クチコミから生活者の「ニーズ」を知る方法|国産SUV

福田浩至 | 2020/10/27

クチコミから生活者の「ニーズ」を知る方法|国産SUV

昨今、「SUV」は乗用車の特定カテゴリーを示す用語として当たり前のように使われるようになりました。近年では国内のSUV市場が急拡大しているとよく耳にします。今回は、国内自動車市場をけん引するSUVに関するツイートを分析してみたいと思います。

 

「SUV」を含むツイート件数推移

下のグラフは「SUV」を含むツイートの日次件数推移を約10年前からさかのぼって掲載したものです。2013年の後半あたりから急増していることがうかがえます。

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なお、今回もクチコミの対象をTwitterとして、Twitterの全量データを検索・分析対象とすることが可能なソーシャルメディア・アナリティクスツール「Brandwatch」をお借りし、データ収集を行っています。

 

車種に関連するツイートの件数推移

日産自動車は、2020年6月24日より新型SUV「キックス」の発売を開始しました。これは日産自動車にとって久しぶりの新ブランド車です。そしてその後、トヨタ自動車も8月31日に新型SUV「ヤリスクロス」の発売を開始しました。

今回はこの新型2車種の競合と目されるSUVの中から、本田技研工業の「ヴェゼル」、マツダの「CX-30」、SUBARUの「XV」の3車種を加えた計5車種を対象にツイートを比較し、分析してみます。

下のグラフは、各車種に関する日次の平均ツイート件数を月単位で集計してたものです(10月は、10月1日~10月15日までの平均値)。

5車種のツイート比較


新型車の発売があったキックスが6月に、ヤリスクロスが9月に増加していることが分かります。またXVは9月4日にマイナーチェンジを発表しており、そのタイミングでツイート件数が増加しています。一方で昨年以前に発売を開始したCX-30ヴェゼルについては、安定的にクチコミが生まれていることが分かります。

上記のグラフを百分率で示すことで、各月のツイート件数の占有率(Share of  Voice)を見てみると、以下のようになりました。

5車種のツイート比較SOV

 

年初にはヤリスクロスキックスの話題はほとんどありませんでしたが、それぞれの発売や発表のタイミングで占有率が大幅に拡大していることが分かります。キックスは6月に42%、ヤリスクロスは9月に61%占有しています。

 

車種ごとに生活者の「ニーズ」を分析する

車種のツイートには、コマーシャルやプロモーション動画の拡散ツイートも数多く含まれます。例えばヤリスクロスであればサカナクション、XVであれば[Alexandros]のプロモーション動画に使われた楽曲に関連したツイートが爆発的に増加しています。この話題の拡散状態を分析することで、プロモーション施策の効果を評価することにも役立つと思います。

ただし、今回は人々がクルマ自体に寄せる関心=生活者のニーズを分析していきたいと思います。

クルマ自体への関心を把握するため、以下の①~④の4つの観点でカテゴリーを設定し、それぞれの観点に関係のありそうな単語を含むツイートを再収集して分析に使用しました。

① スタイリング
外観。例えば、ボディーカラーの名称やフロントグリルなどのボディーパーツのデザイン、さらには「精悍」や「格好よい」など車を外から見て抱く印象などに関連するツイートを絞り込みました。

 

② インテリア・装備
内装や装備。例えば、ハンドルやダッシュボードなどの室内にある設備や「室内空間」「広い」「乗り降りしやすい」など、車内に居て抱く印象や車を使用して抱く感情を抽出単語として、設定しました。

 

③ 性能・安全
クルマの基本性能。つまりエンジンなどの動力関連の情報や走行性能に関する単語を抽出単語として設定しました。例えば「燃費」「ハイブリッド」「サスペンション」などの単語を対象としました。

 

④ 価格・グレード
グレード名や「高い」「安い」「割高」「割安」などのグレードに関する話題や価格に関する言葉を抽出設定として、設定しました。

 

 

ニーズに関する観点ごとのツイート件数推移

各車種について、上記のニーズに関する4つの観点ごとにツイート件数を計測した結果を示します。下のグラフは、5車種のそれぞれの観点ごとの1日あたりの平均ツイート件数の月次推移とその件数割合を示しています。

(1)キックス

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5月より特に「性能・安全」観点でのツイートが急増し、発売を開始した6月~7月をピークに8月以降落ち着いてきています。これは、このYahoo!ニュースの記事のように、多くの新型車発売の紹介記事が「電気自動車」「EV」といった駆動機構に関する単語を含めて紹介しているためです。

また、後述する車種と比較して「価格・グレード」観点のツイートの割合が少ないことが分かります。キックスの場合、グレードが「X(2WD)」と「X ツートーンインテリアエディション(2WD)」の2種類のみのため、グレード単位での話題が少ないことが原因かと思われます。それでも、発売を開始した6月には価格の話題が増加していることが分かります。

