企業内にソーシャルの仕組みを 〜 運用の前に準備するコミットメント

福田浩至 | 2012/03/14

ANAJALのFacebookページが人気です。とりわけ、社員の写真と仕事の様子を紹介する投稿を楽しみにしている方は、少なくないのではないでしょうか?

 
ANAでは、月曜日の朝 「おはようございます。今日はXXXX部、XXさんの笑顔でスタート!!」JALでは、不定期ですが、しばしば 「こんにちは、XXXX担当のXXです」 といったメッセージとその人の写真が投稿されています。これらの投稿には1,000件以上の「いいね!」と100件を越えるコメントがつくことも珍しくありません。ネガティブなコメントも、殆ど見当たりません。 社員や社内の様子をネット上にオープンにする試みは、Facebookページに限ったことではありません。

 

フォード社は自社メディアであるFord SocialでOUR ARTICLESというコーナーを設け、記事ごとに多くの社員や関係者がビデオで出演します。GE社は自社ブログEdison’s Deskで100名を超す一線級の科学者である社員が実名でブログ投稿をしています。

 

 

 

 
業務の公開も盛んです。清酒金陵では、「普段なかなか見る事のできない酒造工程」を15種類の映像で紹介しています。自発的にとは言えないかもしれませんが、東京電力も昨年5月末から福島第一原子力発電所の様子を「ふくいちライブカメラ」と称しライブ中継を続けています。

 
これらを通じて企業は、企業のことをより多くの人に知ってもらうことに努めます。社員にとっても、このような機会を経験することで、企業アピールに貢献できる自負を感じる人もいると思います。社員の家族にとっても、これまで聞いただけでは今ひとつ理解出来なかった、仕事や会社の様子を垣間見る機会にもなるでしょう。

 

企業の透明性が叫ばれる中、ソーシャルメディアを通じて企業内部の情報を紹介することは、今や多くの企業が取り組んでいるキラーコンテンツです。 これらの情報を効率的に発見し、記事化するためには、社員同士が活発にコミュニケーションを行っていることが、大きな助けになります。

 

エンタープライズ・ソーシャルネットワークが企業の透明性を高める

 
今、エンタープライズ・ソーシャルネットワークを導入しようと考えている企業が増加しています。

 

導入目的は、

  1. 部門の壁を超えた情報共有で、コラボレーションやイノベーションを促す 
  2. 社内での知識や経験、提案書やドキュメントなどを蓄積し、再利用する
  3. 全社員のソーシャルリテラシーを高める 社員を大切にする経営のプラットフォームとする
  4. 社員を大切にする経営にするために、社員の発言場所を提供し、社員の声を傾聴する

(参考:「企業内にソーシャルの仕組みを 〜 エンタープライズ・ソーシャルネットワーク導入の要諦」)

 

がありますが、それぞれの目的が進捗すれば、FacebookやTwitter等オープンな対話の場であるソーシャル・ネットワークへのコンテンツ供給のみならず、取り組み姿勢にも、良い影響を及ぼすことでしょう。エンタープライズ・ソーシャルネットワークを導入するのであれば、社外に発信することも配慮し、相乗効果を発揮したいものです。

 

企業のソーシャルネットワーク運用体制

 

今後、多くの企業がFacebookページ、Twitterやmixiページ等の公式アカウント(本稿では、このような不特定多数の社外の方が利用される可能性があるソーシャルネットワークを「パブリック・ソーシャルネットワーク」と表現します)とFacebookグループ、YammerやChatter等の主に企業内のメンバーで利用する「エンタープライズ・ソーシャルネットワーク」の両方を運営するケースが増えてゆくと予想されます。図はその場合の、運用チームと社員・生活者との関係を表しています。
 

 

 
本稿では、エンタープライズ・ソーシャルネットワークを導入する目的と手段が確定した後から運用を開始するまでの、準備するべきコミットメント(約束事)についてまとめました。

 

なお、エンタープライズ・ソーシャルネットワークの実現方式に関しては、

企業内にソーシャルの仕組みを〜ツールはどう選べばいいのか?Facebook/Yammer/Chatter etc

に、現在利用出来るツールごとの特性をまとめてあるので、参考ください。

 

