一貫性なき対応が信頼を損なう―スシロー炎上から読み解く危機管理の盲点

関根健介 | 2025/02/14

一貫性なき対応が信頼を損なう―スシロー炎上から読み解く危機管理の盲点

2025年1月下旬、大手回転ずしチェーン「スシロー」が、長年イメージキャラクターを務めていた落語家・笑福亭鶴瓶氏の広告コンテンツを公式サイトから一時的に削除し、SNSを中心に大きな炎上を引き起こしました。
この騒動は、鶴瓶氏が元SMAP・中居正広氏の女性トラブルに絡むバーベキューパーティーに同席していたという報道が発端となりましたが、鶴瓶氏自身の不祥事ではなかったにもかかわらず広告が削除されたことで、「とばっちり」「やりすぎ」といった批判が殺到しました。

本記事では、このスシローの広告削除炎上事例を詳細に分析し、炎上リスク担当者が今後の広報活動において学ぶべき教訓と、未然防止策について考察します。
消費者の感情、企業の対応、そしてその結果として生じた社会的な反応を深く理解することで、同様の事態を避けるためのヒントを得られるでしょう。

目次

概要:事実の時系列整理

今回の炎上は、以下の時系列で進行しました。

リスク兆候:炎上前後の兆候をどう検知できたか

今回の炎上は、鶴瓶氏自身の不祥事ではなく、中居氏の女性トラブルという外部要因、かつ鶴瓶氏がその周辺にいたという「関連性」がトリガーとなりました。

炎上前の兆候としては、まず中居氏の女性トラブル報道自体が、彼と親交の深い鶴瓶氏への影響を予見させるものでした。
鶴瓶氏が出演する番組でのカット対応や降板が先に起きていたことも、その関連リスクの存在を示唆していました。

次に、鶴瓶氏がBBQパーティーに参加していたという週刊文春の報道が決定的なトリガーとなりました。
この報道が出た時点で、関連するタレント(鶴瓶氏、ヒロミ氏)がメディアでコメントしているか、あるいはSNS上で話題になっているかを注視することが重要でした。

スシローの広報は「お客さまから様々なご意見を頂戴いたしました」と説明していることから、実際に顧客からの問い合わせやクレームが殺到したことが直接的な「兆候」であり、企業はこれを検知していました。
しかし、その「声」の質や量、そして対応の妥当性を冷静に判断するプロセスが十分でなかった可能性があります。

 

炎上原因:ユーザーの怒りのポイント

ユーザーがスシローの対応に怒りを示した主なポイントは以下の通りです。

  • 「とばっちり」であることへの反発:鶴瓶氏が直接的な不祥事を起こしたわけではなく、単に中居氏のバーベキューパーティーに同席しただけで広告が削除されたことに対し、「流石にとばっちりすぎてこれは気の毒すぎる」「現時点での情報では何もしていないのに、やり過ぎやって」といった声が上がりました。
  • 企業の判断基準の不明確さ:スシローが当初「お客さまから様々な声をいただいておりましたことを踏まえ総合的に判断し対応しております」と曖昧な説明に終始したことで、「何を問題視して広告から鶴瓶さんを消したのか、ちゃんと説明された方が良いですよ」と、説明責任を求める声が上がりました。
  • 「芯がない」企業体質への不信感:過去の「醤油ぺろぺろ事件」では、当初慎重な姿勢を見せつつも、世論の高まりを受けて加害者に多額の損害賠償を請求するなど強硬手段に出たスシロー。今回の鶴瓶氏の件でも、世論の批判を受けて態度を変えたように見えたため、「会社としての芯がない印象をうけた」「スシローの信頼はなかなか回復しないと思います」といった厳しい意見が出ました。
  • 「自分たちが迷惑行為で問題になったの忘れた?」という批判:過去に企業として問題を起こした経験があるにもかかわらず、鶴瓶氏に対して過剰な対応を取ったことに、一部から皮肉な声が上がりました。

