2023年10月24日にヒルトン・ホテルズ&リゾーツが公式YouTubeチャンネルに投稿したPR動画「とまるところで、旅は変わる。予定でいっぱいの休暇」篇が、日本の旅館文化を軽視しているとの批判を浴び、大規模な炎上を引き起こしました。この事例は、比較広告の手法が日本市場の国民性や文化に合わないこと、そしてハイブランドの品格を損なうリスクがあることを示す重要な教訓となります。特に、自社を優位に見せるために他者を貶めるような表現は、消費者からの強い反感を買う可能性が高いことが浮き彫りになりました。
「日本の旅館舐めるな」「品性に欠ける」 批判続出のヒルトンCM非公開に…広報「貶める目的でなかった」#ヒルトン #ホテル #旅館 https://t.co/52cyEdsa8m
— J-CASTニュース (@jcast_news) November 15, 2023
概要:事実の時系列整理
- 2023年10月24日: ヒルトンの公式YouTubeチャンネルにPR動画「とまるところで、旅は変わる。予定でいっぱいの休暇」篇が投稿されました。
- 2023年11月13日: この動画がX(旧Twitter)のユーザーによって紹介されたことをきっかけに拡散され、話題となります。
- 2023年11月15日頃: 批判が殺到したことを受け、ヒルトン側は問題の動画を非公開状態にしました。
動画の内容
- 動画は、旅館の受付に着物姿の女性(女将らしき人物)が早口で入浴時間や夕食時間、朝食のラストオーダー、チェックアウト時刻など、時間的な制約を次々に説明する場面から始まります。
- カップル風の男女が呆然としたり困惑した表情を見せる中で、「せっかくの休みなのに、まったく休みがとれないとき」というナレーションが入ります。
- その後、ヒルトン系列の上級ブランドであるコンラッドホテルの映像に切り替わり、高層階で夜景を見るカップルにホテルマンが「お客様、ごゆっくりされるならディナーの時間をずらしますよ」と柔軟な対応を提案するシーンが描かれます。
- 「とまるところで、旅は変わる」というナレーションで動画は終了します。
- 動画内の旅館は廊下の電球がチカチカするなど、古臭いイメージを植え付ける細かい演出もされていました。
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— パラダイス山元🥟✈️ 🎅🏻🪘 (@mambon) November 15, 2023
リスク兆候:炎上前後の兆候をどう検知できたか
今回の炎上は、Xでの拡散がきっかけで顕在化しました。これは、SNSモニタリングの重要性を改めて示しています。初期の批判的な投稿を早期に検知できていれば、拡散前の対応が可能であったかもしれません。
また、ヒルトンはキャンペーン開始に先立ち日本国内で事前のクリエイティブ調査を実施していたと説明しています。にもかかわらず炎上したことは、事前調査の限界や、文化的なニュアンスを深く理解する調査手法の再検討が必要であることを示唆しています。調査結果が実際の消費者の感情と乖離していた可能性があり、定量的なデータだけでなく、定性的な意見や文化背景への深い洞察が不足していたのかもしれません。
炎上原因:ユーザーの怒りのポイント
批判の声は多岐にわたりますが、主な怒りのポイントは以下の通りです。
旅館の軽視・侮辱
「なんか凄く旅館を馬鹿にしてません?」「日本の旅館や文化を馬鹿にしてる」といった声が多数上がりました。
他社を貶める宣伝手法への嫌悪
「他所を下げて自分を上げる動画ってどうなんだろう」「気分悪くなった。人を引きずり下ろさないと訴求できない魅力なんてないも同然では」「やり方があまりにも汚い」など、日本の消費者には馴染まない比較広告の手法が特に反感を買いました。
不適切な比較対象
動画に登場するコンラッド大阪は1泊3万5000円~というハイグレードホテルであり、一般的な旅館のサービスと比較すること自体が不適切との指摘もありました。
ホスピタリティの実態との乖離
旅館の「時間の縛りが厳しい」という問題提起がXユーザーには共感を得られず、むしろ「ヒルトンも入浴や食事の時間が決まっている」ため、動画が主張するほどの自由度がないという指摘も上がりました。これは自社のサービスに対する正確な表現ができていないという批判につながりました。
品格の低下
「これCMなの?ヒルトン感じ悪いから泊まりたくないと思ったが」「ヒルトンが良いホテルだと知ってても行きたくなくなるお客様が出てくると思いますよ」「ヒルトンの品格を下げるために制作されたのではないか」など、高級ブランドとしてのイメージや品格を自ら損ねたと見なされました。
景品表示法違反の可能性
弁護士からは、他社のサービスを事実と相違して著しく優良であると誤認させ、不当に顧客を誘引する「優良誤認表示」に該当する可能性が指摘されています。特に、高級ホテルと格安旅館のように社会通念上同等と認識されないものを比較している点で、「優良誤認表示となるおそれは高い」との見解が示されました。
企業の対応:実施内容と反応
ヒルトンは批判を受け、動画を非公開としました。
広報担当者はJ-CASTニュースの取材に対し、「特定のものを貶める目的でなく、ヒルトンとして、心温まるホスピタリティをアピールするための広告動画でした」と説明。しかし、「結果的に、旅館に対してネガティブなイメージを与えたように取られ、不適切な表現だと指摘を受けました。お客様に不快な思いをさせてしまい、お詫び申し上げたいと思います」と謝罪しています。