運営チームは、パブリック・ソーシャルネットワークは私の経験上では、広報部門やマーケティング部門などが担当し、エンタープライズ・ソーシャルネットワークは、情報システム部門などが担当するケースが多いように思われます。一方の、あるいは、両方のソーシャルネットワークとも運用を開始していないのであれば、一元化した組織で運営できることが理想的です。統合できないにしても、コミットメント(約束事)は双方を十分に配慮したものにしてゆくことが重要です。

 

運用を開始するまでの準備

 

上の図中では、運用する際に最低限、必要な関係者間でのコミットメント(約束事)を①〜④で付与しました。これまで独立して起案されることの多かった、それぞれの規約を両方の運用を配慮したものにできれば、双方の運用に、そして何よりソーシャルネットワークの活性化に大きく寄与するでしょう。それぞれの記載内容を下表にまとめました。

 

 

それぞれの主な内容をパブリック・ソーシャルネットワークとエンタープライズ・ソーシャルネットワークで対比して説明します。

 

①活性化施策

ソーシャルネットワークを活性化させるための施策を検討します。ここでは、(1)誘引(サービスを認知してもらう施策)と(2)コンテンツ(認知した後に楽しんでもらう・定着してもらう施策)を考えます。

 

(1)誘引

利用者を誘引するための導線を設計します。パブリック・ソーシャルネットワークでは、自社サイトや自社ブログにソーシャルプラグインを設置したり、プレスリリース等で開設を告知します。また、広告やメディア告知、キャンペーン等を展開することも検討します。

 

一方エンタープライズ・ソーシャルネットワークを社員に使ってもらう場合、まずは、職場で利用できる環境を整備することが不可欠です。社内規約によって職場からのインターネット接続が制限されている企業も少なくありません。また、旧式のブラウザを用いている場合には、サービスによっては利用できない機能があったりします。このような利用環境を整備するとともに、社員に対する告知および活用促進の施策を考えます。

 

利用促進には、

  • 経営者や職位上席者が積極的に参加する意向と実際の行動
  • 利用すると仕事が捗る施策、あるいは業務プロセスへの組み込み
  • インナーキャンペーン(社員向けのイベント)

等が、効果的です。

 

(2)コンテンツ

パブリック・ソーシャルネットワークに発信する内容自体の発案とともに、企画立案から公開までのプロセスを設計します。

 

ここでは、

  • エンタープライズ・ソーシャルネットワークの情報のなかで、生活者に届けたいものをパブリック・ソーシャルネットワークに展開すること
  • パブリック・ソーシャルネットワークで得られた「顧客の声」ををエンタープライズ・ソーシャルネットワークに展開することを意識してプロセスを定義しましょう。

 

エンタープライズ・ソーシャルネットワークのコンテンツ制作は専ら社員に取材したり、制作自体を依頼することが多くなります。本業務をもつ本人だけでなく、その上長にも協力を得られるように企業のバックアップ(経営のコミットメント)および事前の説明・啓蒙活動が必要です。
  

パブリック・ソーシャルネットワークの企画を考える場合には、冒頭で述べた通り、社員や業務内容等の公開が、キラーコンテンツになりうることを念頭におき、エンタープライズ・ソーシャルネットワークでの話題をパブリックに展開することを考えます。

 

また、エンタープライズ・ソーシャルネットワークにパブリックの情報を流通させる仕組みを考えましょう。エンタープライズ・ソーシャルネットワークが活性化しない大きな要因として、話題が固定的なメンバーだけのものになり、議論がマンネリ化してしまうことがあります。一般生活者の声が直接聞けるパブリック側の情報は、新しい議論を誘発する強力な触媒になるでしょう。お客さまの声に素直に耳を傾け、考える習慣づくりにもなります。

 

②運用者向けガイドライン

コミュニティの運用担当者が、業務を遂行する際の最低限の約束事を規定します。
 

(1) 投稿・対話

パブリック・ソーシャルネットワークでは、トーン&マナーの原則を決めておきます。企業アカウントによっては、キャラクター設定をすることも珍しくありません。この場合には、一貫性のある発言や返信の語調を決めておきます。エンタープライズ・ソーシャルネットワークでは、①活性化施策で述べた、社員にコンテンツの制作を依頼する規定に従い、了解を得ます。また、提供してもらうコンテンツが、パブリック・ソーシャルネットワークに公開可能なものかを予め確認しておき、パブリック・ソーシャルネットワークの運営者と共有しておけば、業務効率が高まります。

