ノンアルコールビールのクチコミを分析してみた。意外な事実が・・・

福田浩至 | 2022/07/14

ノンアルコールビールのクチコミを分析してみた。意外な事実が・・・

 

はじめに

夏も間近に迫ってきました。コロナ禍が続く中、ノンアルコール飲料市場の成長が注目されています。サントリー ノンアルコール飲料レポート2021によれば、2020年のノンアルコール飲料市場は対前年103%で、2015年より6年連続で伸長が続き、過去最大の市場規模になったと推定されるとしています。さらに2021年には、対前年111%と、 市場規模は引き続き拡大すると見込んでいます。

拡大する市場を目掛けてビールメーカー各社もノンアルコール市場を狙って新商品を続々と投入しています。今回はノンアルコール市場の中でも、8割以上(サントリー ノンアルコール飲料レポート2021)を占めているノンアルコールビールテイスト飲料のネット上のクチコミを分析してみたいと思います。

 

ノンアルコールビールのクチコミ

下図は「ノンアルコールビール」を含むツイート数の日次推移をグラフ化したものです。

ネット上のクチコミ収集条件は以下の通りです。

・収集期間:2021/7/3-2021/6/30
・対象メディア:Twitter
・使用ツール:Brandwatch Consumer Research
・抽出条件:((“ノンアルコール” OR “のんある” OR “ノンアル” OR “アルコールゼロ” OR “non-alchol” OR “non alchol”) NOT (“ワイン” OR “焼酎” OR “チューハイ” OR ・・・)) 
※  RTやフォローなどを求めるキャンペーン関連ツイートやビール会社の公式アカウントからのツイートは除外。

期間中の平均日次ツイート件数は2,728件/日でした。グラフを見ると、ツイート件数が急増している日程が何箇所か見受けられます。急増したタイミングを抽出し、その規模を定量化し、上位10件を一覧表を下表にまとめました。

拡散期間、拡散強度の算定方法はこちらを参考ください。
なお、表中のフォロワー数は2022/6/30時点の数値です。

 

最も大きな拡散機会となったのは、2022年1月1日から2日の期間です。この拡散を強めた話題は、1月1日のurbansea(アーバンシー)さんのツイートと1月2日リロ氏に1月2日に投稿されたカップ麺の独特の調理方法を紹介したの動画投稿の2件です。

urbansea(アーバンシー)さんは、文春オンラインなどにも寄稿されている記事ライターです。以下が実際に拡散を強化した話題です。

こののツイートは23,000件以上のリツイートを発生させています。

正月だからといって酒を飲みたがる高齢の父親に、ノンアルコールビールをビールだといって飲ませる、ここまでは私でも思いつくが、適当な頃合いに「まあ、お父さん、顔が真っ赤」と声をかける姉に、私との器量の差を実感する。(https://twitter.com/urbansea/status/147724/5222342266887)

リロ氏はチャンネル登録者数60万人を擁するVtuberです。投稿したツイートで紹介されている動画を自身のYouTubeチャンネルでも配信しており、こちらの再生回数は49万回を超えています。

拡散した話題の上位10件のうち法人アカウントからの発信は3件、残り7件は個人アカウントからの発信です。法人アカウントのうち2件はゲームアプリ関連です。個人アカウントでは、声優や俳優、漫画家など、フォロワー数の多い方の投稿が拡散を引き起こしてきたことがよくわかります。フォロワー数の多い、いわゆるインフルエンサーの高い存在感を示す結果となりました。

以上のツイートはあくまでノンアルコールビールという飲料水の総称に対するクチコミの結果です。ビールメーカー各社は、独自のノンアルコールビールの商品ブランドを立てて、販売施策を展開しています。以降、ビールメーカー各社のノンアルコールビールの商品ブランドが語られている内容を調べてみたいと思います。


各社のノンアルコールビール ブランド戦略

今回は、ビールメーカー大手3社(アサヒ、サントリー、キリン)を対象として比較してみます。

各社のノンアルコールビールの商品ブランドは以下の通りです。(内容は、各社のホームページから引用し、筆者が加筆。)

  • アサヒ
    3ブランド(ドライゼロ、ヘルシースタイル、ドライゼロフリー)
    最も力を入れているのがドライゼロで、人気俳優の菅田将暉さんをCMに起用しています。ヘルシースタイルはトクホ(特定保健用食品)であることを打ち出しています。また、ドライゼロフリーは、「アルコールゼロ」「カロリーゼロ」「糖質ゼロ」「プリン体ゼロ」「人工甘味料ゼロ」の5つのゼロを実現したことを強調しています。ノンアルコール飲料としては、チューハイ・カクテルテイストのスタイルバランスも用意しています。

