リーダシップ研修 導入事例:従業員一人ひとりが自律的に行動できる組織づくりのために

福田浩至 | 2022/02/16

リーダシップ研修 導入事例:従業員一人ひとりが自律的に行動できる組織づくりのために

企業の人材育成の課題として、「上司の指示待ちが習慣化している社員を、自律的に動けるようにするにはどうしたらいいか?」といったことが挙げられます。今回は、このような課題解決にhintエンタープライズの企業研修を活用した事例をご紹介します。

株式会社カスミさまでは2020年10月から1年間かけ、すべての店舗の店長・次長、本部の管理職社員(計458名)に対してリーダーシップ研修を実施しました。この研修では、当社創業者の⻫藤が主催するオンラインの⽣涯学習コミュニティ「hintゼミ」のリーダーシップクラスの学習内容をカスタマイズ開発した「hint エンタープライズ」を採用しています。

カスミ 人事コミュニケーション執行役員 高橋様

 

研修を実施するに至った経緯とその内容について、株式会社カスミ人事コミュニケーション執行役員の高橋様にお話を伺いました。尚、インタビュアーは、今回の研修でファシリーテーターを担当したループス・コミュニケーションズの福田です。


 

福田: リーダーシップ研修を実施した背景を教えてください。

高橋様:株式会社カスミは関東地方で187店舗(2021年4月現在)を展開するスーパーマーケットです。創業は1961年、昨年60周年を迎えたました。当社は2012年に、ソーシャルシフト(*)の経営を掲げ、この10年間邁進してきました。

そのきっかけには、小浜会長(当時)の危機感がありました。小浜会長(当時)は、リーマンショックや東日本大震災を経て日本の生活者の価値観が変わりつつあることを実感し、「本社や上司の指示命令に従う軍隊のような組織では、日々変化する生活者のニーズに対応できない。カスミは、従業員一人ひとりが考え、自律的に行動する組織に進化することを目指そう」と決断したことです。

この10年間の取り組みの中で、従業員が主体となって「カスミの価値観」を策定し、従業員が自主自律的な活動も増えてきました。しかしながら、すべての店舗に広がる活動にまでは至っていません。

その大きな原因として、店長・次長、本部の管理職社員のリーターシップのあり方があると思います。現場の従業員が自律的に行動しようとしても、上司である店長・次長、本部の管理職社員が行動を否定したり、ブレーキをかけるようなことがあっては、折角やる気になった従業員も冷めてしまいます。

店長・次長、本部の管理職社員が、従業員を「統制するマネジメント」から従業員を「支援するマネジメント」にマインドシフトしてもらうことが、目指す姿に到達するために大切であると考え、経営陣に提案し、承認を得てスタートしました。

*ソーシャルシフト 当社代表斉藤が提唱した”ソーシャルメディアが誘起した「ビジネスのパラダイムシフト」” のことです。カスミの取り組みについてはこちらをご覧ください。

 

福田: お客様の特徴は店舗の立地によってそれほど異なるものなのですか?

高橋様:そうですね。お店によってお客さまのニーズは大きく異なります。さらに、同じお店でも時間帯や利用されるお客さまの年齢層が違います。また、近年の気候変動、コロナウィルスの感染拡大など、さまざまな生活環境の変化によって、スーパーマーケットへの要望も刻々と変化しています。

 

福田: カリキュラムはどのようにして決めましたか?

高橋様:実施するからには、しっかり時間を確保して丁寧に学べるように心がけました。店長・次長は3日間(3ヶ月間、毎月1日)、本部の幹部社員は1日間の研修を行いました。

今回の研修プログラムは「hintゼミ」のリーダーシップクラスの学習内容をカスタマイズ開発した「hint エンタープライズ」を基本にしていますが、そのままでは自分ごと化できる研修にはなりません。3日間でしっかりカスミの店長・次長のために最適化したカリキュラムを、ループス・コミュニケーションズさんと約3か月をかけて開発しました。

福田: 具体的には、どのような工夫がなされたのでしょうか?

