重要性を増す「公式アカウントを運用しないリスク」

福田浩至 | 2012/01/13

重要性を増す「公式アカウントを運用しないリスク」

■有名人の苦悩


昨年末、サッカー元日本代表監督岡田武史さんの事務所の方から相談を頂戴しました。
こんな内容でした。

「岡田武史」のなりすましFacebookページが立ち上がっています。本人も大変当惑しています。何とかできないでしょうか?

教えていただいたFacebookページをチェックすると、既に1,200人を越える方が「いいね!」を押している状況。ウォールには、いろいろなサッカー関係者の方が投稿をされていました。

「XX県XX高校のサッカー部で監督をしています。facebookページで交流が出来れば嬉しいです・・・」
「南アフリカのワールドカップ感激しました!」

等、岡田武史氏と交流を望む方々から多くの投稿が寄せられていました。これらの投稿に対して、『偽・岡田武史』氏は平然と返信している有様。当の岡田武史氏ご本人もお会いした方から、

「Facebook始めたんですね?」「岡田さんのFacebookページで『いいね!』を押しましたよ」

などと話しかけられることも、少なくなかったようです。ご本人も、ひどく心を痛めておられました。

 

■ネット上で、別人になりすます不届きな輩たち


 

表に、最近1年半で話題になった、国内の「なりすまし」アカウント事件を表にしてみました。

 

2010/6、Twitterでも民主党議員16名のなりすましアカウントが話題になりました。この他、菅直人元総理や小沢一郎元代表等のなりすましアカウントも立ち上がる事件がありました。与党になった事が影響しているのか、政治家のなりすましアカウントの話題は、民主党議員に関するものが多いように思われます。

 

プロレスラーの長州力さんは、ご自身のブログで法的措置をとることを表明しました。その結果、表明から3日後には、なりすましアカウントが削除されました。AKB48の人気メンバー「まゆゆ」こと渡辺麻友さんも被害者です。単なる迷惑行為のみならず、熱狂的なファンを狙った詐欺行為も懸念されました。直ちに、AKB48オフィシャル・ブログでは「本日よりメンバー個人プロフィール欄にオフィシャルアイコンを 反映させました。公式HPプロフィール欄よりリンクされているアカウント以外はなりすましアカウントですので、ご注意ください。」
対策を実施し、その対策内容を公表しています。

 

米国では、訴訟沙汰にまで発展しています。

メジャーリーグのトニー・ラルーサ監督(セントルイス・カージナルス)はTwitterを相手取り、「商標権侵害、商標侵害、商標稀釈、名称等の不正利用」の理由で訴訟を起こしています。

エアロスミスのリードボーカル、スティーブン・タイラー氏も、なりすましたブロガーを相手取って訴訟を起こしています。このブロガーは、スティーブン・タイラー氏だけでなく、タイラー氏の奥さんにも、なりすましていました。

 

企業アカウントの被害も少なくありません。昨年、イオングループ企業のイオンファンタジーの取締役JR東日本NTT西日本のなりすましアカウントが、話題となりました。それらのアカウントの発信内容が、あたかも本物が運営しているようであったので、本物と信じこむ人が多数現れました。イオンファンタジーの例では、ソフトバンク孫社長も本物と思い込み、なりすましアカウントに反論されています。JR東日本の例では、軟式な対応がなかなか面白いため、「中の人に採用すべき」といった声すら聞かれました。英国BP社のなりすましアカウント(パロディーアカウント)はフォロワーを10万人も集めました。原油流出事故の対応で腐心するBP社を横目に、ちゃっかりパロディーTシャツを売りさばきました。

 

以上は、有名な方や大企業の事例ですが、一般人も中小企業も他人ごとではありません。ある日突然、あなたの実名を語るアカウントが、あなたの友人に暴言を浴びせたり、あなたの家族に「オレオレ詐欺」よろしく、お金の無心をするかもしれません。表のとおり、TwitterとFacebookの事例が目立っていますが、様々なソーシャルネットワークサービスを誰でも自由に利用できる現在、FacebookやTwitterに限った話でもありません。

