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高島屋クリスマスケーキ炎上事例から学ぶ、危機管理とブランド防衛の全貌

関根健介 | 2024/12/29

高島屋クリスマスケーキ炎上事例から学ぶ、危機管理とブランド防衛の全貌

高島屋のクリスマスケーキが崩れて届いた問題は、消費者の期待を大きく裏切り、SNSを中心に瞬く間に「炎上」しました。この事例は、単なる商品トラブルにとどまらず、企業が危機に直面した際の対応のあり方や、サプライチェーン全体のリスク管理、そしてブランド価値の維持について、炎上リスク担当者が学ぶべき多くの教訓を含んでいます。

どんな炎上で、何が学べるか?

大手デパート高島屋がオンラインで販売したクリスマスケーキが、購入者の手元に届いた時点で「ぐちゃぐちゃ」に崩れていたという問題は、2023年クリスマスシーズンに大きな話題となりました。SNSには破損したケーキの画像が多数投稿され、その悲惨な状態は多くの共感を呼び、瞬く間に「クリスマスの悲劇」として拡散されました。

この炎上騒動から、広報活動やマーケティング活動を担当される方が、危機発生時の迅速な情報検知、透明性のある説明責任、そしてサプライチェーン全体にわたるリスク管理の重要性を深く理解するための具体的な学びを得ることができます。

事実の時系列整理

対象商品と販売状況

問題となったのは、オンラインストアで販売された「レ・サンス ストロベリーフリルショートケーキ」(税込5400円)です。約2900個が予約販売され、12月22日から25日にかけて配送されました。

関係企業

  • 販売元: 高島屋
  • 監修: 横浜のフランス料理店「レ・サンス」(渡辺健善オーナーシェフ)
  • 製造: 埼玉県の菓子メーカー「ウィンズ・アーク」
  • 配送: ヤマト運輸

苦情発生と被害規模

苦情は12月23日から入り始めました。12月25日正午までに約530件の苦情・問い合わせが相次ぎ、同日午後8時には約900件に達しました。高島屋が12月27日に発表した時点で、販売された2879個のうち、約28%にあたる807個で破損が確認されました。

高島屋の対応

  • 2023年12月25日、オンラインストアのホームページ上で謝罪コメントを発表
  • 12月27日には記者会見を開き、横山和久専務が謝罪
  • 原因については、製造元や配送委託先への調査を行ったものの、「誠に遺憾ながら原因の特定をすることは不可能」と説明
  • 購入者には返金や商品交換での対応を実施

炎上前後の兆候をどう検知できたか

今回のケースでは、炎上前の段階で複数の兆候を検知することが可能でした。

初期の苦情発生

12月23日には既に「ケーキが崩れていた」という苦情が入り始めており、クリスマス当日(25日)の正午までに約530件に急増していたことは、問題が一部にとどまらない深刻な事態であることを示す明確な兆候でした。

SNSでの画像拡散

12月24日、クリスマスイブにはSNS(X、旧Twitter)上で破損したケーキの写真が多数投稿され、広く拡散され始めました。特に視覚的なインパクトのある商品は、SNSで爆発的な拡散力を持つため、画像付きの苦情投稿は重大なリスク兆候として監視すべきでした。

内部での製造プロセスの変更

高島屋の会見で、イチゴの入荷遅れにより、ケーキの凍結期間が前年の2週間から今年は20〜25時間へと大幅に短縮されていたことが判明しました。事前に凍結試験は行われていたものの、このプロセス変更が潜在的なリスク要因となる可能性は十分に認識できたはずです。

これらの兆候を早期に検知し、リスクの規模を正確に把握していれば、企業の対応の初期段階でより詳細な調査や情報収集に注力できた可能性があります。

ユーザーの怒りのポイント

ユーザーの怒りは、単に商品が破損していたという事実だけでなく、以下の複数の要素によって増幅されました。

クリスマスの「夢」の破壊

クリスマスケーキは、家族や大切な人との記念日を祝うための特別な商品であり、購入者の期待値が非常に高いものです。その主役であるケーキが崩れて届いたことは、記念日という「夢」を壊されたという感情的な落胆を呼び起こしました。

「原因特定不可能」という回答への不信感

約2900個中807個、つまり約3割ものケーキが破損していたにもかかわらず、高島屋が「原因特定は不可能」と発表したことは、消費者の間で強い不信感を招きました。多くの人々は、この発表を責任回避や「うやむやな幕引き」と捉え、企業の誠実さを疑問視する声が上がりました。

