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当日の注文も間に合います…!まだ!間に合います…!#ドミノピザ #クリスマス https://t.co/6DIWzWQkf3 pic.twitter.com/brNwKE5QFv— ドミノ・ピザ (@dominos_JP) December 24, 2022
現場からの声
騒動後、現役クルーや元クルーからは、システムが欠陥だらけであることや、本部の対応・対策がないことへの不満が噴出していました。
これは、現場の従業員が事前に問題点を認識しており、内部からリスクを検知できた可能性を示唆しています。
炎上原因:ユーザーの怒りのポイント
今回の騒動でユーザーの怒りを買った主なポイントは以下の通りです。
- 約束の不履行:クリスマスイブという特別な日に、予約した商品が時間通りに受け取れない、または全く届かないという「お客様との約束」が守られなかったこと。クリスマスパーティーが中止になった例も報告されています。
- 情報不足とコミュニケーションの欠如:予定時間を大幅に過ぎても予約システムの表示が「商品を準備しています」のままだったり、店舗に電話しても繋がらないなど、顧客が状況を把握できない、あるいは問い合わせができない状態が続いたこと。
- 予約の意味の喪失:予約をしていたにもかかわらず、予約なしの客と同じように長時間待たされる状況に、「予約の意味がなかった」と不満が噴出しました。
- 現場の混乱と従業員への負担:店舗が人で溢れ、多くの配達員が長時間待機している様子が動画や写真で拡散されたことで、現場のキャパシティオーバーや人員不足が露呈しました。
- 繰り返されるトラブルへの不信感:ドミノ・ピザが過去にも同様の遅延や混乱を繰り返していたことから、「またか」「再発防止策が機能していない」という根強い不信感がユーザーの間で広がりました。
企業の対応:実施内容と反応
ドミノ・ピザの対応は、まず12月25日に公式ホームページで謝罪文を掲載しました。初期のメディア取材に対しては、謝罪文以上のコメントはできないと回答していました。
その後、弁護士ドットコムニュースやねとらぼの取材に対し、より詳細な説明と対策を公表しました。
問題の数値化と責任の所在
全体の2割弱にあたる約180店舗で問題が発生したことを把握しており、その原因は「店舗によって対応に差が出てしまったこと、本部の支援が不十分であった」ためだと、本部に責任があることを認めました。これは、以前の「想定外」や「他人のせい」と受け取られかねない説明(サッカー観戦や悪天候など)から踏み込んだ対応と言えます。
実施済みの対策と効果
- ピーク時には全店舗の約7割(672店舗)でオーダーストップを実施した。
- 2021年のクリスマスと比較して、全体の3分の1の店舗では「かつてない」ほど顧客満足度が向上した。
- ワールドカップ時のシステム不備を反省し、マシンラーニングシステムを大幅に改善した。
今後の対応と顧客への補償
- 「Hungry To Be Better(よくすることにハングリー)」の精神で、改善作業を継続していく方針を示しました。
- 待ち時間が長すぎたことなど、ドミノ・ピザ側の不手際により顧客が満足できなかった場合は、商品の作り直しまたは全額返金に応じると明言しました。これは「100%満足保証」に基づくとされています。
- 公式Twitterの当日投稿については「不十分な内容だった」と謝罪しつつも、注文受付可能な店舗を案内する意図があったと釈明しました。
- 社長、CEO、COO、役員の多くが現場経験を積んでおり、現場の状況を把握しているとの見解を示しています。
SNSの反応:感情のトーンや拡散ルート
SNSでの反応は、主に以下のような感情のトーンで拡散されました。
不満と怒り
予定時刻を何時間過ぎても商品が届かない、配達されないことへの強い不満。特に「予約の意味がない」「クリスマスパーティーが中止になった」といった声は、失望と怒りを伴っていました。
混乱状況の共有
店舗の前に長蛇の列ができ、店内が人で溢れている様子を捉えた動画や写真が多数投稿され、混乱の状況がリアルタイムで可視化されました。「ドミノピザ地獄絵図」という表現も使われました。
従業員への同情とねぎらい
現場の店員が顧客からの怒声に対応し、半泣きになっているという報告が広まる中で、多くのユーザーが「クルーの方には感謝しかない」「現場スタッフが一番かわいそう」「従業員を大切にしてほしい」と、疲弊する従業員への強い同情とねぎらいの声を上げました。これは、企業に対する批判とは異なる形で、従業員への共感が拡散されるという特徴的な傾向でした。
企業運営体制への疑問
繰り返されるトラブルに対し、「運営側が現場の状況を把握できていないのではないか」「再発防止策が機能していない」といった、ドミノ・ピザの経営体制やAIシステムへの疑問が呈されました。
情報の拡散ルート
主にTwitter、Instagram、FacebookといったSNSプラットフォームで動画や写真、不満が拡散され、その後Yahoo!ニュースなどの大手ニュースサイトが速報として取り上げることで、さらに広範囲に情報が拡散されました。
【注文パンク ドミノピザに批判の声】https://t.co/VB2xOA6sgg
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) December 25, 2022
