昨年からインターネットやSNSで続く亀田製菓の不買運動は、同社の会長CEOの発言や一部製品の原材料に関する情報がきっかけとなり、大きな炎上へと発展しました。
この騒動は、企業の意図とは異なる情報が拡散され、消費者の間に誤解と強い反発を生む典型的な事例として、今後の広報活動やプロモーション活動において重要な教訓を与えています。
特に、「雑な情報操作」にいとも簡単に操られて激しい敵意をむき出しにしてしまう「純粋で心優しい日本人たち」の存在が浮き彫りになり、特定の国や民族、主義主張への憎悪を煽る「排斥運動」や「テロ行為」にまで繋がりかねない情報戦の危険性を示唆しています。
概要:事実の時系列整理
亀田製菓の不買運動の主な流れは以下の通りです。
- 2024年12月15日(または16日): AFP通信が「インド出身の亀田製菓会長『日本はさらなる移民受け入れを』」という記事を配信しました。
- 記事配信直後: この発言に対して「愛国心溢れる人々」が強く反発しました。同時に、亀田製菓の「梅の香巻」に中国産のもち米が使われているという情報も拡散され、ネットやSNSでは「汚染チャイナ米を撒き散らす売国企業」などと非難され、「不買」が呼びかけられました。
- 株価への影響: インタビュー翌日には、亀田製菓の株価が大きく下落しました。
- 一時的な沈静化と再炎上: 一部で冷静な指摘が出始め、ヒステリックな声は収まりつつあったものの、2025年1月14日には、台湾で乳児向け米菓「野菜ハイハイン」から日本の基準値より厳しい台湾の基準値をわずかに超えるカドミウムが検出され、廃棄・積み戻し処分になったというニュースが流れ、再び「アンチ亀田」のX投稿が噴出しました。
新潟関連ニュース 亀田製菓製品で台湾基準超のカドミウム 日本の基準値は下回る #新潟NEWSWEB https://t.co/f9ky1CdTIC https://t.co/f9ky1CdTIC #NHK #新潟
— NHKにいがた (@nhk_niigata) January 16, 2025
リスク兆候:炎上前後の兆候をどう検知できたか
この炎上において、企業が検知できた可能性のあるリスク兆候は複数存在します。
- SNS投稿数の急増とネガティブ化: 「移民」記事公開直後の3日間で、「亀田製菓」を含むX投稿数は40万件を超え、2024年12月~2025年1月の2ヶ月間では、前の2ヶ月間(2024年10~11月)と比較して20.3倍にも増加しました。さらに、ネガティブな文脈での投稿比率が、記事前の1.2%から27.1%へと激増しています。
- 頻出ワードの変化: ネガティブ判定されたX投稿では、「移民」「不買」「中国産」「会長」「汚染」「株価」「インド人」「梅の香巻」「カドミウム」といった特定のワードが頻出しました。
- 店頭状況の拡散: 不買運動の「成果」として、スーパーなどの店頭で亀田製菓の商品が売れ残っている写真がSNSに投稿される動きが見られました。
これらの兆候は、ソーシャルリスニングツール(例:Meltwater)を用いて、ブランド名や関連キーワードの投稿数、センチメント(ポジティブ・ネガティブ比率)、トレンドワードを継続的に監視することで、早期に把握できた可能性が高いでしょう。
特に、投稿数の異常な増加やネガティブ感情の急激な高まりは、即座に社内アラートを発動すべきサインとなります。
炎上原因:ユーザーの怒りのポイント
ユーザーの怒りのポイントは、主に以下の誤解や懸念に集約されます。
- CEOの「移民」発言の誤解: インド出身のジュネジャ・レカ・ラジュ会長CEOは、実際には「日本はさらなる移民受け入れを」とは一言も発言しておらず、「日本の労働力不足の解決策として海外から人材の受け入れが重要になる」と語っただけでした。しかし、AFP通信の記事タイトルが「移民受け入れ」と「限りなく誤訳に近い意訳」で配信されたため、移民問題に敏感な層からの強い反発を招きました。
