はじめに
2025年8月10日、第107回全国高等学校野球選手権大会(甲子園大会)に出場しておりました広陵高等学校が、大会史上初となる大会途中での出場辞退を発表いたしました。すでに多くのニュースメディアやSNSで広く知られた話題となっています。
事の発端は、2025年1月に発生した寮内での暴力事案です。2年生部員4名が1年生部員に対し、禁止されていたカップラーメンを摂取したことを理由に、胸や頬を叩く等の暴力を伴う制裁を加えたのです。広陵高校は、広島県高等学校野球連盟にその事実を報告し、日本高等学校野球連盟(高野連)広島から厳重注意を受けたものの、広陵高校は予選大会を優勝し甲子園大会への出場の切符を獲得しました。甲子園は開幕し、初戦を逆転勝利で飾るも、8月10日に2回戦目以降を辞退する旨の発表がありました。
以下に、大まかな経緯をまとめてみました。

事件の主な事案発生日
甲子園大会開幕直前の8月5日頃からSNS上で詳細が拡散され、さらに別の暴力事案や性的暴行の疑いまで投稿される事態となりました。8月10 日の校長記者会見で、以下のようにコメントされています。
「(部内での暴力事案について)SNSでの反響が大きく、(第三者委員会の調査)結果が出ていない事案についても誹謗中傷がある。(部員以外の)生徒も登下校中に誹謗中傷を受けたり、追いかけられたりし、寮も爆破予告を受けた。生徒や教職員、地域の方々の人命を守ることが最優先と考えた。大会運営に大きな支障をきたし、高校野球の名誉、信頼を大きく失うことにもなりかねない」
辞退の理由として、SNSでの拡散を挙げています。
下のグラフは、「広陵高校」を含むXにおける投稿件数の日次推移です。(データ収集:brandwatch)

「広陵高校」を含む投稿数の日次推移
1~2月は約200件/日弱程度の件数でしたが、3~6月かけて徐々に増加、甲子園出場が決まった7月には2000件/日程度になっています。しかし、8月に入ってからは実にその300倍を超える65万件/日となっています。確かに凄い話題量の増大です。
もう少し細かく見てみましょう。下のグラフは、8月1日0時から11日午前までの1時間ごとの投稿件数推移を示したグラフです。