  • サントリー
    3ブランド(オールフリー、オールフリーライムショット、からだ想うオールフリー)
    オールフリーは“飲みごたえ”と“キレの良い後味”を突き詰めたビールのような味わいを特徴としています。オールフリーライムショットはライムテイストが加えられ後あじがスッキリすることを訴求しています。からだ想うオールフリーは機能性表示食品であることをアピールしています。特に、内蔵脂肪を減らす効果を謳っています。

  • キリン
    4ブランド(グリーンズフリー、カラダフリー、零ICHI(ゼロイチ)、パーフェクトフリー)
    の4つのノンアルコールビールブランドを用意しています。グリーンズフリーは日本初の製法を取り入れた特別なノンアル、カラダフリーは「お腹周りの脂肪を減らす」機能性を訴求、零ICHI(ゼロイチ)はビールに近いノンアルを目指し、パーフェクトフリーは脂肪の吸収を抑え、唐の吸収を穏やかにする機能性表示食品であることをアピールしています。

以上のように、3社それぞれ、各社の中でもブランドごとに特徴があることが見て取れます。

 

生活者の反応

<定量的な分析>

では、実際の各企業ブランドのクチコミを見てみましょう。なお、今回は生活者の反応を見るために、各社の公式アカウントからのツイートは除外して収集しています。

 

アサヒ

期中の平均日次ツイート件数は54件/日でした。拡散機会は18回と最多でした。

このうち、拡散規模が最も多かったのは今年5月16日の以下の投稿です。

続いては、今年4月26日のアサヒビールの値上げのニュースです。世間の注目の高さがわかりますね。

 

サントリー

ノンアルコールビールのブランドは、オールフリー1件ですが、1日あたりのツイート件数は159件/日と3社中では最多でした。他の2社の2倍以上の件数です。拡散機会は12回確認されています。

 

このうち、最も拡散規模が大きかったツイートは、2月10日の以下のツイートでした。SMAPを脱退した後、オールフリーのCMに参加しています。ちょうど4年前の2月10日にCMが解禁されたので、その頃を思い出した投稿です。

https://twitter.com/keep_smile405/status/1491545779336478723

 

キリン

ツイート件数は、46件/日と3社の中では最も少ない件数となりました。なお、グラフの通り、今年4月後半からツイートが急増していることがわかります。拡散機会は10回確認されています。

観測期間中で規模が最大となった拡散を生み出したツイートは以下のオリコンニュースのグリーンズフリーのCM紹介記事でした。このような施策の効果もあって4月以降に対象となるツイートの件数が大幅に増加しています。

以下のグラフは各社のノンアルコールビールに関連するツイート件数の月次推移を示しています。キリンの4月のツイートが突出していることがよくわかります。また、各社とも秋口の9月くらいから減少し11月12月ごろに最小となり、その後4月ごろまで徐々に増加するトレンドが見て取れます。

<定性的な分析>

次に3社と一緒に語られる単語の頻出順を見みましょう。

下表は、それぞれの企業の商品ブランドと一緒に語られている単語を頻度順に上位20語をリストアップしたものです、赤がブランド名や企業名、黄が機能や効能に関連するもの、緑が情緒的な表現と仕分けして色分けしいます。

アサヒの頻出単語上位20件には黄(機能・効能)の単語が出現していません。一方で美味、ヘルシーなど情緒的(緑)の単語が多くみられます。

サントリーは「休肝」、「塩分」など黄(機能・効能)を示す単語も確認できます。

キリンも「減ら」「脂肪」「減らす」「まわり」「お腹」といった機能・効能を示す単語が多く出現しています。また、4商品ブランド(グリーンズフリー、カラダフリー、零ICHI(ゼロイチ)、パーフェクトフリー)のうち、グリーンズフリー、カラダフリーのみがランクインしています。

カラダフリーが訴求しているコピー「お腹周りの脂肪を減らす」を構成する単語が全て入っています。

アサヒドライゼロのブランドサイトで強調しているコピーは

「10年の時をかけ、ここまでビールのうまさに!」

です。このメッセージに沿った頻出単語「美味」、「美味しい」などが上位で確認できます。生活者にも訴求メッセージがしっかり届いていると評価できているのではないでしょうか。実際このようなツイートを確認することができます。

 