 

また、エンタープライズ・ソーシャルネットワークでは、話題が歪んだ方向に進んだ場合の軌道修正(モデレーション)も運用担当者の重要な役割になります。

 

(2) 他部門連携

運用担当者には、常に会社の代表として利用者に接しているプレッシャーがあります。パブリック・ソーシャルネットワークもエンタープライズ・ソーシャルネットワークの運用チームにも、困ったときに他部門と連携して問題を解決する仕組みを準備しましょう。

 

パブリック・ソーシャルネットワークでは、運用チームで回答できない場合のエスカレーションフローを予め用意しておきましょう。運用チームでどこまでなら単独で判断して良いのか、判断できない場合に相談する相手は誰なのかを決めてあげることで、プレッシャーは緩和され、迅速な対応が可能になります。

 

エンタープライズ・ソーシャルネットワークでは、コミュニティが活性化するための協力を、各部門に遠慮せずお願いできる環境を提供することが大切です。当然、業務を抱えている人に「本業以外」の仕事を依頼をするわけですから、誰もが本業を優先し、ベストエフォートな対応になります。このため、運用の目的を理解している社員と理解していない社員で、協力意識も大きく異なってきます。

 

(3) 評価・PDCA

評価方法を定義しましょう。もちろん、目的にによって評価項目や指標は異なりますが、決めることによって運用の進捗度合いが測れます。また、進捗が芳しくない場合には、実行内容の見直しを促す動機付けになります。また、相乗効果がでる運用を目指しているわけですから、パブリック・ソーシャルネットワークの評価項目にはエンタープライズへの貢献、エンタープライズ・ソーシャルネットワークの評価項目にはパブリックへの貢献も追加しましょう。

 

ソーシャルメディアは、刻々と変化してゆきます。運用のPDCAサイクルを確立し、常に軌道修正をしながら運用改善を進めることが求められます。また、PLANやCHECKはパブリック・ソーシャルネットワークとプライベート・ソーシャルネットワークの運用チームが合同で実施することも、それぞれの活性化に資する試みであると思います。

 

また、パブリックでは、そのコミュニティで得られた「お客さまの声」を社内にフィードバックする仕組みも作りましょう。エンタープライズ側では、社員個々人の知見が集積されてゆきます。これを以降にアクセスしやすくするための工夫に知恵を絞りましょう。

 

③社員向けガイドライン

社員に(1)会社からのメッセージを伝え、参加する際の(2)推奨事項と(3)禁止事項を定義します。総じて、パブリック・ソーシャルネットワークは軽率な発言をしないように心がける注意事項、エンタープライズ・ソーシャルネットワークは積極的に参加してもらうための動機付けが中心となる傾向があります。当然、エンタープライズ・ソーシャルネットワークで不適切な行動があっても、限定的で企業の統制力が及ぶ範囲に留めることができます。いわゆる世間を騒がせる炎上事件に発展するリスクはほとんどありません。

 

エンタープライズ・ソーシャルネットワークに参加することは、ソーシャルリテラシーを高める効果もあります。理想は、一貫性のある企業理念や行動規範となるコアバリューに基づき、パブリック側でもエンタープライズ側でも社員個人個人が自らの判断で、積極的に参加できることです。このガイドラインは策定するだけでなく、浸透するように講習会などの教育プログラムを実施することをお勧めします。

 

(1)会社からのメッセージ

運用を開始する理由・目的を表明します。同時に、企業や経営者がこのサービスにどのような関わりをするのかを宣言します。パブリック・ソーシャルネットワークでは、このアカウントを通じて「多くの生活者の皆さんと交流したい」「様々なアイディアを求めたい」「当社・ブランドの事をより深く・広く知ってもらいたい」といったメッセージを伝えます。

 

エンタープライズ側では、社長名で「ほぼ毎日ログインして、投稿をチェックします。誰でも直接メッセージを受け付けます。」といった宣言をしてもらえれば、社員も大いにモチベーションが上がるのではないでしょうか。

