なぜSNS投稿の「危険日」「注意日」を意識すべきか?
SNSは、企業がユーザーと直接コミュニケーションを取り、ブランドイメージを構築するための強力なツールです。しかし、その一方で「炎上」という大きなリスクも常に隣り合わせにあります。炎上は企業の信頼を瞬時に失わせ、売上の低下や悪印象の定着など、経済的打撃を与える可能性があります。
特に注意が必要なのが、投稿内容そのものに問題がないように見えても、投稿する「タイミング」が原因で炎上してしまうケースです。世間の感情や意識が高まり、社会が敏感な状態にある特定の日や状況下では、何気ない投稿が「不謹慎だ」と受け取られ、批判の対象となる「不謹慎狩り」に繋がりやすい傾向があります。
企業アカウントは個人に比べて発言の影響力が大きく、より一層の社会的責任が問われるため、この「投稿日」に対する配慮は極めて重要です。
過去事例から学ぶ「危険日・注意日」炎上ケーススタディ
実際に投稿日が原因で炎上した事例は少なくありません。
大手エンタメ系企業の「なんでもない日おめでとう」投稿
2015年8月9日、ある大手エンタメ系企業がキャラクター画像と共に「なんでもない日おめでとう」と投稿しました。このフレーズ自体は映画の劇中歌に由来し、内容に問題はないように思えましたが、その日は長崎への原爆投下からちょうど70年目にあたる記念日でした。企業の本社が米国にあったこともあり、「何万人もの日本人が亡くなった日を、何でもない日とは何事か」「公式がする投稿ではない」と大きな物議を醸し、投稿は削除され謝罪に至りました。
長崎原爆忌に「なんでもない日おめでとう」 ディズニー、公式Twitterの「不適切な表現」を謝罪
ビデオレンタル店の震災関連投稿
あるビデオレンタル店の店舗公式アカウントが、東日本大震災時に「テレビは地震ばっかりでつまらない、そんなあなた、ご来店お待ちしています。」と発信し、炎上しました。これは、災害被害者への配慮が欠けていると捉えられた典型的な事例です。
TSUTAYA店長、不謹慎発言でツイッターが炎上 – ライブドアニュース
ファッションブランドの黒人歴史月間投稿
あるファッションブランドが黒人歴史月間を祝う内容のコメントと共に目出し帽風の黒いニットの商品の写真を投稿したところ、ブラックフェイスを想起させるとして炎上しました。
グッチが黒いセーターめぐり謝罪、黒人蔑視の批判受け
国際カミングアウトデーにおけるプロモーション
国際カミングアウトデーに「商品の秘密をカミングアウト」という形で宣伝した企業が炎上した事例もあります。これは、差別や偏見と闘ってきた記念日を軽視していると受け取られたためです。
“カミングアウト”の波紋 | NHK | News Up
これらの事例からわかるように、コンテンツの良し悪しだけでなく、投稿する日が持つ背景や社会情勢を深く理解することが、炎上を避ける上で不可欠です。
実務で役立つ!SNS投稿「危険日・注意日」の年間カレンダー
SNS投稿を注意するべきタイミングは、「世間の感情や意識が高まり、社会が敏感な状態にあるとき」と結論づけられます。具体的には、多くの人が亡くなったり被害を受けたりした日、社会が大きく変わった日、社会意識やムーブメントが高まる期間などが挙げられます。
以下に、特に注意が必要な日の種類と具体的な例を挙げます。
自然災害関連
地震
1月17日(阪神・淡路大震災)、3月11日(東日本大震災)、4月14日・16日(熊本地震)など。揺れ、震撼、火事、津波、家屋の崩壊などを連想させる投稿は避けましょう。
台風
9月7日(2004年台風18号)、10月12日(2019年令和元年東日本台風)、10月20日(2004年台風23号)など。吹き飛ばす、家屋の崩壊、土砂災害、川の氾濫などを連想させる投稿は不謹慎とされます。
水害
7月3日(2021年令和3年7月伊豆山土砂災害)、7月7日(2018年平成30年7月豪雨)など。川の氾濫、堤防の決壊、浸水、土砂崩れなどを想起させる投稿は避けましょう。
火山噴火
5月29日(2015年口永良部島噴火)、6月3日(1991年雲仙岳噴火)、9月27日(2014年御嶽山噴火)など。噴火や火山灰と結びつく内容は避けるべきです。
テロ・事件・事故関連
テロ・事件
3月20日(地下鉄サリン事件)、6月8日(秋葉原通り魔事件)、9月11日(アメリカ同時多発テロ事件)など。罪のない多くの人が巻き込まれた悲劇や恐怖を連想させる投稿は不謹慎です。
