東京都府中市の人気店「ラーメン二郎」府中店が、SNS上で「食事は最大20分以内にお願いします」というルールを投稿したことをきっかけに、大きな炎上騒動へと発展しました。この騒動は、単なる店舗ルールへの賛否にとどまらず、特に顧客の反論に対して「どうぞどうぞ」と突き放すような返信をしたことが批判の決定打となり、「怖い店だ、高圧的な店だと誤解させる」結果になったとして店側が謝罪する事態となりました。
この一件からは、SNSにおける「伝え方」の重要性、独自のビジネスモデルを持つ企業の潜在的リスク、そして現代におけるリスク管理の教訓を深く学ぶことができます。
事実の時系列整理
今回の炎上騒動は、以下の時系列で展開しました。
2025年7月4日:問題の発端
ラーメン二郎府中店が公式X(旧Twitter)アカウントで、一部の客が「極端にゆっくり食べている」ことにより「ロット(一度に茹でられる麺の単位)が乱れ」て困っていると投稿。これに伴い、「お食事は『最大』で20分以内にお願いします」と時間制限を設け、券売機に掲示した手書きの張り紙の写真も公開しました。
同日:炎上のきっかけ
この投稿に対し、「20分では食べきれないので他店を利用します」という趣旨のリプライが寄せられると、府中店アカウントは「どうぞどうぞ」と返信。この一言が「接客業としてあり得ない」「高圧的すぎる」と批判を呼び、瞬く間に炎上へと拡大しました。
ラーメン二郎府中が炎上してる理由
食事時間にルールを設けることは問題なくて、二枚目みたいな陰湿さが露呈しすぎてるところが本質だと思う。 pic.twitter.com/JbmeHWQeJH
— Syo Uyama (@Tonepleromas55) July 7, 2025
2025年7月7日:謝罪と対応
ライブドアニュースやJ-CASTニュースなどのメディアがこの騒動を報じる中、ラーメン二郎府中店のSNS担当者がXで謝罪文を投稿しました。謝罪文では、「今回の張り紙、それのSNSへの投稿、そこでのリプライによる厳しい言葉など使い、ラーメン二郎は怖い店だ、高圧的な店だと誤解させる結果となり、お客様、二郎関係者、多方面にご迷惑と不快感をもたせてしまい、大変申し訳ありませんでした」と述べ、深く反省している旨を表明。対応として、店頭の20分制限の張り紙を撤去し、関連する投稿も削除。また、今後のSNS投稿は府中店の店主が行うことを明らかにしました。
ラーメン二郎 府中店 SNS担当者です。
今回のお騒がせした件についてお詫び報告させて頂きます。大変申し訳ありませんでした。 pic.twitter.com/uUVO04MTNj
— ラーメン二郎 府中店【猛暑に効く赤いダイヤ】 (@jiro_fuchu) July 7, 2025
炎上前後のリスク兆候
今回の炎上には、いくつかのリスク兆候が見られました。
独自ルールの存在
ラーメン二郎には、「ロット乱し」という一度に茹でる麺の単位で客を入れ替えるという独自の調理システムがあり、客にも食事の速さが求められることが知られていました。この「ロット乱し」という言葉が公式から語られたことで、一部のファンは「本当にそういう概念があるんだ」と驚きを示しています。これは一般の客には理解されにくい「二郎系ラーメンの独自ルール」が、すでに潜在的なトラブルの種となっていたことを示唆します。
過去のSNS運用における問題行動
府中店の過去のX投稿には、客を揶揄したり嘲笑したりするような高圧的な内容が含まれていたと指摘されています。例えば、忘れ物の「赤まむしドリンク」や「二次元関係の本」を晒したりする投稿がありました。これは、SNS担当者の対人スキル、接客スキル、およびネットリテラシーの欠如を示す明確な兆候であり、将来的な炎上リスクを内包していたと言えるでしょう。
これらの兆候は、炎上リスク管理の観点から見れば、事前に検知し、対応を講じるべきリスクシグナルでした。
炎上原因:ユーザーの怒りのポイント
今回の炎上は、以下の複合的な要因によって引き起こされました。
高圧的かつ煽るような「伝え方」
- 最も大きな原因は、客の「20分では食べられないので他店を利用します」という意見に対して「どうぞどうぞ」と返したことです。この返答は、顧客を突き放す、非常に高圧的で排他的な態度と受け取られました。
- フードジャーナリストの山路力也氏は、ルールの内容自体よりも「伝え方」が問題であったと指摘しており、命令口調や「出禁」をほのめかすような表現が反発を招いたと分析しています。