サントリーオールフリーのブランドサイトで強調しているコピーは

「気分はケンコーの時代」

です。飲むと健康になることを示唆するようなコピーですが、ブランドサイトには頻出単語で発生する「内臓脂肪」や「休肝」といった単語は出現しません。実際にこれらの単語を使用しているツイートを見ると、以下のような#当選報告アカウントからの投稿が数多くみられます。インフルエンサーマーケティングでこの観点を訴求している様子が伺えます。

キリンは前述の通り、グリーンズフリー、カラダフリー、零ICHI(ゼロイチ)、パーフェクトフリーのブランドがあります。それぞれのブランドサイトのコピーは以下の通りです。

ゼロイチ:「麒麟の傑作」

グリーンズフリー:「ちょっと特別なノンアル」

カラダフリー:「お腹まわりの脂肪を減らす」

パーフェクトフリー:「脂肪と糖が気になるあなたに」

それぞれのメッセージが混在しているなか、特にカラダフリーのメッセージ「お腹」「まわり」「脂肪」「減らす」が全て頻出単語上位20件に含まれていることが印象的です。

 

まとめ

以上、ノンアルコールビールのクチコミ状況をみてきました。前述の通り「ノンアルコールビール」で抽出したツイートの日次平均件数は2,733件/日でした。これに対して、最多のサントリーでも158件/日、3社合計でも281件/日です。生活者の多くのツイートは特定の商品ブランドを語っているのではなく、「ノンアルコールビール」という飲料ジャンルの総称について語っていることがわかります。言い換えれば、突出して認知が高い商品ブランドは少なくともTwitterの世界では存在しないことを示しています。

以下は、「食べ合わせ」に関連する単語とノンアルコールビールが一緒に語られる場合の頻出単語上位20件です。第3位に「意外と」という単語が入っています。どんな食べ合わせを「意外と」感じたのか調べてみました。

 

 

多くは次のようなツイートです。

「ノンアルコールビールは不味い」という先入観が覆されたとの感想コメントを返信する人を数
多く確認されました。

 

「意外と」美味いことだけに気づいた感想だけでなく、

ノンアルコールビールの新しい価値・楽しみ方に気づいた投稿も数多く確認できました。

  • 眠れないのでビールのノンアルコールビール割を飲む。意外と美味い(^.^;

  • 亀田のおかきは黒胡椒効いててとても良い ノンアル飲料とか意味わかんないと思ってたけど、ジュースじゃなくてこういう味が欲しいこと意外とあるなぁ
     
     
  • 今日は休肝日 ホルモン焼きながらベランダ呑み アサヒのノンアルビール意外と美味い

  • オールフリーに入れるのは檸檬堂だけなんだろうか、意外となんでもオールフリーで割ったら美味しかったりしないのか?

  • 毎日のビール(正確には新ジャンル)をノンアルビールに変えて2週間くらい経ったが、意外といけているし、むしろ美味いように感じてきている。酔わないのでつい毎日2本以上飲んでしまって逆に出費がふえているのが悩みだ。

  • 今日ノンアルもらったけん美酢と割って飲んだら意外と美味しかた

  • ダイエット中だからサントリーのオールフリーで飲酒欲求しのいだりしてるときに 意外とノンアルでもやっていけるな〜

 

さらにランキングにはありませんが、「合う」や「マリアージュ」といった単語を含むツイートにまで範囲を広げると、相性の良い食べ合わせを紹介している以下のようなツイートが確認できました。

  • 今日は3回目のワクチン接種日だったのでアルコール禁止だから、ノンアルコールビールとトマトジュース1:1で作ったブラッディマリー。これが意外と美味しいんだよね。 オススメはアサヒドライのノンアルと伊藤園の理想のトマト11

  • スーパーで買ったふきの煮物にからだを想うオールフリーがこの上なくマリアージュしてる。この組み合わせが相性良いとは思ってなかった。

  • キリンゼロイチ、塩辛と合わせても全然生臭くならずキリッとキレ味保ってた。 ビールらしい味わいはこれがピカイチと思ってたけど、ノンアルビールには無理や思てたブラッシュアップまでやってのけるとは。

 

商品の訴求を考える際に、参考になる意見もあるように思われます。

ソーシャルリスニングでネットの声を分析してゆくと、気づかなかった生活者のブランドの認知実態が明らかになることもありそうですね。

 

ループス・コミュニケーションズでは、ソーシャルリスニングの戦略立案から導入、運用サポートまで、ソーシャルリスニングのビジネス活用支援を行っています。まずはお気軽にお問い合わせください。

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:福田浩至

株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理)

多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。

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