事故
1月15日(軽井沢スキーバス転落事故)、4月19日(東池袋自動車暴走死傷事故)、4月25日(JR福知山線脱線事故)、8月12日(日本航空123便墜落事故)など。事故を思い起こさせる内容や関連する記載は控えましょう。
戦争関連
8月6日(広島市への原爆投下)、8月9日(長崎市への原爆投下)、8月15日(終戦記念日)、6月23日(沖縄慰霊の日)など。戦争というデリケートなテーマは、感情や意識が高まっているため、言葉遣いやトーン、内容に特別な注意が必要です。歴史的背景や文脈を理解し、誤解を招く表現を避けましょう。
運動月間・国際記念日
国際友愛デー(2月4日)、国際女性デー(3月8日)、国際カミングアウトデー(10月11日)、世界エイズデー(12月1日)など。これらの日は特定のグループや個人に対する攻撃、偏見、差別を助長する可能性もあるため、十分な配慮が必要です。関連するコミュニティを尊重し、正確な情報を提供することが重要です。
政治・国際会議・サミット開催時期
選挙や国際会議、サミットの開催時期は、世間の意識が高まるため炎上リスクも高まります。特定の意見や立場を示す投稿は予想外の反応を引き起こすことがあるため、投稿内容や頻度を調整しましょう。
宗教関連
ラマダンなど、信仰心が高まる時期は特にデリケートです。多様な信仰を持つ人々に与える影響を十分に考慮し、SNSのような公開された場で宗教について語る際は細心の注意が必要です。
これらの「危険日・注意日」は、Statusbrewやジールコミュニケーションズ、コムニコなどのツールで提供される「SNS投稿注意日カレンダー」を活用することで、効率的に管理できます。これらのカレンダーを管理ツールにインプットし、投稿の参考にしましょう。ただし、政治的イベントの日付や太陰暦・ユダヤ暦に基づくイベントは年によって変動する可能性もあるため、最終的にはご自身でのチェックも重要です。
危険日・注意日の投稿における具体的な配慮ポイント
危険日や注意日における投稿では、以下の点に具体的に配慮しましょう。
- 不吉な言葉や連想させる表現を避ける: 自然災害やテロ、事件を連想させるような言葉(「揺れる」「爆発」「吹き飛ばす」「水に流す」など)や、人の死、苦しみ、滅びを意味する言葉の使用は避けましょう。
- 文脈とトーンの調整: 戦争や社会問題に関連するテーマを扱う際は、その歴史的背景や文脈を理解し、誤解を招く可能性のある表現を避け、敬意を表した言葉遣いやトーンを心がけましょう。
- ハッシュタグの適切な使用: 運動月間など特定の月間には関連するハッシュタグがありますが、インプレッションを増やす目的で安易に誤用すると批判を招く可能性があるため、意味と使用ルールを理解して使いましょう。
- 不用意な発言は控える: 最も効果的な炎上対策は「言及しないこと」です。少しでも不適切だと感じる場合は、発信自体を控えることが賢明です。
- 公式アカウントとしての意識: 個人のアカウントとは異なり、公式アカウントでは運用者自身の主義信条を発信したり、不謹慎・不適切と捉えられるような投稿は絶対に控えなければなりません。
- 有益な情報への切り替え: 災害発生時など、通常の広報活動が不適切になる状況では、被災者や社会に役立つ情報発信(例:サランラップの活用法、支援物資の提供、断水時のトイレの流し方など)に切り替えることを検討しましょう。
投稿前チェックリストとフローの整備方法
炎上リスクを最小限に抑えるためには、投稿前の厳重なチェックと、それを確実に行うためのフロー整備が不可欠です。
投稿前チェックリスト
SNSに投稿する前には、以下の項目を必ず確認しましょう。
- 投稿内容は適切か?: 誤解を招く表現や、個人情報の漏洩、ネガティブな反応を引き起こす内容を含んでいないか。
- 現在の社会情勢・過去の出来事を理解しているか?: 投稿日が特定の記念日や追悼日、事件・災害の発生日と重なっていないか。
- 感情的になっていないか、特定の立場を取っていないか?: 客観的で公平な視点での発信になっているか。
- 自分の発言が他人に与える影響を考慮しているか?: 特に被災者や特定のグループの心情を損ねる内容ではないか。
- 不吉な言葉(「死」「苦」「滅」など)を避けているか?
