厚生労働省オーバードーズ広告炎上から学ぶ、効果的な啓発とリスク管理

関根健介 | 2025/03/25

厚生労働省オーバードーズ広告炎上から学ぶ、効果的な啓発とリスク管理

2025年3月、厚生労働省が若年層の薬物乱用「オーバードーズ(OD)」問題に対する啓発広告「ODするよりSD(相談)しよう」を公開しました。この広告は、そのキャッチーなフレーズと表現が「深刻な問題を軽視している」としてSNS上で大きな批判を浴び、最終的に削除される事態となりました。

この炎上事例は、政府機関の広報活動におけるメッセージングの難しさ、特にデリケートな社会問題に対する当事者への配慮の重要性を示唆しています。本記事では、この炎上から、今後の広報・プロモーション活動におけるリスク管理と効果的なコミュニケーションについて学びます。

 

 

事実の時系列整理

  • 2025年3月3日: 厚生労働省が、薬の乱用「オーバードーズ」に関する30秒のアニメーション広告を政府広報の公式Xアカウントで投稿し、ウェブサイトでも公開しました。この広告は「つらい気持ちになったなら、ODするよりSDしよう。相談しよう」というキャッチコピーを明るい音楽と共に繰り返し、悲しげな羊が薬の瓶を捨ててスマートフォンで相談する様子を描いています。
  • 2025年3月5日時点: 当該広告は政府広報のXの他の投稿が数千~数万回しか閲覧されていないのに対し、500万回以上閲覧されました。
  • 批判の発生: 広告のトーンやコピーライティングに対し、X上では「メッセージが酷い」「そんなにライトなモノじゃない」「ODを知らない人が選択肢に入れそう」といった批判的なコメントが多数上がりました。
  • 2025年3月11日: 各方面からの指摘、特に当事者に近い人々からの批判の声を受け、内閣府の政府広報室と相談のうえ、政府広報オンラインのXアカウントから当該動画が削除されました。

リスク兆候:炎上前後の兆候をどう検知できたか

当該広告は3月5日時点で他の投稿の数百倍から数千倍もの閲覧数を記録しており、これは広報の目的の一つである「関心を持ってみていただく」という点では達成できたとも言えます。しかし、この異常なまでの閲覧数の多さは、通常とは異なる関心、つまり批判的な注目を集めている可能性のあるリスク兆候として捉えるべきでした。

また、初期の段階で既にX上で「メッセージが酷い」「ライトなモノじゃない」といった批判的なコメントが確認されており、さらには国会議員からの「酷すぎる」という公の場での批判も出ていました。これらのネガティブな言及は、単なる意見ではなく、炎上につながる明確なリスク兆候です。

炎上原因:ユーザーの怒りのポイント

今回の炎上の主な原因は、以下に集約されます。

メッセージングのトーンと軽薄さ

「ODするよりSDしよう」というキャッチコピーは、韻を踏んでキャッチーに仕上げたことで、当事者や支援者からは「言葉遊び」「ダジャレにしても予防やサポートにはならない」「うまいこと言ったつもりなのか?」と、深刻な問題を軽々しく扱っていると受け取られました。

当事者への寄り添いの欠如

  • 「上から目線」と受け取られた: ODをするまで追い詰められた人にとって相談は容易ではなく、広告が「相談しろ」と一方的に突き放す「上から目線」だと感じられました。
  • ODが「生きるための手段」であるという現実の無視: OD経験者の中には、発達障害や虐待、いじめなどで「しんどい」と感じ、つらい感情から一時的に逃れるため、あるいは「死にたい」という気持ちを避けるための「生きる手段」としてODをしているケースが多く存在します。
  • 「相談」の難しさへの無理解: OD当事者は他人を信頼できず、相談に踏み出せないケースが多いこと、また相談先が具体的に示されていないこと、そして相談によってかえって傷つく可能性もあることなど、相談行為そのものに潜む難しさへの配慮が不足していました。

専門家監修の不足

ウェブサイトの啓発資材は精神科医や薬剤師などの専門家が監修している一方で、広告クリエイティブ自体には専門家が関与するタイミングがなかったと厚生労働省が認めています。これは、専門的な知見や当事者の心理への理解がメッセージに反映されなかった大きな要因と考えられます。

企業の対応:実施内容と反応

厚生労働省は、若年層のオーバードーズが社会問題化しているため、当事者を相談支援につなげたいという意図で広告を制作しました。特に若い層にアプローチするため、重くならずに軽めのトーンを目指し、広告代理店が提示した複数の案の中から内閣府と相談して選定・ブラッシュアップしたとしています。

炎上後、厚生労働省は批判があることを承知し、「ご批判は真摯に受け止めたい」とコメントしました。そして、内閣府政府広報室と相談の上、3月11日までに当該広告のX投稿を削除する対応を取りました。

SNSの反応:感情のトーンや拡散ルート

SNS、特にXは、この広告の主要な拡散ルートとなりました。SNSの反応の感情的なトーンは、「怒り」「不快感」「失望」「違和感」が支配的でした。

オーバードーズの当事者や精神科医、若者のメンタルケアに関わる人々のアカウントを中心に、「キャッチコピーが軽く感じる」「当事者への寄り添いがない」「酷すぎる」「だじゃれにするな」「親しみやすいイメージを持たせたかったのかもしれないけど、そんなにライトなモノじゃない」といったが広がり、波紋を呼びました。

