日本マクドナルドが提供する「ハッピーセット」は、本来子どもたちに「ハッピー」な体験を届けることを目的とした商品です。しかし、2025年8月に実施された「ポケモンカード付きハッピーセット」のキャンペーンでは、転売ヤーによる大量購入とそれに伴う食品の大量廃棄が発生し、SNSを中心に大きな批判を浴びました。
この騒動は、ハッピーセットが「多くの人々を『不幸』にしてしまった」とまで言われる事態に発展し、企業の社会的責任やブランドイメージが問われる深刻な炎上事例となりました。本記事では、この炎上事案の経緯、原因を整理し、今後の広報・プロモーション活動における教訓と対策案を提示します。
炎上の経緯
日本マクドナルドのハッピーセットを巡る転売問題は、今回が初めてではありません。
- 2024年2月:「星のカービィ」「ポムポムプリン」のコラボで転売が問題視されました。
- 2024年8月:「ちいかわ」のコラボでも同様の問題が発生しています。
- 2025年5月:「ちいかわ」「マインクラフト ザ・ムービー」のおもちゃ付きハッピーセットが販売開始され、人気特典の争奪戦が再燃しました。
- 「ちいかわ」第1弾は当初の販売予定期間(22日まで)を大幅に短縮し、わずか3日間で終了。
- 第2弾では1人4セットまでの購入制限を設けたものの、販売開始からわずか1日で終了に追い込まれました。
- 結果として、予定されていた第3弾の販売は中止されました。
- 2025年8月7日:日本マクドナルドは、翌日発売の「ポケモン」ハッピーセットの転売対策として、フリマアプリのメルカリと連携すると発表しました。
- 2025年8月8日:ポケモンカード付きハッピーセットの販売が始まりました。
- 2025年8月9日:多くの店舗で初日中にポケモンカードの配布が終了する事態となりました。
- 2025年8月11日:日本マクドナルドは、転売目的の大量購入や食品廃棄などの問題が発生したことを受け、公式サイトで謝罪し、今後の対策を公表しました。
ハッピーセット®販売に関する大切なお知らせと当社の対応について | ニュースリリース | マクドナルド公式
【ハッピーセット®販売に関する大切なお知らせと当社の対応について】…
— マクドナルド (@McDonaldsJapan) August 11, 2025
炎上の原因
今回の炎上は複数の要因が複雑に絡み合って発生しています。
① 転売・買い占め:数量制限回避、複数店舗巡り
- 転売目的の大量購入が頻発しました。
- 1人5セットまでの購入制限が設けられていたにもかかわらず、購入者が何度も並び直したり、別の店舗を回ったりすることで制限を回避しました。
- モバイルオーダーでは、店舗での購入制限がうまく適用されなかった可能性も指摘されています。
- 「外国人転売ヤーだけが得をした」「外国人がハッピーセットを買い占め」といった目撃情報や批判がSNS上で広まりました。
- 中国のSNSやフリマサイトでは、日本のポケモンカードの代理購入と、それに伴う「食事代行(ハンバーガーなどを代わりに食べる人募集)」が募集される事態まで発展していました。
【悪質】マクドナルド、ハッピーセット巡り謝罪 子どもは「買えないし、むかついた」https://t.co/UiJeWHvuqE
購入した人の中には「中国人のお手伝い」だという人も。ネット上では“食事代行”の募集もあったという。9歳の子どもは「大人が優先的に買って、子どもが買えなくなる」と話した。 pic.twitter.com/WteM2bNujt
— ライブドアニュース (@livedoornews) August 12, 2025
② 食品ロス:未開封セットの廃棄、環境負荷
- 転売ヤーが景品のカードやおもちゃだけを抜き取り、購入した大量のハンバーガーやポテトを店舗内や店外に放置・廃棄する行為が相次ぎました。
- SNSには、ゴミ箱の上に「おもちゃだけ抜かれたハッピーセット」が大量に捨てられている写真が多数投稿され、食品を粗末に扱う行為への批判が殺到しました。
被害の規模:今回の騒動で発生した食品廃棄量は、推計で約2万〜3万食分に及ぶとされ、これに伴う処分コストは約200万〜450万円、CO₂排出量は約25〜37.5トンと推計されています。
マクドナルドは「食品ロス削減」を目標に掲げ、過去には「食品産業もったいない大賞」を受賞するなど先進的な取り組みを行ってきた企業であるため、今回の大量廃棄は同社の掲げる理念との「言動不一致」として、特に強い批判を招きました。
③ ターゲット不達:子どもが入手困難に