このキャンペーンは、2022年にアメリカで開始されたグローバルマーケティングキャンペーン「Hilton. For The Stay」の一環であり、今回の動画は日本と中国で展開され、アメリカ国内のキャンペーンと似たテイストになってしまったと認めています。また、広告代理店が関与していても「動画を配信したのは私どもの責任です」と、自社の責任であることを明確にしました。今後、再発防止に努める方針を示しています。ただし、11月17日午前時点では、ヒルトンの公式サイトでの公式コメントは確認されていませんでした。
「日本の旅館舐めるな」「品性に欠ける」 批判続出のヒルトンCM非公開に…広報「貶める目的でなかった」
SNSの反応:感情のトーンや拡散ルート
動画は11月13日にXユーザーが紹介したことから拡散が始まりました。SNS上では、旅館の「時間の縛りが厳しい」という問題提起自体に共感が得られなかったことに加え、自社ホテルのホスピタリティをアピールするために旅館を貶めるような内容に見えるとして、批判が殺到しました。
具体的なコメントとしては、「旅館を馬鹿にしてません?」「ヒルトン感じ悪いから泊まりたくない」「人を引きずり下ろさないと訴求できない魅力がない」「自己満足の宣伝動画にしか見えない」といった感情的な反発が見られました。また、「日本の旅館を舐めるな」「演出が品性に欠ける」といった日本の文化や品格を重んじる視点からの批判も多く寄せられました。一方で、「欧米ではよくある広告手法なのだろう」「アメリカならシャレでウケる」といった文化の違いを指摘する声も一部にはあり、異なる価値観が混在する複雑な炎上でした。
教訓:他社が学ぶべきポイント+未然防止策
この炎上事例から、炎上リスク担当者として以下の教訓と未然防止策を学ぶことができます。
比較広告の採用は極めて慎重に
国民性の理解
日本の文化は「個より和(集団秩序)を重んじる」国民性があり、競合他社を直接的に貶めるような比較広告は一般的に受け入れられにくいです。欧米で通用する手法が日本で反感を買う典型例と言えます。
ブランドイメージとの整合性
ヒルトンのような高級ホテルは「ナンバーワン」よりも「オンリーワン」の価値を訴求すべきであり、他者との比較で優位性を主張する広告とは相性が悪いと考えられます。ブランドの品格を損ねるリスクを常に意識すべきです。
公正な比較と実証
景品表示法における「比較広告ガイドライン」では、「客観的に実証されていること」「正確かつ適正に引用すること」「比較方法が公正であること」が求められます。今回の件では、比較対象の旅館が一般的ではないステレオタイプであったり、ヒルトン自身にも時間制限があるのにその点を隠すかのように見えたため、公正性が欠如していると批判されました。
文化・市場特性への深い配慮
外資系企業が日本の伝統文化(旅館)を矮小化するように見えたことは、「日本の文化を馬鹿にしている」という強い反発を招きました。現地の文化や習慣、消費者の感情に対する深い理解が不可欠です。
代替プロモーション戦略の検討
「オンリーワン」の価値訴求
自社ならではの独自性や、顧客に提供したい「非日常」の体験を直接的に伝えるアプローチが望ましいでしょう。
消費者への判断委ね
「きのこたけのこ論争」のように、企業側が答えを押し付けるのではなく、消費者が自ら価値を判断し、議論する余地を与えるようなコンテンツは受け入れられやすい可能性があります。
業界全体を盛り上げる姿勢
コロナ禍で観光業界全体が打撃を受けた背景を踏まえ、競合と協力し、業界全体を盛り上げるような「共創」の姿勢を見せることも有効だったかもしれません。
リスクアセスメントと事前調査の強化
事前クリエイティブ調査を実施したにもかかわらず炎上したことを踏まえ、調査設計の質を向上させる必要があります。文化的な感受性や潜在的な反発を検知するためには、より多様な意見や深層心理を探る定性調査、および専門家によるレビューが有効です。
迅速な危機管理体制
SNSでの拡散が始まってから迅速に動画を非公開にした点は評価できますが、さらなる炎上を防ぐためには、初期の兆候を捉えるためのSNSモニタリング体制の強化が必須です。
類似事例との比較
今回のヒルトンのCM炎上は、外資系企業が日本市場で比較広告を行い反感を買うという点で、過去の「Macくんとパソコンくん」や「ペプシ vs コカ・コーラ」といった事例と比較されます。しかし、これらの事例と異なるのは、ヒルトンが日本の旅館という特定の「ナンバーワン企業」と対峙しているわけではない点です。日本の自動車業界で過去にあったような、企業同士の煽り合いCMは、現在の日本では受け入れられにくい風潮があります。今回の件は、知名度の高いブランドが敢えて他者を貶める手法を取ったことで、より強い失望と批判を招いたと言えるでしょう。
まとめ:行動につなげる振り返り
ヒルトンのCM炎上は、企業が広告を通じて発信するメッセージが、いかに文化的な文脈や市場の感情に敏感であるべきかを強く示唆しています。特に、グローバルキャンペーンをローカライズする際には、単なる翻訳だけでなく、深い文化理解に基づいたメッセージの再構築が不可欠です。
炎上リスク担当者としては、以下の行動を常日頃から意識することが重要です。
- コミュニケーション戦略における「品格」と「共感」の追求: 自社の価値を最大限に伝えつつも、他者を尊重し、共感を呼ぶメッセージ作りを徹底する。
- 多角的な視点でのコンテンツ評価: 制作段階で、国内外の異なる文化背景を持つ人々からの意見を取り入れ、潜在的なリスクを洗い出す。
- SNSの継続的なモニタリングと分析: 早期に異変を察知し、迅速かつ適切な対応を取るための体制を確立する。
今回の事例は、ブランドイメージと市場の期待値が一致しない場合に生じる深刻なダメージを明確にしました。今後、広報活動やプロモーション活動を行う際には、常に「私たちのメッセージは、ターゲットとする市場の文化や感情にどう響くか?」という問いを投げかけ、慎重な意思決定を行うことが、炎上を未然に防ぎ、ブランド価値を守る鍵となるでしょう。