 

(2)ヤリスクロス

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3月まではほとんど話題がありませんでした。もともと3月開催予定のジュネーブモーターショーでお披露目されるとされていましたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で中止となりました。4月23日にリリースとともにオンライン上で公開されてから、徐々に話題が増えています。

当初は「スタイリング」観点の話題が中心でしたが、発売開始に向けて、徐々に様々な情報が明らかになる中で、「インテリア・装備」観点や「価格・グレード」観点に関心が移っている状況が伺えます。

 

(3)ヴェゼル

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期中にモデルチェンジはありませんでした。このため、各観点とも安定的なツイート件数が確認できています。その中でも5月から8月にかけて「性能・安全」観点の話題が多くなっています。これは、キックスヤリスクロスの情報が広まるにつれ、これらの車種と比較するツイートが増加したことが、主な原因です。

また、昨年末に発表した特別仕様車「VEZEL TOURING Modulo X」、「VEZEL HYBRID Modulo X」の話題が多く見られました。このため特に1月~2月は「価格・グレード」観点の割合が他車と比較して大きくなっています。また、来年にフルモデルチェンジが計画されていることもあり、徐々にリーク情報や噂が出始めています。このため、9月~10月にかけて「スタイリング」観点の割合が増加しています。

 

(4)CX-30

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昨年10月に発売を開始したモデルです。1月にSKYACTIV-X搭載車の追加発売があり、「性能・安全」観点のツイート件数が突出しています。また、3月に「スタイリング」観点のツイートが急増しています。これは、「2020 ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」のトップ3ファイナリストに選ばれたことが原因です。


4月に「性能・安全」観点のツイートの件数及び割合が再び上昇しています。これは、Yahooニュースの記事「マツダ 苦戦の新世代エンジン」(元記事はすでに削除されています)と、ベストカーの記事「CX-30が元王者C-HRを逆転!! そんなにいいのか? マツダで一番売れる理由」で、マツダの次世代パワーユニットであるスカイアクティブXに触れており、この記事が拡散したことなどが原因です。ヴェゼル同様、期中に大きなモデルチェンジはありませんでした。

 

(5)XV

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「性能・安全」観点の話題が最も多い月が続いていましたが、9月に「スタイリング」観点の話題が一時的に増加しています。これは、マイナーチェンジに伴い、フロントグリルやバンパーなどを大きく変更したことがによるものです。この車種の特徴として、他車種と比較して「性能・安全」の項目の割合が大きいことがあげられます。長年取り組んできた「総合安全」の成果の表れかもしれません。

 

ツイート拡散の原因と定性分析

ここまで、ツイート件数の推移から車種別の傾向を見てみましたが、大切なのは、そのツイートでどのような言及がなされているかです。

ここでは、キックスの発売発表があった6月に話題が拡散した「価格・グレード」観点のツイートを例にとって深堀りしてみましょう。下図は、6月のキックスのツイート件数の日次推移とツイートが急増した状態を定量化した拡散強度です(拡散強度の算出については、こちらの記事を参照)。

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図のように6月3日、6月13日~6月14日、6月24日~6月26日の3回、拡散が発生しています。


・1回目(6月3日)の拡散

以下のキックスの正式価格や発売日をリークしたベストカーWeb編集部の公式アカウント(@bestcarmagazine)のツイートが拡散の原因です。拡散規模は32.0です。



・2回目(6月13日〜6月14日)の拡散

こちらはオプション装着車のリーク情報が原因です。拡散規模は22.7です。


リプライには、次のような賛否の意見が入り交ざっていました。

誰が買うのこんなの?高いし、前輪駆動Onlyよね?
ハイブリッドだしこんくらいでもいいとは思うんですけどねー

 


・3回目(6月24日〜6月26日)の拡散

新型車の発売を正式に発表した記事です。産経ニュース(@Sankei_news)の記事が最もリツイートされています。拡散規模は59.6で、前出の2つのリーク情報に比べ、ツイート数も拡散強度も圧倒しています。

 

ここで、6月24日〜26日の「グレード・価格」観点のツイートに含まれる頻出語から価格に関する論調をみてみたいと思います。下表は、当該期間の「グレード・価格」観点のツイートに含まれる単語を出現頻度順に100件をピックアップしたものです。

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このうち、価格に関する意見が含まれているであろう単語のうち「高い」が5位、「安い」が28位でした。「高い」が使われる論調には以下のようなものがありました。

キックスは最低グレードの時点で売れ筋グレード相当の装備は揃っていてで、他社同等車種の最低グレードとは同列に比較できないから法外な値段とはいえないけど内容に対して高いのは事実だ。


