クチコミから見えてくるディズニーランドとUSJ、最近の傾向

福田浩至 | 2016/03/09

クチコミから見えてくるディズニーランドとUSJ、最近の傾向

2016年2月8日、東京ディズニーリゾートは4月1日より「東京ディズニーランド」「東京ディズニーシー」でチケット価格を改定することを発表しました。

これで2014年、2015年に続き、三年連続の値上げ改定となります。それでも相変わらず、底冷えのする冬の平日でも2時間、3時間待ちでアトラクションを楽しんできた人の話も耳にします。チケット価格が少々値上げされたところで、その人気が極端に衰えることもなさそうです。

オリエンタルランドが公開している2016年3月期の業績予想でも、経常利益は2.9%減を見込むものの、売上高営業利益率は30%を超える見込みであり、相変わらず高い収益率を維持しています。

一方で、最近キャストの過労問題など「夢の国」のイメージとは随分乖離した話題を目にすることも増えました。非正規労働者が組合を結成し、労働条件の改善を求める活動も始まっています。

ディズニーランドに何が起こっているのか……気になってネット上の評判を調べてみました。

図1「ディズニーランド」と「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」クチコミ数の月次推移

図1「ディズニーランド」と「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」クチコミ数の月次推移

このグラフは、2011年からの「ディズニーランド」と「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」に関係するクチコミ件数の月次推移(注)です。

注:クチコミデータは、ホットリンク社クチコミ係長にて取得。対象メディアは、Twitter、ブログ、掲示板、2ちゃんねる

ネットで情報を発信している人々のみに限定されたクチコミ数ではありますが、ディズニーとユニバーサル・スタジオ・ジャパンの状況をこのデータから分析してみたいと思います。

グラフ中の青い折れ線は「ディズニーランド」あるいは「ディズニーシー」を含むクチコミ数の合計(以下、「ディズニーのクチコミ数」)、赤い折れ線は「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」「USJ」を含むクチコミ数の合計(以下、「USJのクチコミ数」)を示しています。

通期(2011年1月〜2015年12月)にわたる月次クチコミ数の相関係数は0.24です。しかし、2011年1月〜2014年6月では0.73、2014年9月〜2015年12月では0.75と強い相関関係があることを示しています。これは、両方とも学生が休みになる時期、つまり3~5月と7~9月に話題が増加するなど、似たような傾向を有している証左でもあります。

通年の相関性を下げたタイミングは、2014年7〜8月です。ここがUSJのクチコミトレンドの変化点であったと考えられます。グラフを見ただけでも、2014年7月頃から双方のクチコミ数が拮抗してきていることが分かります。2011年の通年で2.6倍も開きのあったディズニーとUSJのクチコミ数の比率は、2014年通年では1.6倍、2015年通年では1.2倍にまで肉薄してきています。何がこのトレンドを作り出しているのでしょうか。

表1 「ディズニーのクチコミ」に出現する頻度の高い単語の一覧(出現頻度順)

表2 「USJのクチコミ」に出現する頻度の高い単語の一覧(出現頻度順)

表1、表2は、それぞれ年次クチコミに一緒に出現するキーワードの出現頻度の高い順のランキングです(2016年については1月1日〜2月29日の2カ月分のみ)。

ディズニーのクチコミでは、「東京」「良い」「楽しい」「アトラクション」といったキーワードが上位に並びます。USJのクチコミでも、「大阪」「良い」「楽しい」「アトラクション」と同様なキーワードが一緒に語られています。双方とも日本屈指のテーマパークだけあって、いずれも好意的な話題が大勢であることが伺えます。ディズニーのクチコミでは、三年連続の値上げにも関わらず、2007年以来「高い」というキーワードは上位20には出現しません。一方でUSJのクチコミでは2015年に8位に出現しています。

青色で強調した単語は、各テーマパークのキャラクター名を示しています。

USJのクチコミでは、2013年まで一緒に語られるキャラクターは「スパイダーマン」だけです。まさに獅子奮迅の働きであったことが伺えます。しかし、「ハリーポッター」が2014年に7位、「進撃の巨人」が2015年に23位、2016年には13位に登場してきます。新たなキャラクターを軸としたアトラクションが存在感を増してきていることが分かります。

図1のとおり、2014年7月にはUSJのクチコミ数がディズニーランドのクチコミ数を超えます。同年、「ハリーポッター」に係るキーワード「ハリー」「ポッター」「ハリポタ」が登場します。一方でディズニーのクチコミでは、「ミッキー」「ダッフィー」が頑張っていますが、2014年以降、新たなキャラクターはキーワードの出現頻度上位20位には登場してきません。ハリーポッターの世界をテーマとしたアトラクション「ウィザーティング・ワールド・オフ・ハリーポッター」が開業したのは2014年7月15日。まさに、このタイミングでUSJがディズニーとのクチコミ数の差を大きく縮めたことが分かります。2016年3月5日には、任天堂の人気キャラクター「マリオ」を使用した新アトラクションの計画も報じられました。

個人的には、最近のこれらのテーマパークから受ける印象に近い結果が現れていると感じました。

2016年はまだ2カ月が過ぎたところですが、ディズニーのクチコミにこれまでとは違った傾向が見て取れます。「水死」や「内部告発」といった少々物騒なキーワードが出現しているのです。「水死」は、この事故に端を発し、事故にあった方の同僚が語ったとされる「内部告発」の記事によるものです。

現在、2ちゃんねるや各種まとめサイトでも話題になっています。水死事故が発生したのは2015年10月27日。4カ月前の事故が今になって蒸し返されている状況です。

近年、「ブラック企業」「ブラックバイト」といわれる、従業員やアルバイトに対して過酷な労働を強いる企業を批判するクチコミの勢いが強まっています。

人気を誇るディズニーリゾートですら、こうした批判的なクチコミに晒されている現実が見て取れます。批判的なクチコミが企業に重大なダメージを与える事案にまで発展するか否かは、わかりません。しかし、そのようなクチコミを読みこむことで、その話題のニュースソース、反応しいている人々の意見、関心をもたれやすい話題の傾向、拡散の勢い等、さまざまなことを把握することができます。論調の変化にも慌てずに対処することが可能になるでしょう。

一方で、新しいアトラクションや企画に対するクチコミから、それらに対する率直な意見が得られます。これらは、主催者が問いかけたことに答えたものではなく、彼らが自発的に述べている意見であり、対面インタビューやパネルを使ったアンケートとは異なる性質の声です。

ネット上のクチコミを傾聴することは、ネット炎上への備えだけでなく、新しい企画のヒントを得る活動にも繋がるかもしれませんね。


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  • 著者:福田浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理) 多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。
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