 

(2) 推奨事項

それぞれのソーシャルネットワークを活用してもらいたい用途を具体的に紹介します。パブリックでは、「発言するときは立場(会社名)を明かして発言する」「生活者の声に真摯に耳を傾けましょう」といったメッセージを伝えます。エンタープライズでは、情報収集に困っていることの投げかけや業務改善の相談等、より実践的な活用を推奨することが考えられます。しかし、専ら業務に終始すると、活性化しないことも考えられますので、柔らかいネタを提供することも奨励しましょう。

 

(3)禁止事項

パブリック・ソーシャルネットワーク、エンタープライズ・ソーシャルネットワークも社会人として最低限守らなければならないマナーを規定します。

 

④利用規約(コミュニュケーション・ガイドライン)

生活者にパブリック・ソーシャルネットワークに参加してもらう際のお願い事項をまとめます。エンタープライズ・ソーシャルネットワークは、③社員向けガイドラインを掲載することになります。

 


エンタープライズ・ソーシャルネットワークの効果的な活用は、社員間のコミュニケーションを濃密なものにするだけでなく、公式アカウントの円滑な運営や、社員がソーシャルメディアに接する際の行動にも良い影響がもたらします。全ての社員が、あらゆる局面で、企業の理念や行動規範に基づきを自律的に行動できれば、素晴らしいですね。

 

 

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COMMENT

12 件のフィードバック

  1. tinsep19 より:

     企業の透明性が叫ばれる中、ソーシャルメディアを通じて企業内部の情報を紹介することは、今や多くの企業が取り組んでいるキラーコンテンツ

  2. fm315 より:

    "企業の透明性が叫ばれる中、ソーシャルメディアを通じて企業内部の情報を紹介することは、今や多くの企業が取り組んでいるキラーコンテンツです。"

  3. k_yorikane より:

    さすがによく纏まっているlooopsの記事|企業内にソーシャルの仕組みを 〜 運用の前に準備するコミットメント http://t.co/siw8kDpL

  4. kanachan より:

    企業内にソーシャルの仕組みを 〜 運用の前に準備するコミットメント http://t.co/hh1vT7kt @LooopsComさんから

  5. takeok より:

    企業内にソーシャルの仕組みを 〜 運用の前に準備するコミットメント http://t.co/JndclHkq via @LooopsCom

  6. takeok より:

    企業内にソーシャルの仕組みを 〜 運用の前に準備するコミットメント in the looop 福田浩至 http://t.co/6DYrSrin

  7. tt_pooh より:

    社内SNSと社外SNSをうまく連携させよと。なるほど。> 企業内にソーシャルの仕組みを 〜 運用の前に準備するコミットメント in the looop 福田浩至 http://t.co/e5uzESba

  8. kaneinl より:

    エンタープライズ・ソーシャルネットワークを導入する目的と手段が確定した後から運用を開始するまでの、準備するべきコミットメント(約束事)についてまとめました。… http://t.co/jypkm24o

  9. tmodder より:

    企業内にソーシャルの仕組みを 〜 運用の前に準備するコミットメント http://t.co/p5Xb9olt @LooopsComさんから

  10. junichiron より:

    企業内にソーシャルの仕組みを 〜 運用の前に準備するコミットメント http://t.co/S7e9xN3g 導入目的、関係図、コミットメント内容などがわかりやすくまとまっています。

  11. nagano_aka より:

    “企業内にソーシャルネットワークの仕組みを〜運用の前に準備するコミットメント〜 in the looop 福田浩至” http://t.co/WCmzNdq3

  12. t_kiyoyuki より:

    企業内にソーシャルの仕組みを 〜 運用の前に準備するコミットメント http://t.co/7D9EMIoA

AUTHOR PROFILE

  • 著者:福田浩至

ループス・コミュニケーションズ副社長。

企業がソーシャルメディアを運用する際のリスクマネジメントが専門分野(安全に・効果的に運用するための組織構築やガイドライン策定などのサービスを担当しています)。

趣味は「ドカ食い」です。バランスを取るために、ときどき「ジョギング」をしていますが、なかなか均衡がとれません。

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