高橋様:当社が10年間取り組んでいるソーシャルシフトの考えを復習する時間を設けたり、店舗の運営計画につながるようなアウトプットが作れるように考えてもらいました。ロールプレイングのシチュエーションも仮想の店舗に変更してもらいました。その上で、研修実施日ごとに受講者からアンケートを取ったり、研修直後に反省会をしながら、カリキュラムをブラッシュアップして行き、最終的には、下表のようなカリキュラムになりました。

店長・次長むけカリキュラム

 

Day1:従業員に目を向ける

まず、この研修を実施する目的を説明しました。特に従業員のモチベーションを高めることがとても重要であることを、サービスプロフィットチェーンなどの考え方とともに学びました。また、従業員の声を聞く手法として、半年ごとに実施している従業員アンケートの結果を店舗ごとに分析する方法を丁寧に説明しました。店長・次長が店舗の従業員により強い関心を持ってもらう機会になったと思います。冒頭お話した10年前から取り組んでいるソーシャルシフトについて再度学び直す時間にもなりました。

Day2:リーダーシップを学ぶ

従業員を統制する”支配型のリーダー“から従業員の自律的な行動を支える”支援型のリーダー“になるための基本的な技術(スキル)を学んでもらいました。まずは、従業員自らが話したくなるようなモチベーションを持ってもらう手法、それから従業員とのコミュニケーションの取り方で気を付けるポイントなどについて、ロールプレイングなども取り入れながら学びました。「これまでは真逆なことをやっていた」と言った店長さんもいらっしゃいましたね。

Day3:ビジョンを描く

店長・次長が目指す店舗の姿を構想し、それを従業員と共有するための方法について学びました。目指す店舗の姿が、カスミの企業理念や価値観に沿ったものになるように、店長・次長が目指す店舗の姿とカスミが目指す店舗の姿の共通点を探求するワークショップ(ミッションリンク)も組み込んでもらいました。

また、研修内容を「自分ごと」化してもうために、講師の話を一方的に聞く座学形式ではなく、要所要所で受講者同士が話し合う機会を取り入れたワークショップ形式としました。Zoomのブレイクアウトルームを活用して4〜6人の店長・次長同士が話し合う機会をふんだんに盛り込んだ研修としました。

 

リーダシップ研修時の風景:株式会社カスミ様

 

福田: 研修形態はオンラインでしたが、受講生の皆さんに抵抗はありませんでしたか?

高橋様:研修のスタートは2020年10月でした。当時はコロナウィルスの感染拡大が始まる前でしたので、元々は集合研修を想定していました。最初の40名の店長のグループでは、3日のうちの初日だけは当社の本社(茨城県つくば市)で集まって研修を実施しました。しかし、ご承知の通りコロナウィルスの感染拡大が広まってきたので、途中から全てをZoomを用いたオンライン研修に切り替えました。

また、この研修は、3日間の研修実施日だけで完結するものとはしませんでした。研修実施日までに事前課題として研修動画を閲覧し、課題図書を読んでもらいました。全員が同じ本・同じ動画を見たことも、全ての店長・次長で共通する考え方を持ってもらうことに役立ったと思います。日々の店舗運営に忙殺されている店長・次長の中には、ビジネス書を読む習慣のない方もいましたが、学習する良いきっかけになったようです。

上記の研修前の課題とともに研修後の課題も用意しました。研修で学んだ内容を店舗で実践してみることを宿題とし、実践結果を次回の研修で発表し合うことで、直接業務に活かせる研修となるように工夫をしました。さらに、3日間の研修が終了した後も、定期的に店長・次長がオンラインで話し合う場を設け、店舗運営の状況や悩みを共有する活動を続けています。

福田:受講者された方の受講された感想を教えてください

高橋様:店長・次長は、店舗の売り場を切り盛りするのが第一の仕事です。ほとんどの方が、オンライン研修の経験はありませんでした。更に、パソコンやタブレットの操作にも不安がありました。最初こそ、戸惑いもありましたが、2日目以降では、概ね店長・次長も慣れてきました。その結果、研修運営もスムーズに進行することができました。受講後の感想をヒアリングすると、オンラインでストレスなく話し合いができたことを実感できたというコメントが多数寄せられました。特に、カリキュラムの合間に、Zoomのブレイクアウトルーム機能を利用して店長・次長同士でグループを作って話し合ってもらいましたが、コロナ禍でなかなかリアルで会うことができない環境下において、オンラインで他の店長・次長と定期的に話し合えたことは、「とても勉強になったし、励みにもなった。そもそも、楽しかった」との意見が多数ありました。

福田: リーダーシップ研修によって、どのような変化が生まれましたか?