また、「安い」を使った例でも、以下のように「高い」と対比して使われていることが多い結果となりました。

日産頑張って欲しいんだけど
kICKSって270万するんだねー
e-powerとか付いてるけど少し高い気がする。
CX-30の方が安いし格好いいなー。

 

内外装のデザインは悪くないな、
でも2グレードだけってどうなのって思うわ、おまけに2WDのみだし…
おまけにe-powerの上級グレードのみだから廉価な安いグレードが無いからライバルより高いし…これそこまで売れるかな…
まあ今後、追加予定って噂も聞くけど


また、上記のツイートにも含まれていますが、グレードのバリエーションが少ないことへの言及が目立ちました。e-POWERの2グレードのみであることを意外に感じた人が多くみられました。実際、4位の「グレード」だけでなく、17位の「WD」が入っています。これは4WDのラインアップがないことについて、「残念だ」という感想や「今後の拡充に期待する」という意見です。また、10位に「だけ」、29位に「のみ」がランキングしているのも同様の理由です。

頻出語単語には車種ブランド名も数多く見られます。22位のジューク、35位のヴェゼル、82位C-HRなどが一緒に語られていることが分かります。ちなみに100位以下にもノートヤリスヤリスクロスハリアーライズCX-*エクストレイルミニパジェロといった車種名が出現しています。人々がどの車種とどういう観点で比較しているのかを知ることができます。

 

まとめ

以上のように、国産SUV5車種に関するツイートを分析することで、次のようなことが確認できました。これらの分析は車だけでなく、様々な商品・サービスのニーズを把握する上でも活用できます。

 

(1)ツイート件数推移から車種別のShare of Voiceを定量化できる

相対的にツイート件数の推移を比較することで、世間が注目している割合を可視化し、比較することができます。

とりわけ、新型車種の発売が大きな関心を集めることは、前半に紹介したSUV車種別の関連ツイート件数の月次推移(Share of Voice)グラフからもよく分かります。先述したとおり、月単位で見るとキックスは6月に42%、ヤリスクロスは9月に61%を占有していますが、日単位でみるとキックスは6月24日に86%、ヤリスクロスは9月18日に実に92%を占有しています。

また当然ながら、モデルチェンジなどの新たな情報がない状態が続くと、Share of Voiceは減少していきます。長期的にその割合を観測することが、商品・サービスが関心を持たれている実態を把握することに役立ちます。

 

(2)観点ごとにツイートを収集・分析することで、車種別のニーズが把握できる

今回はツイートの件数トレンドを把握するだけでなく、ツイートを「スタイリング」「インテリア・装備」「性能・安全」「価格・グレード」の4つの関心の観点ごとに抽出して分析しました。これにより、人々が商品やサービスにどの観点で関心を持っているのかを定量的に把握することができます

自動車の場合には、発売前には「スタイリング」観点のクチコミの割合が多く、発売時には「グレード・価格」観点や「装備・性能」観点のクチコミが広まっていく傾向を確認できました。そしてその中でも、車種によってその傾向が微妙に異なることも分かりました。

例えば、今回の評価期間である今年に大きなモデルチェンジのなかった、CX-30ヴェゼルの領域別の1日あたりの平均ツイート件数の月次推移を見ると以下のようになります。

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「スタイリング」観点の話題がCX-30は33%に対してヴェゼルは20%、一方で「価格・グレード」観点の話題はCX-30が14%に対してヴェゼルは24%となっています。車種によって傾向に違いがあることが分かります。各車種について人々がどの領域にどの程度関心を持っているのかを確認できます。

このような傾向が車種のブランドイメージを作っていくのかもしれません。ちなみに、それぞれの変動係数は上表のとおり0.2~0.5です。新車発表のあったヤリスクロスキックスが1.0前後であることと比較すると安定しており、各車種の傾向として定着している様子がうかがえます。

 

(3)観点別のツイートと頻出語の関係から、人々の抱く感想やニーズを理解できる

(1)(2)では、ツイート件数をもとに商品・サービスに対する関心の強さを定量的に調べてきましたが、最後に、関心を持たれた内容の定性的な分析を試みました。今回はキックスが発売された20年6月の「グレード・価格」観点に絞って原因を分析し、そこで3回の拡散機会を確認、その原因となるツイートを特定しました。さらに頻出語に着目することで、価格について高いという印象を持ち、公開されたグレードが2WDのみであることを残念に思っている人、今後に期待している人が多いことが分かりました。

以上のように、サービス・商品に関するツイート件数と、生活者が関心を抱く観点ごとのツイート件数のトレンドと頻出語ランキングから読み取れることや、マーケティングに生かせることがたくさんありそうですね。

 

 

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  • 著者:福田浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理) 多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。
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