「独自ルール」と一般常識との乖離
- 「ロット乱し」という二郎特有の専門用語や、それに基づく時間制限は、熱狂的な「ジロリアン」(ラーメン二郎の熱狂的ファン)には理解されても、一般の客には分かりにくいものでした。多くの人々は、ラーメンという食事に対してそのような厳しい時間制限があることに違和感を覚えました。
- 専門家は、客に個別に伝えるべき要求を、不特定多数の人が目にするSNSで声高に主張したことが問題であると指摘しています。ITジャーナリストの篠原修司氏も「SNSという全世界に公開された場所での対応として致命的だった」と述べています。
「二郎ファースト」思想の先鋭化
ラーメン二郎は、お店のルールを熟知した「ジロリアン」を主な顧客層とする特異なビジネスモデルを誇っています。この「独自ルールを押し付ける店側」と「盲目的に受け入れる信者のような客」という関係性が、「二郎ファースト」という考えを先鋭化させ、自分たちと同じ価値観を持つ人たちだけの世界に閉じこもる「エコーチェンバー」現象を引き起こしたと分析されています。その結果、「新しい客層はいらない」という排他的な姿勢につながり、それがSNSで露呈した形となりました。
企業の対応と反応
炎上を受け、ラーメン二郎府中店は以下のような対応を行いました。
実施した対応
- 謝罪表明:2025年7月7日、SNS担当者名義でXを更新し、「大変申し訳ありませんでした」と謝罪しました。
- 問題箇所の撤去・削除:店頭に掲示されていた「20分制限」の張り紙を撤去し、問題となった「20分以内」の投稿とその後のリプライ(特に「どうぞどうぞ」)を含む関連投稿を削除しました。
- SNS運用体制の変更:今後のSNS投稿は、店主が直接行うことを表明し、SNS担当者を交代する方針を示しました。
対応への評価
これらの対応に対し、専門家からは「早期の対応で『大炎上』とまではならなかった」という評価も出ています。謝罪内容も比較的丁寧であったとされています。しかし、謝罪文をよく読むと、「20分制限のルールを改める」とは明確に書かれておらず、ルール自体は未だ撤回されていないと指摘されています。タレントの伊集院光氏もこの点に言及し、「(20分ルールを)思ってはいるのね」とコメントしています。
一方で、一部の著名人やファンからは、店側の主張に理解を示し、「謝罪する必要はなかった」「20分は妥当」といった擁護の声も上がりました。
SNSの反応と拡散ルート
今回の騒動に対するSNS上の反応は、賛否両論が激しく交錯しました。
批判的な感情
- 「怖い」「高圧的」といった印象
- 「接客業としてあり得ない」「めんどくせぇ店だな」という店への不満
- 「カルト宗教みたい」と二郎独自のルールを揶揄する声
- 特に「どうぞどうぞ」という返答に対する不快感や怒り
擁護・理解的な感情
- 「店には店の事情もある」「嫌なら行かなければいいだけ」という意見
- 「ラーメンは20分以内で食べられるのが常識」「謝る必要はない」といった店側の方針を支持する声
拡散ルート
これらの感情は、ラーメン二郎府中店の公式Xアカウントの投稿を起点に、ユーザーのリプライや引用リツイート(現リポスト)を通じて拡散されました。さらに、ライブドアニュース、J-CASTニュース、Yahoo!ニュース、日刊SPA!、Togetterなどの主要メディアが記事として取り上げたことで、広範な層へと情報が拡散し、議論が加熱しました。
他社が学ぶべき教訓と未然防止策
今回の炎上騒動は、SNS時代における企業コミュニケーションのあり方に対し、以下の重要な教訓と未然防止策を示しています。
他社が学ぶべきポイント
「伝え方」こそが炎上の本質
ルールや主張の内容が正当であっても、その「伝え方」によっては、炎上を招く可能性があります。一方的な「押し付け」ではなく、「共有する」姿勢が現代の飲食店には求められます。例えば、「皆さんにスムーズに召し上がっていただくためにご協力ください」のように、客目線で丁寧に説明することで、受け取られ方は大きく変わるはずです。
SNSは「公の場」であるという認識
SNSは「全世界が見ている」場であり、特定の顧客や常連客に向けたような内輪の会話や、店員の「愚痴レベル」の話を投稿することは極めて危険です。個別に伝えるべき要求は、個別に直接行うべきです。
独自ルールと一般のギャップを埋める努力