企業の対応:実施内容と反応

スシローは、鶴瓶氏のCM画像などを公式サイトから一時的に削除する対応を取りました。
この最初の対応に対し、ネット上では「過剰反応だ」「説明が不十分だ」といった批判の声が相次ぎ、炎上状態となりました。

その後、スシローは2月6日に公式サイトを更新し、今回の対応について謝罪
削除理由を「笑福亭鶴瓶様に関する当初の報道を受け、お客様から様々なご意見を頂戴し、所属事務所様を通じて見解を頂いたものの、状況の全体像が不明確であったため、広告素材の使用を一時見合わせるという判断をいたしました」と説明しました。
そして、「笑福亭鶴瓶様および所属事務所の皆様にもご迷惑とご心痛をおかけし、深く反省しております」と反省の弁を述べ、広告の順次再開を決定しました。

 

 

この謝罪と再開の発表に対しては、「鶴瓶さん良かったね!」「またスシロー行くね」といった肯定的な声も一部見られたものの、「会社としての芯がない印象をうけた」「スシローの信頼はなかなか回復しないと思います」といった厳しい意見も残り、対応の一貫性に対する疑問が完全に払拭されたわけではありませんでした。

SNSの反応:感情のトーンや拡散ルート

SNS、特にX(旧Twitter)では、スシローの対応に対する様々な感情が飛び交いました。

感情のトーン

  • 鶴瓶氏への同情と擁護: 「とばっちり」「やりすぎ」「気の毒すぎる」といった声が多く、鶴瓶氏が不当な扱いを受けているという共感が広がりました。
  • スシローへの批判と不信感: 「何を問題視しているのか説明しろ」「顧客のクレームに屈するな」「芯がない」といった、企業姿勢への疑問や怒りの声が多数見られました。
  • 皮肉と過去の蒸し返し: 「自分達が迷惑行為で問題になったの忘れた?」と、過去の迷惑行為問題を引き合いに出し、スシローの対応を批判する意見もありました。
  • 再開時の賛否両論: 広告再開時には歓迎の声がある一方、企業の一貫性のなさを指摘する批判も継続しました。

拡散ルート

週刊誌のオンライン版やスポーツ紙、ニュースサイトが中居氏の騒動と鶴瓶氏の関与、そしてスシローの広告削除について報じ、SNSでの議論が活発化するきっかけとなりました。
特に、ニュースサイトのJ-CASTニュースがスシロー広報の曖昧な回答を報じたことが、SNSでの批判を加速させました。

 

 

教訓:他社が学ぶべきポイント+未然防止策

今回のスシローの事例から、炎上リスク担当者は以下の重要な教訓を学ぶことができます。

「関連性」と「直接的な不祥事」の明確な線引き

タレントが不祥事を起こした芸能人と「同席した」という事実と、タレント自身が不祥事の「当事者である」という事実は大きく異なります。
杉山大介弁護士も、「バーベキューに参加していただけで、問題になっていることに関連性は低い」と指摘しています。
企業は、タレントの契約において「不祥事条項」を設けることが一般的ですが、その適用範囲は慎重に定義し、安易に拡大解釈しないことが重要です。

未然防止策: 契約時に、どのような状況が「不祥事」と見なされ、広告の停止や解除の対象となるのかを具体的に定める。特に、「同席」「関連」といった曖昧な表現のリスクを認識し、より明確な基準を設ける。

コミュニケーションの明確性と透明性

「お客様からの様々な声を総合的に判断した」というスシローの初期説明は、具体性を欠き、かえって憶測と批判を招きました。
消費者は、企業が何を根拠にどのような判断を下したのか、納得できる説明を求めています。

未然防止策: 危機発生時は、迅速かつ正確な情報開示を心がける。判断の根拠や経緯を具体的に説明し、誤解や不信感を生む余地を最小限に抑える。たとえ説明が難しい内容であっても、誠実な姿勢を示すことが重要。

危機管理における一貫性と「芯」の重要性

スシローは、過去の「醤油ぺろぺろ事件」での対応と今回の鶴瓶氏の件で、世論の動向に左右されていると見られ、「芯がない」という批判を受けました。
一貫性のない対応は、企業のブランドイメージを損ない、消費者からの信頼を失う要因となります。