教訓:他社が学ぶべきポイント

当事者視点の重要性

  • 当事者の複雑な背景への理解: ODを行う背景には、発達障害、虐待、いじめ、家族関係の問題など、複雑で深刻な要因が存在することを理解し、単純な「やめましょう」メッセージではなく、当事者の現実に寄り添った支援的なアプローチが必要です。
  • 言葉の受け取り方の検証: 「相談」という言葉一つ取っても、当事者にとっては「上から目線」「突き放された感じ」「危険な行為」と受け取られる可能性があることを認識すべきです。

メッセージングのトーンと表現の適切性

  • 軽率な表現の回避: 深刻な社会問題に対して、韻を踏んだりダジャレを用いたりする「キャッチーさ」や「やってやった感」は、「軽薄」「茶化している」と受け取られ、不快感や怒りを生む大きな原因となります。
  • 「ダメ、ゼッタイ。」からの脱却: 薬物乱用防止で使われてきた「ダメ。ゼッタイ。」のような、当事者を頭ごなしに否定・排除するメッセージは、支援につながりにくいと指摘されています。

専門家および当事者視点の導入

  1. クリエイティブへの専門家監修: 広報コンテンツの企画・制作段階から、精神科医や公認心理師などの専門家による監修を必須とすべきです。
  2. 当事者・支援者の意見聴取: 可能であれば、当事者やその支援者からの意見を直接聞く機会(フォーカスグループ、アンケートなど)を設け、メッセージや表現を検証することで、実態とかけ離れた誤解を生むリスクを大幅に低減できます。

リアルタイムなSNSモニタリングと迅速な対応

  • 炎上兆候の早期検知: SNS上での言及量、感情分析(ネガティブなトーンの増加)、インフルエンサーや著名人からの言及などをリアルタイムでモニタリングし、潜在的なリスク兆候を早期に検知する体制を強化すべきです。
  • 迅速かつ真摯な対応: 批判が表面化した際には、「炎上している事実をまだ確認できていない」といった対応ではなく、批判を真摯に受け止め、迅速に原因を調査し、必要に応じて広告の修正や削除、説明を行うことで、事態の悪化を防ぐことができます。

まとめ:行動につなげる振り返り

厚生労働省の「ODするよりSDしよう」広告の炎上は、単なる広告表現の問題に留まらず、深刻な社会問題に対する公的機関のコミュニケーションのあり方を深く問い直す機会となりました。

この事例から、組織は以下の行動につながる振り返りを行うべきです:

  • 「知る」から「理解する」へ: ターゲットオーディエンスのデータを収集するだけでなく、彼らの感情、背景、そして行動の背後にある複雑な心理を「理解する」ことを最優先課題とする。
  • 「伝える」から「寄り添う」へ: 一方的にメッセージを「伝える」のではなく、「ODしててもSDできる」といった、当事者に寄り添い、安全安心な「雑談」ができる場を提供するような、より受容的で実践的な支援を軸としたコミュニケーションを構築する。
  • 「単独」から「共創」へ: 専門家や当事者、支援者など、多様なステークホルダーを企画・制作プロセスに積極的に巻き込み、共にメッセージを作り上げる「共創」のアプローチを採用する。
  • 「公開後」から「公開前」へ: SNSモニタリングを公開後の危機管理としてだけでなく、公開前のテストマーケティングやフィードバック収集に活用し、潜在的なリスクを未然に特定・修正する。

オーバードーズ問題のように、人間関係の悩みなどが背景にある複雑な社会問題に対し、広告は単なる情報伝達手段ではなく、支援への入り口となる重要な役割を担います。今回の炎上は、啓蒙の強い意思を持っていたとしても、その届け方が当事者の心に届かなければ意味がないという、痛切な教訓を残しました。

今後の広報活動では、これらの学びを活かし、真に効果的なコミュニケーションへと進化させていくことが求められます。

貴社のリスク対策は万全ですか?

貴社の広報戦略は、予期せぬ文化的な地雷を踏まないための準備ができていますか? 私たちは、これらの事例で得られた深い洞察に基づき、貴社が直面しうるソーシャルメディア上の炎上リスクを詳細に分析し、予防策の策定から危機発生時の最適なコミュニケーション戦略まで、包括的なサポートを提供いたします。

今こそ、貴社のブランドを守り、社会からの信頼を勝ち取るための強固なリスク対策を構築しませんか?

ぜひ一度、当社にご相談ください。

お問い合わせはこちら

   

AUTHOR PROFILE

  • 著者:関根健介
ループス・コミュニケーションズ所属。某コンサルティング会社にてWebマーケティングやバイラルマーケティングを経験した後、数年放浪し2011年12月からループスへジョイン。ソーシャルメディアの健全な普及をねがい日々精進しています。関心のあるテーマはO2O・地域活性×ソーシャル・医療×ソーシャル・ソーシャルコマース ま〜ソーシャル全般です。 【座右の銘】 意思あるところに道あり 【Facebook】www.facebook.com/kensuke.sekine.7 【Twitter】 @kensuke_sekine
  • x
  • facebook

ARCHIVES