- ハッピーセットのメインターゲットである子どもたちが、転売ヤーや大人による買い占めのために、欲しかったポケモンカードやハッピーセットそのものを手に入れられない事態が発生しました。
- 「買えない子どもが泣いていた」「子どもが買えないハッピーセット」「大人が子どもの楽しみを奪うなんて」といった声が多数聞かれ、「ハッピーセットなのに多くの人々を『不幸』にしてしまった」という皮肉な状況を生み出しました。
④ 対応不足:予測可能なリスクへの未対策
- 今回の「ポケモンカード」キャンペーン以前にも、2024年2月の「カービィ」、2025年5月の「ちいかわ」「Minecraft」のコラボレーションでも同様の転売・買い占め・食品廃棄問題が発生しており、今回の騒動は「予測できたはず」と強く指摘されています。
- メルカリとの連携は行われたものの、悪質な出品の削除は限定的で、実効性に疑問が呈されました。専門家からは、「企業がどれだけ本気で転売を阻止したか疑問」「対策に本気で取り組む気はなく、利益を優先した」といった厳しい意見も出ています。
- 「ルールは守られず、混乱を避けられなかった」状況は、企業の事前対応の甘さを浮き彫りにしました。
⑤ 構造的要因:フリマサイトでの高額転売
- 転売行為自体は法律で明確に禁止されているわけではなく、倫理・モラルの問題として扱われることが多いです。
- フリマアプリ(メルカリや中国のサイトなど)では、ハッピーセットの景品が定価(約500円)の数倍から数十倍の数千円〜数万円で高額取引されました。
- フリマアプリ運営会社は、出品が転売品であっても取引が成立すれば手数料収入を得られるビジネスモデルのため、転売規制に消極的な側面があるとの指摘があります。
- 企業が限定品や希少価値を強調するマーケティング戦略が、結果的に転売を助長している可能性も指摘されています。
- 一部の専門家は、「転売ヤーが動くインセンティブを削れず、企業も本気で対策する動機が弱いまま」「今の社会の仕様では、転売ヤーが勝つように設計されている」と、社会構造そのものの問題であると述べています。
原因別の対策案
広報・マーケティング担当者が今後同様の炎上を防ぎ、ブランドイメージを保つために検討すべき対策案を、原因別に提示します。
① 転売・買い占めへの対策
厳格な販売個数制限の導入
- 店頭だけでなく、モバイルオーダーやデリバリーでも購入数をより厳しく制限します。
購入者の管理と制限
- 公式アプリのアカウントと電話番号やメールアドレスを紐付け、1アカウントにつき制限セット以下しか購入できないようなシステムを構築します。
- 制限を超える大量購入の試み、繰り返しの購入、クルーに対する威圧的な態度など、ルールやマナーを守らない顧客に対しては、販売を拒否し、公式アプリの退会処理を実施するなど厳格な対応を取ります。
販売方法の工夫
- 景品配布を店内飲食限定にする。
- 事前抽選販売や受注生産方式を導入し、需要と供給のバランスを事前に調整します。
供給量の見直し
- 過去の販売実績や人気度を考慮し、需要に見合った十分な数量を用意することで、希少性を意図的に高めることを避けます。
② 食品ロス対策
景品配布方法の変更
- ハンバーガーなどの食事を終えた後に、レジで引換券と交換で景品を配布する「飲食後配布」方式の導入を検討します。
啓発活動の強化
- 「食べきれない量の注文はご遠慮ください」という注意喚起をさらに強化し、食べ残しが発生した場合には店舗での適切な廃棄方法を促すなど、顧客の良心に訴えるだけでなく、具体的な行動を促します。
③ ターゲット不達の防止
ハッピーセットの原点回帰
- 「未来を担う子どもたちの心と体の健全な成長に貢献することで、家族が笑顔で過ごせるお手伝いをする」というハッピーセットの理念に立ち返り、本当に欲しかった子どもたちに景品が行き届く仕組みを優先します。場合によっては、「大人には売らない」といった制限も、ブランド価値を守る選択肢として議論の余地があります。
④ 事前対応不足への改善
過去事例からの学習徹底
- 同様の転売トラブルが過去に発生しているキャラクターIPとのコラボレーションにおいては、リスクを予測し、より踏み込んだ事前対策を講じることを必須とします。
フリマアプリ事業者との連携強化
- メルカリなどのフリマアプリ運営事業者に対し、悪質な買い占め・転売抑制に向けた実効性のある対応を継続的に要請します。AIを活用した画像分析により、転売と認定される出品を自動で削除するなどのシステム連携を強化することも考えられます。
⑤ 構造的要因(転売市場)への対策
マーケティング戦略の見直し
