2025年3月、日本郵政株式会社がX(旧Twitter)の公式アカウントで公開したプロモーション動画が、一部で「女性蔑視」や「固定観念の助長」であるとして物議を醸し、翌日には削除と謝罪に追い込まれる事態となりました。この「すっぴん動画」炎上は、大企業がSNSでの「バズり」を追求する中で、社会的な感受性や企業イメージとの乖離がどのように予期せぬ批判を招くかを示す典型的な事例です。
現代の広報・プロモーション担当者にとって、情報量の多い動画広告が主流となる中で、意図せぬ炎上を防ぎ、企業ブランドイメージを守るための学びは不可欠です。本記事では、この炎上事例を詳細に分析し、今後の広報活動におけるリスクマネジメントの教訓を導き出します。
【炎上】日本郵政さん、「こねこフィルム」とタッグを組んで作成した“すっぴん女性”を茶化す動画を謝罪
この動画に対し「女性の自衛を理解していない」と批判が殺到し謝罪。
何が炎上するかわからんね。#日本郵政 #すっぴん女性 #こねこフィルムpic.twitter.com/T8xq7kDlZz https://t.co/N5x0kx1Yrn
— 痛いニュース(ノ∀`) | 公式ツイッター (@itainews_com) March 8, 2025
概要:事実の時系列整理
日本郵政、女性の“すっぴん”扱う動画がXで物議→削除する事態に 「再発防止に取り組む」と公式Xhttps://t.co/3i0oTDMkhf
— ITmedia NEWS (@itmedia_news) March 7, 2025
リスク兆候:炎上前後の兆候をどう検知できたか
炎上は突発的に見えることもありますが、多くの場合、事前にリスク兆候が存在します。
制作会社の過去の炎上歴
問題の動画は、映像クリエイター集団「こねこフィルム」が立ち上げた動画レーベル「こやぎフィルム」が制作しました。「こねこフィルム」は2023年10月に、痴漢冤罪をテーマにした動画で大炎上した過去がありました。ユーザーからは、「もともと社会通念がバグっている」制作会社を起用したこと自体が問題であるという指摘が上がっていました。日本郵政のような「実質半官半民企業」が、炎上歴のある制作会社を起用したことは、企業イメージ悪化のリスクをはらんでいました。
広告業界全体の「ジェンダー表現」への高まる感度
日本郵政の動画投稿のわずか1ヶ月前(2025年2月)にも、東洋水産のカップ麺「赤いきつね」のウェブCMが「性的だ」として炎上していました。このように、ジェンダー表現は現代において非常に「可燃性」の高い領域となっており、企業はより一層の配慮が求められる状況でした。
再投稿によるリスクの再燃
今回の動画は2024年10月にTikTokで投稿されたものの再投稿でした。以前は批判が挙がらなかったから再投稿しても問題ないという判断だった可能性もありますが、社会の感受性の変化や炎上しやすいタイミングを考慮すべきでした。
炎上原因:ユーザーの怒りのポイント
ユーザーの怒りのポイントは複数あり、複合的に炎上を加速させました。
ステレオタイプな性差の助長
動画が「女性はすっぴんでは人前に出られない」というステレオタイプな性差を前提にしていると指摘され、「すっぴん=恥」という固定観念を助長するとして批判が集まりました。
女性の防犯意識の軽視・嘲笑
「すっぴんを見られたくない」というシチュエーションと、「知らない男性を自宅に入れたくない」という女性の防犯意識が結びつけられ、動画がそれを茶化している、バカにしていると受け取られました。実際に、郵便配達員を装った犯罪事件があったばかりのタイミングであったことも、この批判を強める要因となりました。
大企業による「バズり」狙いの違和感
日本郵政は、配達業務に象徴される「正確性、確実性、信頼性」が生命線の企業です。このような公共性の高い企業が、無理にSNSで「バズり」を狙うようなコミカルで攻めた表現を採用したこと自体が、企業イメージと乖離していると受け取られました。一部からは「炎上商法」狙いではないかとの見方も出ました。
表現の過剰さ
「すっぴん」を連呼したり、ロボットアームを使用したりといった演出が「少し過剰な表現」であり、「くどい」と感じる視聴者もいたようです。肝心のサービス内容(受領印不要になったこと)が伝わりづらかった点も指摘されています。
企業の対応:実施内容と反応
日本郵政は、炎上発生後、比較的迅速に対応しました。
動画の削除と謝罪
3月5日の投稿に対し、批判が殺到したことを受け、翌日3月6日には動画を削除し、Xの公式アカウントで謝罪声明を投稿しました。謝罪文では、様々な意見を真摯に受け止め、再発防止に取り組む姿勢が示されました。
弊社Xアカウントで投稿した動画に関して様々なご意見をいただきました。
それらを真摯に受け止め、当該動画を削除いたしました。
今後は細心の注意を払い、再発防止に取り組んでまいります。— JP 日本郵政株式会社 (@JapanPostHD_PR) March 6, 2025
対応への反応
この迅速な対応は、企業の信頼やブランドイメージを守る上で重要であると評価する声がある一方で、もし批判されるような意図がなかったのであれば、臆することなく反論すべきだったとの意見もありました。しかし、ジェンダー表現というセンシティブな領域での問題であったため、削除・謝罪は妥当な対応だったとする声が圧倒的に優勢でした。
SNSの反応:感情のトーンや拡散ルート
SNSでは、動画の内容について賛否両論が巻き起こり、活発な議論が展開されました。