関係者への風評被害と監修シェフの反論

原因不明のままの対応は、製造工場や配送会社だけでなく、特に監修を担当した「レ・サンス」のオーナーシェフにも大きな風評被害をもたらしました。シェフがメディアに対し「原因が分からないのはおかしい」「(黙っていたら)店が潰れてしまいかねない」と異例の「タブー」を破る発言をしたことは、高島屋の対応への批判にさらなる燃料を投下しました。

SNSによる視覚的インパクトと共感の拡散

破損したケーキの写真は、その悲惨な状態から視覚的に強烈なインパクトを与え、SNSを通じて瞬時に拡散されました。他のユーザーも自身の体験と重ね合わせ、「かわいそう」「残念」といった共感から、怒りの連鎖が生まれました。

企業の対応と反応

高島屋は、問題発覚後、以下のような対応を行いました。

迅速な謝罪と返金・交換対応

12月25日にはオンラインストアで謝罪コメントを発表し、27日には記者会見を開いて「全ての責任は弊社にある」と謝罪しました。購入者に対しては、返金または商品交換の対応を順次実施しました。再配達を希望する顧客には、担当者が直接手渡しで新しいケーキを届けた事例も報じられています。

反応: 一部の顧客からは、返金や新しいケーキの届け方に対して感謝の声もありました。初期の謝罪の迅速さは一定の評価を得ました。

崩れたクリスマスケーキ、高島屋が謝罪会見 「原因特定は不可能」:朝日新聞

原因特定調査とその結果

製造委託先(ウィンズ・アーク)と配送委託先(ヤマト運輸)に聞き取り調査を行い、それぞれの温度管理や車両故障の有無などを確認しましたが、両社とも問題はなかったと報告されています。イチゴの入荷遅れによる凍結時間の短縮(昨年2週間→今年20〜25時間)はあったものの、事前の凍結試験では問題は確認されなかったとしました。最終的に、高島屋は「原因の特定は不可能」と結論付けました。

反応: この「原因特定不可能」という結論は、「悪手」と厳しく批判されました。専門家からは、「早すぎる」「うやむやな幕引きを狙っている」と指摘され、監修シェフからも原因究明を求める声が上がりました。

再発防止策

製造から顧客へのお渡しまでの管理体制の改善に向け、サプライチェーンの各段階の取引先との関係を強化し、協働で取り組むことを表明しました。具体的には、抜き打ちチェックや高島屋担当者の現場確認など、宅配食品の管理体制を厳格化する方針を示しました。

2024年のクリスマスケーキでは、ケーキの下段に土台となるスポンジケーキを置く、冷凍期間を2週間に延長する、台座を固定する留め金を増やし内箱でケーキが動かないよう梱包するといった具体的な対策を講じました。

SNSの反応:感情のトーンや拡散ルート

SNS、特にX(旧Twitter)では、破損したケーキの画像がリアルタイムで共有され、爆発的に拡散されました。

感情のトーン

  • 初期は「楽しみが台無し」「あまりに酷すぎる」「がっかり」といった落胆や失望、悲しみが強く表現されました
  • その後、「原因不明」という発表に対しては、「ありえない」「納得できない」といった不信感や怒りのトーンが加わりました
  • 一部では、高島屋の迅速な初期対応を評価する声もありましたが、原因特定がされないままの発表後は批判的な意見が主流となりました

拡散ルート

  • 購入者自身が撮影した「ぐちゃぐちゃ」なケーキの画像が、視覚的なインパクトをもってSNS上で連鎖的にリポスト(再投稿)や引用リツイートされ、多くのユーザーの目に触れました
  • インフルエンサー的なアカウントが取り上げたり、ニュースメディアがSNS上の投稿を引用して報じることで、さらに広範な層に情報が伝播しました
  • 一つの投稿が1610万回以上閲覧されるなど、共感と怒りのループが形成され、炎上が加速しました

他社が学ぶべきポイント+未然防止策

今回の高島屋の事例から、企業が学ぶべき重要な教訓と未然防止策は以下の通りです。

1.原因究明と透明性の確保の徹底

消費者にとって、補償だけでなく何が原因で問題が起きたのかという「真実」を知ることは、信頼回復の不可欠な要素です。特に大規模なトラブルの場合、「原因不明」という回答は、不誠実な対応や責任逃れと受け取られ、さらなる不信感と炎上を招きます。

