名古屋市のテーマパーク「レゴランド・ジャパン」で発生した顧客対応を巡る炎上騒動は、企業の広報担当者、特に炎上リスクに関わる方々にとって、多くの教訓を提供する事例となりました。
今回の騒動は、来場者への不適切な初期対応に加え、本多良行社長が顧客とのダイレクトメッセージ(DM)を一方的に公開したことで大炎上したものです。
この事例からは、エリートとされる経営者が陥りがちな「専門バカ」や「タコツボ化」の弊害、企業のトップが取るべき危機管理広報の基本原則、そしてSNS時代における情報発信の危険性など、多岐にわたる学びが得られます。
概要:事実の時系列整理
今回のレゴランドの炎上騒動は、以下の時系列で展開しました。
- 2024年1月16日 来場者への不当な対応: 家族3人で来場した顧客の夫が、スタッフから「子ども用チケット」で入場しようとしたと疑いをかけられました。購入済みの年間パスポートでの入場にもかかわらず、差額の支払いを求められ、寒空の下で40分以上も待たされたといいます。最終的にスタッフ側の間違いと判明しましたが、説明や謝罪は一切ありませんでした。この顧客は「詐欺師扱いされた」とX(旧Twitter)に投稿し、憤慨した様子をみせました。
- 2024年1月16日23時頃 社長によるDMでの謝罪: 顧客のXへの投稿に対し、レゴランド・ジャパンの本多良行社長が直接DMを送信しました。
- 2024年1月17日 DMの無断公開と炎上: その後、本多社長は自身のXアカウントで「申し訳ないですが、私も自身をクリアにする必要があり、憶測を起こしたくないので私が送ったDMの内容を開示させてください」と投稿し、顧客とのDMのやり取りを一方的に公開しました。この投稿は後に削除されましたが、この行為やDMの内容自体がさらなる批判を集め、炎上を招きました。
- その後の対応: DMを受け取った顧客は、社長のDMを「高圧的だとは感じました」と投稿し、これ以上の進展は望まない意向を示しました。また、顧客はスタッフから電話で謝罪を受けたと投稿しています。一方で、レゴランドのウェブサイトでは、この件に関する公式なプレスリリースは(1月20日時点では)出されていませんでした。
【削除済み】レゴランド社長が顧客とのDM内容公開、謝罪姿勢などにも批判相次ぐhttps://t.co/Se1b3Zjxx0
家族で園を訪れたユーザーが子ども用パスで入園しようとしているなどと疑いをかけられたのが発端。社長がSNS上で謝罪をしたと同時に「憶測を起こしたくない」とDM内容を公開していた。 pic.twitter.com/hOJtXZKdQm
— ライブドアニュース (@livedoornews) January 18, 2024
リスク兆候:炎上前後の兆候をどう検知できたか
今回の炎上には、いくつかのリスク兆候が見られました。
- 顧客のXへの投稿: 顧客が「詐欺師扱いされたうえにろくな謝罪ももらえず」とXで詳細な経緯を発信した時点が、最初の明確なリスク兆候でした。企業の広報担当者は、こうしたSNS上の顧客の声を見逃さず、迅速に状況を把握し、対応を検討する体制が必要です。
- 過去の類似トラブル: ソースからは、今回のトラブルが初めてではない可能性が示唆されています。例えば、ネットチケットの有効期限に関する説明不足やシステム的な問題が過去にもあったという投稿が挙げられており、これは潜在的なシステム不備や顧客対応の課題の兆候と捉えるべきでした。繰り返される問題は、組織全体の「お客様に謝ることを良しとしない」という暗黙の了解が存在する可能性も示唆しています。
- 経営トップのSNS利用におけるチェック体制の欠如: 危機管理・広報コンサルタントの平能哲也氏は、SNS投稿は本人が書いて投稿するだけで、誰もチェックしない点が最大のリスクだと指摘しています。特に社長や取締役がプライベートで投稿する場合、第三者のチェックが入ることはまずないため、セルフチェックや、重要な投稿の際には家族や友人にコメントを求めるなどの対策が必要とされています。
炎上原因:ユーザーの怒りのポイント
今回の炎上は、単一の事象だけでなく、複数の要素が複合的に絡み合って発生しました。ユーザーの怒りのポイントは主に以下の通りです。
1. 不当な「詐欺師扱い」と不誠実な初期対応
- 顧客が子ども用チケットで入場したと疑われ、根拠なく「詐欺師扱い」されたこと
- 寒空の下で長時間待たされたこと
- スタッフ側の間違いと判明した後も、説明や謝罪が一切なかったこと
顧客は「レゴランド側は『お客様が間違っている』と言う姿勢を変えなかった」と不満を述べています。
もし顧客の不正が疑われる場合でも、明らかに「クロ」と判明するまでは丁重に対応するのがセオリーであり、長時間屋外で待たせる対応は不適切でした。
2. 社長によるDMの無断公開と「自己保身」
- 社長が顧客のDMを相手の許可なく一方的に公開したことは、プライバシー侵害にあたり、「トップとして不適切で軽率な行動」と厳しく批判されています
- DM公開の理由を「自身をクリアにする必要があり、憶測を起こしたくないので」とした点が、「自分の保身を優先する姿勢」と受け取られました
3. 謝罪の姿勢とDMの内容の不適切さ
- 社長が送ったDMが「高圧的だ」と顧客自身が感じたこと
- 「この度は問題提起、ありがとうございます」という謝罪の冒頭の言葉が、「上から目線」や「非を認めたくないニュアンス」と批判されたこと