高橋様:今回の研修を通じて「心理的安全性」「推論のはしご」などの専門用語が社内の共通語として定着してたことを実感しますね。店長同士で「心理的安全性を高めるのには、まず挨拶とありがとうが大切だよね」とか、従業員から「店長、挨拶してくれるのは嬉しいんですが、今日はもう2回目ですよ〜」などという話をいろいろなお店で耳にするようになりました。従業員アンケートの結果を従業員と話し合って、課題を一緒に解決する取り組みなども見られるようになってきました。

また、副次的な効果としてオンラインミーティングを抵抗なくできるようなったことも挙げられると思います。当社の店舗は関東広域に広がっていますので、集合研修や集合会議を行う場合に比べて、移動時間やそれに伴う労力が削減できることは大変な効果だと思います。

最初にお話しした通り、店長・次長が研修で学んだオープンリーダーシップを発揮することで、その店舗で働く従業員同士が自発的に話し合い、売り場をよくするアイデアを生み出しすことが日常になる店舗を目指しています。リーダーシップ研修とは別に、従業員のアイデアで良いお店を作っていく方法を店舗や役職を取り払ってオンラインで話し合う活動「ソーシャルシフトをやってみよう交流会」もスタートさせました。

このような活動も、店長・次長に理解がなければ、参加すらおぼつきません。リーダーシップ研修を実施したからこそ、始めることができました。話し合う内容も、業務改善から新商品の提案など、さまざまな店舗の活動を共有しています。ある一店舗の活動が他店にも波及したり、本部の仕組みを見直すきっかけとなるような事例も生まれてきています。

福田:  最後に今後の計画を教えてください

高橋様:今回は店長・次長、本部管理職社員が対象でしたが、オープンリーダーシップを全従業員が理解し、実践できるようにしたいと思います。そのために今年は、チーフクラスにもその考え方を学ぶ機会を設ける予定です。また、内容を身近な者としてもらうために、研修の内容をまとめた冊子「カスミが考えるオープンリーダーシップ」も作りました。すべての従業員の皆さんがいつでも閲覧できるよう社内のイントラネットで公開したり、スマートフォンやタブレットからも閲覧できるようにする計画です。

「カスミが考えるリーダーシップ」 ハンドブック

 

一方で、店次長さんを個別に見てゆくと大きく意識の変わった方とそうでない方の二極化も気になります。理解レベル・実践レベルに応じてきめ細かな研修メニューを用意しようと計画しています。

まだまだ、道半ばですが、目指す姿に向かって、着実に歩を進めて行きたいと思います。

 


 

<インタビュアー あとがき>

今回、リーダーシップ研修の講師及びファシリテーターを担当しました。日々店舗の切り盛りにご多忙の店長・次長さん、それを支える本部管理職社員の皆さんに貴重な時間を割いて研修に参加いただけました。少しでも現場で役に立つ学びを持って帰ってもらえればと、研修終了時に反省会を行い、研修内容を都度ブラッシュアップをしてきました。その結果、カスミの社風や実情に合った研修カリキュラムができたと思います。

この研修内容を他の従業員さんに対しても浸透させるための工夫を続けて行きたいと思います。そして、カスミのソーシャルシフトが加速するように支援をして行きます。

 


hint エンタープライズは、現在多くの企業・組織が抱えている「組織の活性化」と「新しい事業の創造・業務改善」という課題に真正面から取り組む企業研修です。

「当社でもやってみたい」
「カリキュラムの内容をもう少し詳細に知りたい」

そんな感想を持たれた方、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

 

 

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:福田浩至

株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理)

多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。

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