 

 ■状況別の対策


 

では、これらには、どのような対策が可能でしょうか?様々な状況で打てる施策を図にまとめてみました。図では、横軸を「労力・精神的苦痛」とし、縦軸を「即効性」として、それぞれの施策を私の主観でプロットしてみました。HP(ホームページ)がないよりはあったほうが、公式アカウントが無いよりはあったほうが、より労力が少なく、即効性の高い打ち手が多いことが判ります。

 

 

  • ホームページ等、独自の情報発信手段を持っていない場合

殆どの企業や有名人では既に当てはまりませんが、個人では想定されるシチュエーションです。

ここでは、

「運営会社にアカウントの停止を指示する」

「誤解した人に直接事情を説明する」

「法的措置を講じる」

といったことが考えられます。例えば、Facebookに依頼すれば、問題のアカウントを削除してくれます。しかし、当然ですが依頼の正当性を評価した後に削除されるため、相応のタイムラグがあります。また削除後に、再び他の人が同じことを試みる可能性は排除できません。Twitterでもmixiでも同様です。また、法的措置を講じるなど、それに費やす労力や金額を考えると、相当な覚悟が必要です。

一般人では実施が難しそうですが、企業であれば更に、

「プレスリリースを発信し、記者会見を開く」

「経営者がYoutube等でビデオメッセージを配信する」

といったことが考えられます。これらも、それなりに労力と精神的な負担がありそうです。

 

  • ホームページはあるが、公式アカウントを持っていない場合

上記に加えて、

「公的な場所(公式HPなど)でソーシャルメディアを使っていないことを宣言する」

「リリース記事で、なりすましアカウントであることを宣言する」

これらは、前述の対策に比べれば格段に労力は少なくて済みます。しかし、ホームページに訪れた人しか気付きません。

 

  • 公式アカウントを持っている場合

更に、対応しやすくなります。

「公的な場所(公式HPなど)で正しい公式アカウントを宣言する」

「公式アカウントから、なりすましアカウントを否定する投稿をする」

ことが、可能になります。前出の事例の中では、小沢一郎元代表は、小沢一郎事務所のTwitterアカウントを、イオンファンタジーは企業Twitterカウントを事件発生後、直ちに作成しています。

また、「読者が、公式アカウントであることが解る工夫をする」ことも大切です。例えば、プロフィールページに「公式アカウント」であることを宣言したり、ロゴ等の用法を統一することが考えられます。

 

■公式アカウントを運用しないリスク


 

更には、その公式アカウントが活性化していれば、そもそも、なりすましアカウント立ち上げの抑止にもなります。例えば、今更Facebookでレディー・ガガのなりすましページをつくっても、Twitterで孫正義さんの偽アカウントをつくっても、本人が否定するまでもなく、それほど多くの人は本物だと錯誤しないでしょう。ただし、大企業の場合には、如何に人気アカウントを運営していても、「新しいアカウント」を開始したと錯覚される可能性が高いので、少し事情が異なります。

実際、”starbucks”でtwitterアカウントを検索すると、膨大な数のアカウントを確認することが出来ます。これらには、スターバックスの様々な部門や国で個別に運用しているアカウント以外に、ファンが勝手に作ったアカウントやパロディーアカウントなどが混在しています。しかし、多くの利用者は少なくとも約200万人のフォロワーを抱える@starbucksが公式アカウントであることを知っています。このような公式アカウントで、なりすましアカウントを否定すれば、一気に認知は高まり、被害の拡大を最小限に食い止めることができるでしょう。

専ら、「公式アカウントを運営して炎上するリスク」を心配して開設を躊躇する話を伺うことが多いですが、ソーシャルメディアの普及とともに、「公式アカウントを運営しないリスク」も確実に高まっていることの認識も大切だと思います。

 

記事執筆)  福田 浩至 https://www.facebook.com/koji.fukuda

   

AUTHOR PROFILE

  • 著者:福田浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理) 多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。
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