- 企業は、限定品を意図的に品薄にして希少価値を煽るようなマーケティング手法そのものを見直すことが求められます。より多くの消費者が平等に楽しめるプロモーションを検討します。
社会全体の意識変革の促進
- 消費者に対して、転売品を高値で購入しないという選択を促す啓発活動を継続的に行います。転売行為が倫理的に問題があることを社会全体で認識し、需要を減らすことが、転売市場の抑制につながります。
法的・条例的規制の提言
- 企業努力だけでは限界があるため、転売問題に対して法的・条例的な規制が必要であると社会に提言していくことも長期的な視点では重要です。
広報・プロモーション担当者が学べる教訓
今回のマクドナルドの騒動は、広報・マーケティング担当者にとって多くの重要な教訓を含んでいます。
- ブランドイメージの毀損リスクの認識:短期的な売上増に繋がったとしても、長期的なブランドイメージ、特に「ハッピーセット」というブランドが顧客に「不幸」をもたらしたという事態は、企業の根幹を揺るがす深刻なダメージとなり得ます。企業理念と実際の行動にギャップが生じると、消費者からの信頼を著しく損ねる可能性があります。
- 顧客体験の最優先:メインターゲットである子どもやその家族の期待を裏切らないことが、何よりも重要です。キャンペーンを実施する際は、最も恩恵を受けたい層に確実に届くよう、入念な計画と対策が必要です。
- リスクの予測と事前準備の徹底:過去に類似のトラブルが発生している場合、次のキャンペーンでも同様のリスクは「予測できたはず」と見なされます。広報・マーケティング部門は、リスク管理部門と連携し、想定されるあらゆる事態に対する事前対策を講じる必要があります。
- 「本気」の対策の実行:売上や話題性を追求するあまり、転売対策が形骸化していると受け取られると、企業への批判は増大します。厳しい制限が販売戦略と衝突する可能性があっても、ブランド価値と社会的責任を優先する「本気」の姿勢が求められます。
- 現場への影響の考慮:本社が十分な対策を講じないと、店舗のクルーが混乱し、顧客からの苦情対応に忙殺されます。現場への負担を軽減するためにも、本社レベルでの抜本的な対策と、クレームの受付窓口を本社に集約するなどの対応が必要です。
他社事例との比較
マクドナルドのハッピーセットの転売問題は、「おまけ目当ての大量購入と食品廃棄」という形で、過去にも繰り返されてきた社会現象です。1970年代の「仮面ライダースナック」や1980年代の「ビックリマンチョコ」でも同様の問題が発生し、お菓子が捨てられ、特典だけが目的とされる事態が起きました。
しかし、当時と現在とでは状況が大きく異なります。当時は主に地域内で完結していた現象が、現在はSNSとフリマアプリの普及により、問題が全国規模、さらには国際規模へと拡大しています。これにより、転売品の流通が容易になり、高額転売が助長されやすくなっています。
一方で、他社ではより踏み込んだ転売対策を行っている事例もあります。例えば、ソニーの「プレイステーション5」では転売対策が注目されました。また、任天堂は「Nintendo Switch 2」の発売時にメルカリなどと連携し、不正な出品に対する販売停止措置を講じると発表しています。ただし、メルカリは「Switch2」発売時にも対策を表明しつつも、実際には野放し状態だったとの指摘もあります。
これらの事例から、企業がどれだけ「本気で」対策に取り組むかが、転売防止の鍵となることが示唆されます。事前抽選販売、1人1セットまでの購入制限、受注生産方式など、マクドナルドが今回のキャンペーンでは実施しなかった対策が、他社では定番化していることもあります。
まとめ
マクドナルドのハッピーセットを巡る転売騒動は、短期的な売上重視の姿勢が、企業のブランド価値や社会的責任を大きく損なう可能性を示した事例と言えます。ハッピーセットが持つ「子どもたちの笑顔」という本来の価値を維持するためには、転売による混乱と食品廃棄という負の側面を解消することが不可欠です。
広報・マーケティング担当者は、単なる商品プロモーションにとどまらず、今回の炎上から得られた教訓を活かし、リスクを予測し、未然に防ぐための「本気」の対策を講じる必要があります。これには、販売方法の抜本的な見直し、フリマアプリ事業者との実効性のある連携、そして消費者への意識啓発が含まれます。
また、企業として、短期的な利益だけでなく、長期的な顧客満足度とブランドイメージを守るという強いコミットメントを示すことが、今後の信頼回復と持続的な成長への道となるでしょう。
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