- 「レゴランドの99%のスタッフは、お子様、ご家族、ゲストへの接客を心から生き甲斐にしている、いいスタッフです」という一文が「まったく逆効果を生む表現」と評されたこと
- 再発防止策がDMで具体的に提示されなかったこと
4. 社長の経歴と「万能感」の弊害
本多社長がMBA取得者で、外資系コンサルティング会社出身という「非の打ちどころがないエリート」でありながら、エンターテインメント業界の経験が全く見えない「プロ経営者」である点。こうした経歴を持つエリートが「なんでもできるし、自分は間違っていない、と思うのも無理はない」という「万能感」に陥り、「専門バカ」「タコツボ化」の弊害が見て取れると指摘されています。
企業の対応:実施内容と反応
レゴランド側の公式な対応としては、問題発覚後に本多社長がDMを送信し、そのDM内容をXで公開(後に削除)したこと、およびスタッフによる電話での謝罪がありました。
これに対する世間の反応は、強い批判と不信感でした。
- 社長のDM公開は「対応がひどい」「言い訳じみている」と炎上に油を注ぐ形となりました
- 特に「自身をクリアにする必要があり」という社長の文言は、「自分の保身」「非を認めたくないニュアンス」と捉えられました
- 「レゴランドには『安易に客に謝るということを良しとしない』という不文律が存在するようにも感じる」という指摘もありました
- 社長が有名外資系コンサル出身であったことから、「コンサル業界までとばっちり」という声も上がりました
SNSの反応:感情のトーンや拡散ルート
SNS上では、レゴランドの一連の対応に対し、以下のような感情のトーンと拡散ルートが見られました。
感情のトーン
- 顧客への「詐欺師扱い」や「高圧的な態度」に対する憤慨と共感
- 社長のDM公開と内容に対する呆れ、批判、皮肉
- 「楽しみにして行ったご家族が可哀想」といった被害者への同情の声
- 「システム的な問題では?」といった企業体質やシステムに対する疑問
拡散ルート
- 発端は、被害を受けた来場者によるX(旧Twitter)への詳細な投稿でした
- それに続く本多社長によるDMの公開が、炎上を決定的に加速させました
- X(旧Twitter)だけでなく、多数のニュースメディアがこの騒動を取り上げ、さらに広範な層に情報が拡散しました
教訓:他社が学ぶべきポイント+未然防止策
今回のレゴランドの炎上騒動から、企業が学ぶべき重要な教訓と未然防止策は以下の通りです。
1. 顧客対応の基本を徹底する
- 「お客様を詐欺師扱いしない」という基本原則を徹底すること
- 不正が疑われる場合でも、顧客を長時間待たせることなく、丁重かつ迅速に確認作業を行う
- 間違いが判明した際は、速やかに、かつ誠実な説明と謝罪を行うこと
- 謝罪の際は、定型的かつ簡潔でストレートな表現を心がける
2. 経営トップのSNS利用における厳格なルール設定
- 企業のトップが個人的なSNSアカウントで顧客と直接やり取りし、その内容を公開することは極めてリスクが高い
- 相手の許可なくDMを公開することは、プライバシー侵害にあたる不適切な行為
- 万が一トップがSNSで発信する場合は、発信前に複数の関係者によるチェック体制を確立する
3. 危機管理広報の標準フローの順守
- 炎上や重大なトラブルが発生した場合、社長の個人Xポストではなく、企業として公式な謝罪声明を出す
- 謝罪文には、「誤解を招く余計な言葉」を使用せず、再発防止策を具体的に提示する
- 必要であれば、担当者が顧客の自宅などに直接出向いて謝罪するなど、誠意ある対応を検討する
4. 「プロ経営者」の落とし穴と業界理解の重要性
- エンターテインメントやサービス業においては、数字やロジックだけでは測れない「顧客体験」や「感情」の側面が極めて重要
- 異業種から来た「プロ経営者」は、その業界特有の顧客心理や現場感覚を深く理解し、自身の「万能感」に陥らないよう注意が必要
まとめ:行動につなげる振り返り
レゴランドの炎上騒動は、企業が直面しうる危機管理と広報の失敗の典型例として、多くの示唆に富んでいます。この事例から得られる最も重要な行動への振り返りは以下の通りです。
「顧客ファースト」の徹底
あらゆる企業活動において、顧客の体験と感情を最優先する文化を醸成すること。これは、現場のスタッフから経営トップに至るまで、組織全体で共有されるべき理念です。
強固な危機管理体制の構築
- SNS上の顧客の声に常に耳を傾け、リスクの兆候を早期に検知するモニタリング体制を整える
- 問題発生時の初期対応から公式発表に至るまでの、明確な社内プロトコルを確立し、定期的な訓練を行う
- 特に、経営トップのSNS利用については、「個人の発信も企業の顔である」という自覚と、公開前の厳格なチェック体制を徹底する
誠実なコミュニケーション
謝罪や説明の際には、言葉遣いにどこまでも慎重になり、自己保身や責任転嫁と受け取られる表現は排除し、真摯な姿勢と具体的な再発防止策を示すことが信頼回復の鍵となります。
今回の騒動は、企業の規模や経営者の経歴に関わらず、基本的な顧客対応と危機管理の原則を軽視すれば、いかに大きな「炎上」を招き、企業イメージを損なうかを鮮明に示しています。他社はこの教訓を自社の広報活動やプロモーション活動に生かし、未然にリスクを防ぐための行動につなげるべきです。
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