- 中国産原材料への懸念: 「梅の香巻」に中国産もち米が使用されているという情報が拡散され、食品の安全性や品質への不安が広がりました。さらに、台湾でのカドミウム検出ニュースが重なり、中国産原材料への忌避感が再燃しました。
- 会長の国籍への反発: インド出身のジュネジャ会長が亀田製菓のトップを務めていること自体が、「日本企業なのに外国人をトップに据えるのはどうなのか」という声を生む一因となりました。
- 韓国企業との過去の提携: 過去に韓国の食品企業と業務提携を行っていた事実が持ち出され、これも批判の理由の一つとして挙げられました(ただし、この提携は既に解消されています)。
企業の対応:実施内容と反応
今回の炎上において、亀田製菓が直接的にどのような広報声明や対応を行ったかについての詳細な記述は、提供されたソースには明示されていません。
しかし、炎上を報じた記事自体が、広まった情報に対する事実に基づいた反論や冷静な指摘を掲載しています。
これは、メディアを通じて間接的に企業側の見解や事実関係が伝えられた形と解釈できます。
具体的には、以下の点が指摘されています。
- CEOの発言は「移民」ではなく「外国人材の活用」であったこと。
- 中国産原料を使用しているのは「梅の香巻」のみであり、主要製品の「柿の種」や「ハッピーターン」は国産や米国産原料であること。
- 台湾でのカドミウム検出は台湾の厳しい基準値(日本の10分の1)をわずかに超えたものであり、国内基準はクリアしていること。
- ジュネジャCEOは日本国籍を取得していること。
これらの「冷静な指摘」が一部で広まったことで、一時的にヒステリックな声は収まりつつあったと報じられています。
しかし、その後のカドミウム報道により、再び炎上が加速する結果となりました。
これは、誤解を解くための情報が発信されても、新たなネガティブ情報や既存の誤解が根強く残る中で、炎上が長期化・再燃するリスクがあることを示唆しています。
SNSの反応:感情のトーンや拡散ルート
SNSでの反応は、多様な感情と拡散ルートを示しました。
感情のトーン
- 初期はAFP通信の記事に対する「愛国心溢れる人々」の怒りや反発が中心でした。
- CEOの「日本社会を破壊する」という主張や「移民を受け入れた国が悲惨なことになっている世界の常識を知らないのか」といった強い批判の声が上がりました。
- 「移民推進CEOは引責辞任せよ!」「日本人を敵にすると怖いことを思いしれ!」といったヒステリックな声も見られました。
- 著者は、このような「雑な情報操作」に「純粋で心優しい日本人たち」がいとも簡単に操られ、激しい敵意をむき出しにしている事実を「恐ろしい」と表現しています。
- 一方で、不買運動が進む中でも「ハッピーターンが食べたい」「柿の種もハッピーターンもポタポタ焼き煎餅とか全部おいしい」といった、製品への愛着を示す声も多く存在しました。
拡散ルート
- X(旧Twitter)が主な情報拡散の場となり、「#亀田製菓不買運動」のようなハッシュタグが用いられました。
- AFP通信の記事やインタビュー動画、有機農業に関するXアカウントの投稿、NHKニュースサイトの記事など、多様なメディアやアカウントが情報の源泉となり、ユーザー間で広く共有・議論されました。
- 特に、誤情報や文脈が欠落した解釈が拡散されやすかったことが指摘されています。
一方的な移民拡大の前に 外国人政策 「あるべき日本」合意形成図れ サンデー正論https://t.co/nDBKlwKQvp
昨年12月、ある菓子メーカーの商品の不買運動を呼びかける動きがSNS上で起きた。事の発端は、米菓大手、亀田製菓のジュネジャ・レカ会長CEOのAFP通信記事での発言だった。
— 産経ニュース (@Sankei_news) January 5, 2025