「広陵高校」を含む投稿数の時間ごとの推移
話題自体は甲子園大会開幕日8/5の夕方ごろから急増していますが、3日にも少し話題が増加していることがうかがえます。実際、8月3日には、次のような投稿が増えていきます。
広陵高校のやつマジならやばいやん
広陵高校やらかしたんか
というかリプ欄で知ったんだけど広陵高校イジメ(と呼ばれている犯罪行為)が発覚してるのガチ???????
広陵高校はこのまま出場ですか?
広陵高校は甲子園辞退すべきだろ
これらを投稿された人々は、恐らくはじめてニュースを聞いて知ったのでしょう。
その感想が、甲子園に出場していることに疑問をもつほどの内容であると評価していることがわかります。
これまでの出場辞退事例を振り返ると、夏の甲子園大会では2005年明徳義塾(高知)が部員の喫煙・暴力事件を理由として開幕2日前に、春の選抜大会では、2006年駒大苫小牧(北海道)が引退部員の飲酒・喫煙で辞退しています。
広陵高校の案件はこれら2校の案件と比べて軽微とは言いがたいものです。実際上記の投稿は出場することに疑問を呈しています。
教訓と対策
早期の判断と行動
広陵高校は甲子園制覇を3回達成し、プロ野球選手も数多く輩出している野球の名門校です。
監督部員だけでなく、一般教員や生徒にとっても母校が甲子園に出場し活躍することを願い、常に期待していることでしょう。そんな状況で出場辞退の決定は相当な覚悟のいる苦渋の決断です。
しかし、例えば8月7日の1回戦の前に決定していれば試合が、8月5日の開会式の前に決定していれば選手の入場行進の様子が、全国放送されることはありませんでした。
すでにネット上には、事件を起こした部員のプレーしている動画や写真、氏名を簡単に見つけることができます。時が過ぎれば徐々に数はすくなくなりますが、完全に消失することはありません。彼らの今後の人生に望ましくない影響を与えることが心配されます。さらには、7月26日より前に決定していれば、部員の個人情報がネット上に拡散されることはなかったでしょう。さらには、ほかの高校に甲子園への切符を譲ることができました。また、このタイミングまでに厳正な処分、例えば監督の交代や該当選手の出場停止などの処分をしておけば、仮に甲子園に出場してもここまでの批判を受ける事態には至らなかったと思われます。
ソーシャルリスニングのリスクマネジメント活動への組み込み
近年、SNSの発言の影響力が劇的に増加しています。インターネット上の評判や意見を知ること(ソーシャルリスニング)、どのような組織においても不可欠です。広陵高校野球部では、「寮内に携帯電話を含む電子機器を持ち込まない」という「伝統」があったということです。(※現在は親との連絡などで1時間/日だけ使用が可能になったとなったようです。)
部員には、野球に集中してほしいという思いは理解できるとこともありますが、学校としてはここから目をそらしてはなりません。部分的な情報だけをもとに意思決定を行えば、誤った結論・部分的に配慮のかけた結論が導かれることになります。
もちろん、ネット上に飛び交う話題は憶測やデマも含まれます。校長もインタビューでは学校の爆破予告があったとの話もされていました。これ以外にも、今回の事案についても多くの怪しげな情報が飛び交っています。これを訂正したり、疑念を払しょくするためには、当事者の言葉が重要です。そのためには、どのような意見がどのようなメディアで語られているか実情を常に理解しておくことが大切です。
自らの存在意義(ミッション)の再確認・再定義
最も深刻な問題は、部活動の存在意義です。甲子園出場および活躍が目的化してしまい、高校部活動の本来の教育的意義を見失っていたのではないかという点です。本来、高校野球は青少年の心身の健全な発達と人格形成を目的とした教育活動の一環として成立しています。しかし、甲子園という舞台の特別性と社会的注目度の高さから、勝利至上主義に陥り、教育的配慮よりも結果を優先する体質が醸成されていた可能性は否定できないでしょう。
問題解決においてはシステム思考でしっかり考えることが大切です。例えば、今回の事案の原因は次のようなものになるのではないでしょうか?
また、存在目的については組織のトップが理解しているだけでは意味がありません。メンバー一人一人が理解し、積極的にそれを果たすための自律的に行動することが求められます。

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今回、得られた最も重要な教訓は、問題の早期発見・早期対応の重要性と、それを可能にするソーシャルリスニングをリスクマネジメント活動に導入すること、そして全ての関係者が教育の本来の目的を見失わずに行動することの大切さです。
おわりに
今回の案件では学校や監督だけでなく、高校野球連盟も厳しく批判されています。
高校野球連盟が3月に課した処分を厳重注意にとどめたことが、ここまで大きな問題にした原因の一つです。
前述した明徳義塾の甲子園出場辞退に比べると、今回の厳重注意処分と加害部員の1か月の出場停止は、「やったこと」を比べてみると甘い処分といえるでしょう。高校野球連盟からすれば、いずれも学校からの申し入れを受理した結果ではありますが、その全くの受け身姿勢が批判されています。
広島県高野連に広陵高校の校長が副会長(8月10日辞任)であったことも、処分が甘くなった一因ではないかとの憶測も生じています。
一方で8月10日の日本高校野球連盟会長の会見から、「各学校から年間1000件以上になる」ことが明らかになりました。
それは、連盟が主体的に判断することが難しい規模であろうと思う一方、ここまで多くの問題が発生している状況では、部活動を今の形態で運用すること自体に問題があるのではないかとも思えてきます。
いずれにせよ、ネット上の評判や噂を常に把握することを習慣づければ、組織のリスク対応能力も高まります。
まずは、そこから始めてみませんか?




