投げ銭ライブ
先日、渋谷Under Deer Loungeで開催された、RFというアーティストの「投げ銭ライブ」に行って来た。「投げ銭ライブ」はチケット代が決められてない。入場時にドリンク代500円のみを支払い、ライブを見てから封筒に自分で決めたお金を入れて所定の場所に置いて帰るというものだった。
単純に収益性を考えてしまえば、投げ銭ライブで儲けを出すのはほとんどのアーティストにとっては至難の業である。ただ、音楽がパフォーマンスされる“場”へ行くハードルを下げ、“体験”を提供するという点では、価値のあることだと思う。
これまで、アーティストとファンの関係性は、ファンがCDやDVD、グッズといった商品を“購入する”という行為を通じて成り立っていた。しかし、コンテンツがフリー化する中では“購入する”ことのハードルは上がっている。“購入”を通じた関係を、強固なまま保っているのは、AKB48をはじめとする女性アイドル、ジャニーズ勢、そして声優やアニソン歌手、韓流、ビジュアル系、いずれも、単に商品に対する対価を支払うということ以上に、そのアーティストの存在や活動自体を“支える”という気持ちが大きく介在するアイテムばかりだ。熱狂的ファンという言葉でくくるのは簡単ではあるが、そこに介在する“支える”という関係性への回帰は今後も進んでいくように思う。
リスナーがそのアーティストに対して“支えたい”と思う為には共感が必要であり、アーティストその人の存在であったり、生き様であったり、価値観そのものへの共感が欠かせない。その為にも、商品で繋がるのではなく、体験を共有するなどしてより身近に感じてもらい、自分にとってスペシャルな存在にしてもらうことが重要だ。
“支える”を繋ぐクラウドファンディング
そうした考え方に非常に参考になるのが、artist Shareだと思う。2001年にスタートしたこのこのプロジェクト(レーベル)は、マリア・シュナイダーというグラミー賞受賞アーティストを生み出した。このプロジェクトはオンライン上でCD制作費を広く募るというものだが、その思想にはとても共感出来る。
「artistShareは、音楽のみならず演劇・映画などあらゆるアートの活動に
捧げるものだ。『商品』の対極に位置する『体験』が私たちの目指すもの。
〜中略〜
アーティストを愛するファンが、アーティストとともに
『体験』を共有する場がartistSHareなのだ。」
ここでは、アーティストのCD制作が一つのプロジェクトとして提示され、リスナーから投資を募る。そしてその投資額に応じたサービスが提供されるようになっている。
artistShareに所属するアーティストのプロジェクトに参加すると、
CD制作プロセス、デモ録り、レコーディング、リハーサルの
写真やビデオなどを視聴できます。
その他にも CDのクレジット・リストに名前を載せることが出来たり、
アーティストのiPodなどが提供されるなど、高レベルの参加オファーがあります。
最高レベルではエクゼクティブ・プロデューサーとして
レコーディングやマスターリングなどのCD制作に直接参加することができます。
〈myspaceより〉
アーティストにとっては、様々な金額設定によって多くの人を対象に活動資金を調達出来るものであり、ユーザーにとっては投資を通じてCDというプロダクトを得る以上に、アーティスト活動に参加してそこで得られる体験を楽しむという価値がある。“商品に支払う”から“体験に支払う”へというシフトが興味深い。
クラウドファンディングと投げ銭ライブ
artist Shareがかなり早い試みであることに驚くが、今後は一層こういった“支える”という関係性を結びつける“クラウドファンディング”要素は、エンタメの世界にとって、非常に重要なものとなってくるだろう。日本でもCampfire、READYFOR?をはじめとして、様々なサービスが今後も多く出てくることが予想される。その中でアーティストサイドに求められるのは、無数に存在するであろう案件の中から、人を惹付けるコンセプトであったり、そこにあるストーリーの演出、そして“支える”をモティベートし得る“体験の提供”だ。
ただアーティストとしてのバリューや認知がまだまだという段階にある多くのアーティストにとっては、現実的には、言葉だけのコンセプトやストーリー演出だけでは投資を得るのは極めて難しいはずだ。だからこそ、投資の入り口として、また投資に対して提供する体験の一つとして、投げ銭ライブのようなリアルな“場”でのフリーコンテンツの発信は非常に有効だと思う。リアルな“場”の価値は高まっているが、そもそも認知の低いアーティストにとって、直接的な収益源になりにくい。誰もがフラっと入れる場として、より多くの人に体験してもらうポイントとしてライブを捉えたほうが良いだろう。
リスナーはそこでアーティストに触れ、それぞれのストーリーに触れる。この過程を上手くファンディングの過程に入れこむことが出来れば、短期的な収益化が難しい投げ銭ライブも、価値を持ちうると思うのだ。
冒頭に書いたRFは、パフォーマンスはもちろん素晴らしく、またそこにはストーリーがある。言い方は悪いがアラフィフの中年オジサンのバンドだ。そのオジサンがそれぞれの背景を抱えながら一心不乱に音楽に打ち込む姿にはとても共感を覚える。そこから彼らを、または彼らの活動や音楽であり、作品を、“支えたい”という気持ちが生まれ、“商品”ではなく“体験”で繋がる関係が構築されていくのではないだろうか。
サムネイル画像:「Enjoying the music」/© vonderauvisuals