教訓:他社が学ぶべきポイント+未然防止策
亀田製菓の不買運動は、企業がコントロールしにくい情報拡散の時代において、炎上リスク管理の重要性を浮き彫りにしました。他社が学ぶべきポイントと未然防止策は以下の通りです。
正確な情報発信の徹底
特に海外メディアによる報道や翻訳を伴う発言は、意図しない解釈や誤訳が生じやすいことを認識し、より慎重な表現を心がけるべきです。センシティブなテーマについては、発言前に複数人で表現のニュアンスを確認することが重要です。
社会情勢と国民感情の理解
移民問題など、国内で賛否が分かれるデリケートな社会テーマについては、国民の一般的な感覚や、特定の層が抱く強い感情を十分に理解する必要があります。企業活動に関わる発言が、こうした感情の琴線に触れないか事前にリスク評価を行うことが不可欠です。
ソーシャルリスニングの強化
キーワードモニタリング、感情分析、トレンド分析を常時行い、ブランドや関連ワードに対するネガティブな兆候を早期に検知する体制を構築するべきです。これにより、炎上の「火種」が小さいうちに対応する機会を逃しません。
誤情報への迅速かつ冷静な対応
誤った情報が拡散された場合、感情的な反論ではなく、事実に基づいた冷静な情報提供を迅速に行うことが求められます。ただし、SNS上で感情的に削除を要求すると、さらなる反発を招く可能性があるため、対応は慎重に行うべきです。公式ウェブサイトやプレスリリース、信頼できるメディアを通じた正確な情報発信が有効です。
透明性のある情報公開
原材料の原産地など、消費者が関心を持つ情報については、可能な範囲で透明性を確保し、誤解を招く前に公開することで、不必要な不安やデマの拡散を防ぐことができます。
トップの発言に対する教育とリスクマネジメント
CEOなど企業のトップは、その発言が持つ影響力を認識し、メディア対応や公の場での発言内容について、事前に広報部門と十分に連携し、潜在的なリスクを評価するためのトレーニングを受けるべきです。
まとめ:行動につなげる振り返り
亀田製菓の不買運動は、誤解されたCEOの発言と中国産原材料への懸念、さらには会長の国籍といった複合的な要因が、SNS上の情報操作と敏感な国民感情の中で増幅された複雑な問題でした。
この事例から、炎上リスク担当者は以下の重要な行動につなげるべきです。
- 情報発信の徹底的な見直し: 特に翻訳や第三者の解釈を伴う情報は、意図せぬ形で伝わることがないよう、より丁寧で誤解の余地のない表現を追求する。
- 常時ソーシャルリスニング体制の確立: 投稿数、ネガティブ率、頻出ワードの変化をリアルタイムで把握し、炎上の兆候を即座にキャッチする「目」と「耳」を持つ。
- 危機管理広報プランの策定: 誤情報やデマが発生した場合の迅速な事実確認、正確な情報発信のフロー、担当者の役割を明確化し、いざという時に迷わず対応できる準備を整える。
- 社会状況への感度向上: 企業を取り巻く国内外の社会情勢や国民の感情の動向を常に把握し、潜在的な炎上リスクを事前に洗い出す習慣を身につける。
亀田製菓の事例は、SNS時代の広報において、情報がどのように受け取られ、どのように拡散されるかを深く理解することの重要性を示しています。企業のメッセージが正確に伝わり、ブランドの信頼が守られるよう、これらの教訓を今後の広報活動に活かすことが強く求められます。
PR・マーケティング担当者は、今回の事例を「他人事」ではなく「自社にも起こりうるリスク」として捉え、コンテンツ制作の倫理基準の強化、社内教育の徹底、そして平時からのソーシャルリスニングと危機管理体制の構築を推進することが、現代社会でブランドの信頼を維持し、成長していくための不可欠な要素であると強く認識すべきです。
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