未然防止策: 問題発生時は、徹底的な内部調査と原因特定に全力を尽くし、調査の進捗状況を定期的に、透明性高く情報開示する姿勢が重要です。「まだ不明だが調査は継続している」というメッセージを発信し続けることで、憶測や風評被害の拡大を防ぎ、企業としての誠実さを示すことができます。

2.サプライチェーン全体のリスク管理

自社だけでなく、監修元、製造委託先、配送委託先など、サプライチェーン全体の品質管理・リスク管理を厳格化することが不可欠です。特に季節性の高いデリケートな商品は、流通プロセスの変更や繁忙期の負荷増大が品質に与える影響を事前に評価すべきです。

未然防止策: 委託先任せにせず、定期的な立ち会い検査や抜き打ちチェックを実施し、物流コンサルタントなどの外部専門家の知見も活用して、配送中のリスク要因を徹底的に洗い出し、梱包方法や輸送条件を最適化する必要があります。今回の高島屋が2024年に行ったケーキの安定性向上策(土台の追加、留め金の増強、冷凍期間の延長)は、具体的な改善事例として参考になります。

3.ブランド価値とレピュテーションの保護

百貨店のようなブランド力で勝負する企業にとって、品質や顧客への約束を破ることは、ブランド価値の毀損に直結します。問題が「ぐちゃぐちゃケーキ」のように間抜けなネーミングで記憶されると、長期的なブランドイメージへのダメージとなります。

未然防止策: 危機発生時には、短期的な対応だけでなく、長期的なブランド価値への影響を考慮した経営判断が求められます。また、監修元などのパートナー企業の風評被害にも配慮し、責任の所在を明確にした上での対応が不可欠です。

4.SNS監視と危機管理体制の強化

SNS上で苦情や問題提起が始まり、画像が拡散され始めた時点が、炎上を食い止めるための最初の重要な分岐点となります。

未然防止策: リアルタイムでのSNS監視体制を強化し、初期の苦情件数やSNSでの拡散状況を即座に把握できる仕組みを構築すること。そして、異常を検知した際に、迅速に経営層にエスカレーションし、専門家を交えた危機管理チームが発動できる体制を整えることが重要です。

行動につなげる振り返り

高島屋のクリスマスケーキ炎上事件は、百貨店にとって最も重要な「ブランド力」が、たった一つの商品トラブルと、それに続く危機管理の失敗によって大きく毀損されうることを明確に示しました。

この事例から、炎上リスク担当者は以下の点を今後の活動に活かすべきです。

  • 「原因究明の放棄は、さらなる炎上燃料」: 問題が発生した際、たとえ困難であっても、原因究明に真摯に向き合い、そのプロセスと結果を透明性高く開示することが、消費者や関係者からの信頼を再構築する唯一の道です。安易な「原因不明」宣言は、不信感を募らせ、長期的なブランドダメージにつながります。
  • サプライチェーンの可視化と共同リスク管理: 自社だけでなく、サプライチェーンを構成する全てのパートナー企業との間で、品質管理とリスク管理の基準を共有し、実践することが不可欠です。特にデリケートな商品は、製造から配送に至るまで、各段階での品質チェックとトラブル発生時の連携体制を強化すべきです。2024年の高島屋の改善策は、この学びを活かした具体的な行動と言えるでしょう。
  • 感情的価値の理解と顧客体験の重視: クリスマスケーキのように、単なる「モノ」ではなく「体験」や「夢」を提供する商品の場合、その破損がもたらす顧客の失望は計り知れません。金銭的な補償だけでなく、顧客の感情に寄り添い、失われた体験をどう補償するかに心を砕く必要があります。

高島屋の件は、人為的なミスは避けられないとしても、その後のリカバリー(危機管理)の失敗が、初期のトラブルよりもはるかに大きな問題を引き起こしうるという、経営判断の重要性を浮き彫りにしました。炎上は単なるノイズではなく、企業経営の根幹に関わる重大な警告であると捉え、常日頃からのリスク管理と、万一の際の迅速かつ誠実な対応が、企業価値を守る上で最も重要であることを再認識する機会となるでしょう。

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:関根健介
ループス・コミュニケーションズ所属。某コンサルティング会社にてWebマーケティングやバイラルマーケティングを経験した後、数年放浪し2011年12月からループスへジョイン。ソーシャルメディアの健全な普及をねがい日々精進しています。関心のあるテーマはO2O・地域活性×ソーシャル・医療×ソーシャル・ソーシャルコマース ま〜ソーシャル全般です。 【座右の銘】 意思あるところに道あり 【Facebook】www.facebook.com/kensuke.sekine.7 【Twitter】 @kensuke_sekine
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