教訓:他社が学ぶべきポイント+未然防止策
今回のドミノ・ピザの騒動から、企業が繁忙期やプロモーション活動を行う際に学ぶべき重要な教訓と、未然防止策は以下の通りです。
1. 「お客様との約束」は商売の基本中の基本
- できない約束はすべきではない。顧客の期待を裏切ることは、一瞬で顧客離れや信頼低下を招きます。
- 「当たり前」のサービスが最大の価値:顧客が当たり前だと感じるサービス(時間通りの提供など)が、実は非常に大きな価値を持ちます。
- 特別な日のミスは致命的:クリスマスのような限定的な時期のイベントでの一度の失敗は、長期的な信頼喪失に繋がりかねません。
2. 徹底したキャパシティ管理と人員計画
- 売上・注文計画の精度向上:過去のデータやイベントの特性を考慮し、売上計画、予約・注文数の計画精度を高める必要があります。
- 適切な人員確保:計画に基づき、必要な人員を確実に確保します。自社で不足する場合は、「タイミー」「シェアフル」「バイトル」などのスキマバイトサービスを積極的に活用し、臨時の人員を確保することも検討します。
- 注文コントロール:必要な人員が確保できない場合は、対応可能な注文数に限定して受注をコントロールし、プロモーションも同様に調整すべきです。
3. 危機管理と初動対応の標準化
- 不測の事態への準備:どんなに事前準備をしても、その通りにいかない場合を想定し、緊急事態への対応を標準化して現場で実行できるようにしておくことが重要です。
- 迅速で誠実な情報提供:注文が遅れた場合でも、公式アプリやSNS、メールなどで「現在の状況」や「補償・再発防止策」を迅速かつ丁寧に伝えることで、顧客の不満を和らげることができます。
- 現場への権限委譲と支援:本部が現場の状況を正確に把握し、店舗レベルでのオーダーストップなどの判断や、緊急時の柔軟なオペレーションを可能にするための支援体制を徹底することが不可欠です。
4. 従業員への配慮とモチベーション維持
- 現場負担の軽減:過度な現場負担は、サービス品質の低下だけでなく、企業イメージの悪化(「従業員に優しくない企業」という見方)に繋がります。
- 従業員サポートの強化:スタッフがしっかりとサポートされ、自身の業務に集中できる環境を整えることで、接客や配達といった顧客に近い部分で高いパフォーマンスを発揮できます。
5. システムと現場の連携
- AIシステムの過信を避ける:AIによる注文管理システムは便利ですが、「机上の理論」に陥りがちです。現場の熟練度やイレギュラーな事態を考慮し、現実との乖離がないか検証し、必要に応じて現場からの操作による注文停止機能などを強化すべきです。
- 一方的な情報発信の危険性:本部からの一括でのSNS発信は、店舗ごとの状況に差がある場合、不適切となりえます。現場の状況を正確に反映した情報発信の仕組みを構築するか、個別の店舗からの発信を検討すべきです。
類似事例との比較
ドミノ・ピザの今回の騒動は、近年大手外食チェーンで頻発するトラブルと共通点が多く見られます。
スシローの「おとり広告」問題
2022年6月、スシローはキャンペーン商品を広告したが、多くの店舗で提供されていない期間があり、「おとり広告」と消費者庁から措置命令を受けました。
その後も、キャンペーン開始前の告知や安価なマグロの使用が問題となるなど、約束と現実の乖離、そして同様のトラブルの繰り返しが指摘されました。
すき家の「ワンオペ」問題
2014年にも過重労働が問題視されましたが、2022年1月には再びワンオペ中の従業員が死亡する事故が発生。
これは、労働環境への配慮の欠如と、問題の根本解決がなされないまま繰り返される事態を示しています。
これらの事例に共通するのは、大手チェーンであるにもかかわらず、本部と現場の距離が原因で問題が頻発する点、そして、一度失われた顧客や従業員からの信頼を回復するには長い年月と誠実な努力が必要となる点です。特に、SNS時代においては、問題が瞬時に可視化され、記憶として残りやすいという特性があります。
まとめ:行動につなげる振り返り
今回のドミノ・ピザのクリスマスイブ騒動は、単なるオペレーションミスではなく、「顧客との約束」というビジネスの根幹に関わる問題が引き起こした大規模な炎上でした。繁忙期のプロモーションは売上増大の機会である一方で、企業の真価が問われる正念場でもあります。
炎上リスク担当者としては、以下の行動につなげる振り返りが重要です。
- 繁忙期・イベント時の徹底したリスクアセスメント:プロモーション計画段階で、注文キャパシティ、人員確保、システム負荷などを詳細に評価し、最悪のシナリオを想定した対策を講じること。
- 現場との密な連携と情報の透明性:本部と現場の間に認識の齟齬がないよう、日頃からコミュニケーションを密にし、現場からの声に耳を傾ける体制を構築すること。
- 従業員エンゲージメントの重視:従業員は「人」を基盤とするビジネスの中核です。彼らが安心して働ける環境を整え、サポートすることは、サービス品質の向上だけでなく、企業イメージとブランド力の向上にも直結します。
- 失敗からの学びと継続的な改善:同様のトラブルを繰り返さないためにも、過去の失敗を「まっ、いいか」と安易に捉えず、根本的な原因究明と再発防止策の徹底に「Hungry To Be Better」の精神で取り組む姿勢が不可欠です。
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