批判的な声
「女性蔑視がひどすぎる」「すっぴん=恥という固定観念を助長している」「気持ち悪い」「性的なアピールではないか」といった、動画に対する強い不快感や怒りを示すコメントが多く寄せられました。特に、防犯意識との関連付けは、女性ユーザーからの共感を呼び、批判の拡散に繋がりました。
擁護的な声
一方で、「やり取りをコメディ風に描いただけ」「性的には思えない」「単に熱さを表現しただけ」「過剰反応だ」など、批判に異を唱え、炎上を理解できないとする擁護コメントも少なくありませんでした。
拡散ルート
Xを主要なプラットフォームとして、動画は投稿直後から批判と擁護のコメントを巻き込みながら拡散しました。制作会社の過去の炎上事例が掘り起こされ、批判に拍車をかけた点も特筆されます。
教訓:他社が学ぶべきポイント+未然防止策
この事例から、企業が広報・プロモーション活動を行う上で学ぶべき重要な教訓は多岐にわたります。
- 制作現場への多様な意見の取り入れ: 広告制作は、特定の視点に偏らないよう、多様な背景を持つ人々の意見を制作チームに取り入れることが不可欠です。
- 社会的なトピック・センシティブテーマへの専門家意見の聴取: ジェンダー、人種、国籍などの差別や人権侵害を助長する恐れのあるテーマについては、必ず専門家(弁護士やジェンダー専門家など)に意見を求めるべきです。
- 社内審査体制の見直しと強化: 制作チーム以外の社員が広告をチェックできるような体制を構築し、属人化しないマニュアルに基づいたネガティブチェックを網羅的に行うことが重要です。この審査では、「炎上しないこと」ではなく、「企業価値を低下させないこと」を目標とすべきであり、特に「ビジネスと人権」の観点から人種差別や人権侵害を助長する広告は除外する必要があります。
- 外部委託時の明確な要件伝達: 外部の制作業者に動画作成を依頼する際、「バズりたい」といった要望だけでなく、「人権侵害や差別と誤解される表現は避ける」といった留意点を明確に伝えることが必須です。制作会社が「ビジネスと人権」について意識しているとは限らないため、発注元が責任を持って配慮すべきです。
- 企業イメージとの乖離の認識: 大企業、特に公共性の高い企業は、「バズり」を狙うことと、企業が本来持つ「信頼性」「確実性」といったイメージとのバランスを慎重に考える必要があります。シンプルで分かりやすい訴求が、時に最も効果的であることを認識すべきです。
- 企画段階でのリスク想定: 炎上発生後の迅速な対応はもちろん重要ですが、理想は企画段階から起こりうる批判を想定し、対応部門やフローを事前に固めておくことです。
- ユーザー感情への深い洞察: 面白さや分かりやすさを追求するあまり、メッセージを受け取る側、特に当事者や関連団体が抱く感情や問題の本質を軽視しないこと。共感を得るためには、上から目線ではない、真摯な姿勢が求められます。
類似事例との比較
近年の広告炎上事例を見ると、共通する教訓が見えてきます。
主要な類似事例
- 東洋水産「赤いきつね」ウェブCM (2025年2月): 女性の表情描写が「性的」と批判されました。これもジェンダー表現に関する問題であり、社会の感度が高まっていることを示唆しています。
- 政府広報「オーバードーズ啓発」動画 (2025年3月): 「ODするよりSDしよう」というライトな表現が、「上から目線」「問題の本質を理解していない」と批判されました。これは、「分かりやすさ」や「面白さ」を追求する中で、当事者の心情への配慮が欠けていた点が日本郵政の事例と共通します。
- Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」MV (2024年6月): 人種差別的表現で炎上し公開停止となりました。これは「人権侵害」に当たる広告の典型例であり、ジェンダー問題と同様に、非常にデリケートな社会課題が広告の炎上要因となることを示しています。
- 資生堂インテグレート「25歳からは女の子じゃない」広告 (2016年7月): 女性の年齢に対する固定観念を助長するとして批判されました。これもまた、ジェンダー表現が問題となった事例です。
これらの事例は、社会の価値観の変化、特に多様性や人権への意識の高まりが広告表現に強く影響していることを示しています。
まとめ:行動につなげる振り返り
意図せぬ広告の炎上は避けられない現代のビジネス環境において、企業の信頼とブランドイメージを守るためには、迅速かつ適切な対応が不可欠です。しかし、最も重要なのは、未然に炎上リスクを低減するための戦略的なアプローチです。
現代の広告・広報活動は、まるで霧の深い山道を運転するようなものです。以前は舗装された広い道を走っていたかもしれませんが、今は見通しが悪く、急カーブや予想外の障害物が点在する道を進んでいる状態です。運転をやめる(広告活動を止める)ことは賢明ではありませんが、車の性能(コンテンツ力)だけでなく、危険を察知するセンサー(社内チェック体制や専門家意見)、そして柔軟なハンドルさばき(迅速な対応と表現のバランス)を磨き続けることが、安全に目的地へたどり着く(企業価値を向上させる)ための鍵となります。
社会の変化に敏感になり、共感と配慮を基盤としたコミュニケーションを常に心がけることが、企業が持続的に成長するための道しるべとなるでしょう。
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