「ロット乱し」のような専門用語や、業界特有の慣習は、一般の顧客には理解されにくいものです。ルールを設定する際は、その理由と必要性を平易な言葉で丁寧に説明する責任があります。
未然防止策
SNS運用ガイドラインの策定と徹底
- 企業アカウントの投稿は、個人の感情に左右されず、一貫したブランドイメージとトーンを保つべきです。
- 感情的な返信や煽るような言葉遣いは厳禁とし、ガイドラインに明記する必要があります。
- 緊急時の対応手順も定めておくべきです。
SNS担当者の選定と教育
- SNS担当者は、高いネットリテラシーに加え、企業の方針を理解し、顧客との円滑なコミュニケーションを図れる人材を選ぶべきです。
- 定期的なSNSリスク研修を実施し、炎上事例や適切な対応方法について学習させることが重要です。
投稿前の複数人チェック体制
重要な投稿や、物議を醸しそうな内容については、担当者だけでなく複数人で内容をチェックする体制を構築することで、客観的な視点を取り入れ、リスクを軽減できます。
顧客との信頼関係の構築
ルールを設けること自体は問題ありませんが、その前提には顧客との「信頼」が必要です。日々の接客や言葉遣い、店舗での丁寧なコミュニケーションを通じて、顧客との良好な関係を築くことが、SNSでの発信の土台となります。
類似事例との比較
今回のラーメン二郎府中店の炎上は、過去の飲食店や企業によるSNSでのトラブルと共通点が多く見られます。
類似する炎上事例
- ラーメン二郎仙台店(2017年):初来店客が大盛りを残したことに対し、店舗がXで批判的な投稿を行い炎上しました。これも、店側の「愚痴レベル」の内容をSNSに投稿し、顧客を批判した点が共通しています。
ポジティブな対応事例
- ラーメン二郎荻窪店:府中店よりも短い「15分程度」という時間制限を張り紙で掲げていますが、炎上する気配はありません。これは、時間制限というルール自体が問題なのではなく、高圧的な態度や言い方が炎上を引き起こしたことを強く示唆しています。
- ラーメン二郎亀戸店:府中店の騒動後、「食べるのが遅くても全然大丈夫」としつつも、スマホ操作や過度なおしゃべりでの遅延は控えてほしいと、丁寧な言葉遣いで「配慮」と「協力」を求める投稿をしています。これは、府中店が当初伝えたかった真意と大差ないにもかかわらず、その伝え方によって世間の反応が大きく変わることを示しています。
これらの類似事例から、企業がSNSでメッセージを発信する際には、「何を言うか」よりも「どう言うか」が炎上リスクを左右する重要な要素であることが明らかです。
まとめ:行動につなげる振り返り
今回のラーメン二郎府中店の騒動は、SNSが企業にとって強力な集客ツールであると同時に、使い方を間違えると甚大なブランドイメージの毀損や収益への影響を招く「諸刃の剣」であることを再認識させました。
この事件から、炎上リスク担当者として行動に繋げるべき振り返りのポイントは以下の通りです。
重要なポイント
- ルールや主張の内容の正当性だけでは不十分:「ロット乱し」防止という経営上の正当な理由があったとしても、それが一般顧客に理解されにくい場合は、コミュニケーションに工夫が必要です。
- 「高圧的な伝え方」は致命傷:特に「どうぞどうぞ」のような顧客を突き放す態度は、一瞬で企業の信頼を失墜させます。SNSでの発信は、「新しい接客スキル」として捉え、常に丁寧かつ顧客に寄り添う姿勢を忘れてはなりません。
- SNS運用は個人の裁量に任せず、組織的な管理を:SNS担当者の個人的な感情や判断に任せた結果、企業方針との齟齬や不適切な発言が生じるリスクがあります。運用ガイドラインの策定、担当者の教育、そして投稿前の複数人によるチェック体制は、炎上を未然に防ぐための必須条件です。
「ラーメン二郎」のような特定の熱狂的ファンを持つビジネスモデルは、強固な顧客基盤を築ける一方で、一般顧客からは「敷居が高い」「怖い」と敬遠されるリスクを常に抱えています。このバランスをどのように取るか、特に新規顧客やライト層への配慮をどうメッセージに含めるかが、今後の広報・プロモーション活動における重要な課題となるでしょう。
今回の件を他山の石とし、貴社のSNSコミュニケーションがより賢く、より多くの人々に愛されるものとなるよう、具体的な施策に繋げていくことを強く推奨いたします。
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