未然防止策: あらかじめ企業としての危機管理ガイドラインを策定し、いかなる状況下でもそれに則った一貫した対応を取る。世論やSNSの声に過剰に反応しすぎず、自社の倫理観と法務的な視点に基づいた毅然とした態度を保つことが不可欠です。

「感情論」と「法務的判断」の乖離を理解する

杉山弁護士は、「スシローは鶴瓶氏の顔を広告などに使用する権利を、お金を払って得ています。(中略)これは企業の選択でしかなく、行き過ぎやとばっちりといった何か基準を逸脱するような問題ではありません」と、法的にはスシローに問題がないと述べています。しかし、世論は鶴瓶氏への同情やスシローへの批判といった「感情論」で動きました。この法務的・倫理的な正当性と、社会的な感情との乖離を理解し、埋める努力が広報には求められます。

未然防止策: 法務部門だけでなく、広報、マーケティング、経営層が連携し、意思決定の段階で法的リスクだけでなく、世論の感情やブランドイメージへの影響を多角的に検討する。

 

まとめ:行動につなげる振り返り

スシローの鶴瓶氏広告削除炎上は、現代社会における企業の危機管理の難しさ、特にSNS世論の即時性と影響力を改めて浮き彫りにしました。
この事例は、炎上リスク担当者に対し、以下の行動につながる重要な振り返りを促します。

  • 危機管理体制の再構築と見直し: 曖昧な基準で判断せず、タレントやインフルエンサーとの契約において、具体的な行動規範と違反時の対応策を明確にする。
  • 情報収集とモニタリングの強化: 関連するニュースだけでなく、SNS上での評判、顧客からの直接的な意見などをリアルタイムで多角的に収集し、リスクの兆候を早期に検知する体制を構築する。
  • 多角的視点での意思決定: 法務部門、広報部門、経営層が密に連携し、事態発生時には法的妥当性、社会倫理、顧客感情、ブランド価値といった複数の視点から総合的に判断を下す。
  • 透明性のあるコミュニケーションの実践: 曖昧な説明を避け、なぜその判断に至ったのかを誠実に、かつ分かりやすく伝える。特に誤解を招きやすい状況では、積極的な情報開示を検討する。

炎上は企業にとって大きな試練ですが、そこから学ぶことで、より強固で信頼されるブランドを築く機会にもなり得ます。今回のスシローの事例は、「世論の動き次第で方針を変える」という印象を顧客に与えることの危険性を強く示唆しています。真の危機管理とは、短期的な問題の鎮静化だけでなく、長期的な信頼関係の構築を見据えた、一貫性のある誠実な対応にあることを忘れてはなりません。

貴社のリスク対策は万全ですか?

貴社の広報戦略は、予期せぬ文化的な地雷を踏まないための準備ができていますか? 私たちは、これらの事例で得られた深い洞察に基づき、貴社が直面しうるソーシャルメディア上の炎上リスクを詳細に分析し、予防策の策定から危機発生時の最適なコミュニケーション戦略まで、包括的なサポートを提供いたします。

今こそ、貴社のブランドを守り、社会からの信頼を勝ち取るための強固なリスク対策を構築しませんか?

ぜひ一度、当社にご相談ください。

お問い合わせはこちら

COMMENT

AUTHOR PROFILE

  • 著者:関根健介
ループス・コミュニケーションズ所属。某コンサルティング会社にてWebマーケティングやバイラルマーケティングを経験した後、数年放浪し2011年12月からループスへジョイン。ソーシャルメディアの健全な普及をねがい日々精進しています。関心のあるテーマはO2O・地域活性×ソーシャル・医療×ソーシャル・ソーシャルコマース ま〜ソーシャル全般です。 【座右の銘】 意思あるところに道あり 【Facebook】www.facebook.com/kensuke.sekine.7 【Twitter】 @kensuke_sekine
  • x
  • facebook
記事の一覧を見る

ARCHIVES