- 災害や事件を想起させる特定の日付を考慮しているか?
フローの整備方法
- 注意日のカレンダー管理: Googleカレンダーやチームのスケジュール管理ツールに、上記で挙げたような「危険日・注意日」を登録し、投稿前に「今日は何の日か?」を必ずチェックするフローを組み込みましょう。
- 複数人による内容確認: 投稿内容を公開する前に、複数人で慎重に確認する体制を整えましょう。これにより、文言や意図に問題がないかを多角的にチェックし、リスクの芽を摘むことができます。
- 災害時の投稿停止基準の明確化: 震度5以上の地震発生、台風直撃による避難指示発令、死者・避難者が出ている災害報道など、「どのような災害レベルになったら投稿を停止するのか」を社内で明確にルール化し、即座に予約投稿や自動投稿を停止できる体制を整備しましょう。
- 最新ニュースの常時確認: 投稿の数時間前にもう一度、当日発生した事故や災害がないか再チェックする習慣をチームで共有しましょう。
- 運用マニュアルとガイドラインの整備: 投稿ルール、緊急時の対応、社内の承認フローなどを明文化した運用マニュアルやガイドラインを整備し、全担当者が遵守するようにしましょう。
危険日・注意日対策を社内で浸透させる方法
SNSの炎上リスクは、一部の担当者だけではなく、組織全体で取り組むべき課題です。
- 全社員へのSNSリテラシー教育: 公式アカウントだけでなく、従業員の私的アカウントによる投稿が炎上に発展するケースも多いため、全社員を対象にSNSリテラシー教育を実施しましょう。これには、敏感な話題に触れないことの重要性や、複数人でのチェック体制の必要性などが含まれます。
- 社内ルールの標準化と共有: 「危険日・注意日カレンダーの活用」「投稿前の複数人チェック」「災害時の投稿停止基準とフロー」など、具体的なリスク回避策を社内ルールとして明確にし、チーム内で共有・標準化することが重要です。
- 定期的な見直しと更新: 社会情勢や炎上事例は常に変化します。社内のSNS運用ルールやガイドラインも、定期的に見直し、最新の情報に合わせて更新していくことが大切です。
まとめ:炎上を回避するための継続的な取り組み
企業SNSアカウントの運用において、「投稿する日付」はブランドイメージを左右する重要な要素です。過去の出来事や社会情勢を軽視した発信は、たとえ悪気がなくても大きな批判を受け、企業の信頼を損なう可能性があります。
炎上を100%防ぐことは不可能かもしれませんが、以下の継続的な取り組みを行うことで、その可能性を大幅に軽減できます。
- 注意すべき日付の把握とスケジュール管理
- 過去の炎上事例から学び、同様のミスを防ぐ
- 常に社会的背景に配慮する姿勢を持ち、投稿内容を吟味する
- チーム内での投稿チェックフローと災害時対応ルールを確立する
- 全社員のSNSリテラシー向上に継続的に取り組む
「投稿を完全に控える」だけでなく、その出来事をネガティブに連想させる内容や議論を呼ぶような内容を控えるという点が重要です。
SNS運用担当者だけでなく、組織全体でSNSリスクと向き合い、適切な情報発信を心がけることで、企業のブランド価値を守り、さらに信頼を築くチャンスへと繋がるでしょう。
貴社のリスク対策は万全ですか?
貴社の広報戦略は、予期せぬ文化的な地雷を踏まないための準備ができていますか? 私たちは、これらの事例で得られた深い洞察に基づき、貴社が直面しうるソーシャルメディア上の炎上リスクを詳細に分析し、予防策の策定から危機発生時の最適なコミュニケーション戦略まで、包括的なサポートを提供いたします。
今こそ、貴社のブランドを守り、社会からの信頼を勝ち取るための強固なリスク対策を構築しませんか?
ぜひ一度、当社にご相談ください。