ネット炎上リスクの競合分析|Uber Eatsと出前館の炎上リスク比較

福田浩至 | 2021/03/31

ネット炎上リスクの競合分析|Uber Eatsと出前館の炎上リスク比較

昨年以降、出前・宅配サービスの認知が一気に広まりましたが、その草分けとなったのが「Uber Eats(ウーバーイーツ)」です。前回の記事では「出前館」の炎上リスクについて俯瞰してみました。

下表のとおり、日本での営業開始時期は出前館が2000年10月と21年前であるのに対して、Uber Eatsは2016年9月と4年半前ですが、加盟店数はほぼ同水準で事業を展開しています。

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※上表は各社発表および関係者の発言をもとに作成。2021年3月22日現在。


前回の記事では「出前館」の炎上リスクを分析しましたので、今回は同業者である「Uber Eats」の炎上リスクを調べ、「出前館」のそれと比較してみます。

 

「Uber Eats」を含むツイートの日次件数推移

下図は「Uber Eats」を含むツイートの日次件数推移です。クチコミの観測期間は、2020年1月31日〜2021年1月31日までとしました。

なお、今回はクチコミの対象をTwitterとして、Twitterの全量データを検索・分析対象とすることが可能なソーシャルメディア・アナリティクスツール「Brandwatch」をお借りし、データ収集を行っています。

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グラフ内の青い棒グラフが「Uber Eats」を含むツイートの日次件数推移です。グレーの面グラフはその7日間移動平均をまとめたものです。観測開始時期では5,000件/日程度でしたが、観測終了時期には20,000件/日程度と、期間中にツイート件数が4倍程度増加しています。昨年6月から8月ごろにかけて話題が増加し、9月から年末あたりまでは10,000件/日程度となり比較的変動が少ない様子が見て取れます。

なお、同期間の「出前館」の増加は500件/日程度から2,000件/日程度(前回の記事参照)でしたので、件数としてはUber Eatsのほうが圧倒的に多くなっています。期間中の増加割合は「出前館」と概ね一致します。

 

「Uber Eats」を含むツイートを「関心」領域ごとに分類

次に「Uber Eats」を含むツイート件数が増加した原因を探るために、顧客・社員・会社という各関心領域ごとに、ネガティブな話題とポジティブな話題を分類していきます。

【話題の関心の分類例】

①顧客体験
サービスを利用した人、利用しようとしている人の感想や意見
・対応部門:営業部門、カスタマサポート、商品企画部門、など

 

②社員のふるまい
社員やアルバイトなどの勤務形態や行動に対する感想や意見。
・対応部門:人事・総務部門、など

 

③会社からのメッセージ
会社の発表内容や事業に関する感想や意見
・対応部門:広報部門、経営企画、など


【ネガティブな話題とポジティブな話題の分類】

※ネガティブな話題とポジティブな話題のそれぞれのリスクについては前回の記事をご参照ください。

ネット炎上リスクを”クチコミ”から診断する方法を考えてみた

 

その結果が以下のグラフです。

1. 顧客領域のツイート

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顧客領域では、ポジティブな話題が安定的に発生していることが見て取れます。2020年前半に何度かツイート件数が大きく急増したタイミングも確認できます。

 

2. 社員領域のツイート

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社員領域では、2020年5月と7月にポジティブなツイートの急増が、2020年9月にネガティブなツイートの急増が確認できます。なお、今回の業態においては、業務委託契約である配達員も社員領域に含めています。

 

3. 会社領域のツイート

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会社領域では、ネガティブなツイートの急増が頻繁に発生している様子がうかがえます。

 

以下の表は、期間中のツイートの日次件数を週単位でまとめ、平均値を示しています。

 

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とりわけ会社領域ではネガティブなツイート件数がポジティブなツイート件数を圧倒している状況が分かります。

以下は、各関心領域別のネガティブ/ポジティブの割合の推移を月次に集計したものです。Uber Eatsの事業体に対して批判的な意見の割合が恒常的に80%を超えていることがわかります。

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トピックの領域別傾向を分析

続いて、各関心領域別に「トピック」を見てみましょう。ここでトピックとは、認知が広がる(=ツイートが急増する)契機となった話題を指します。

※トピックの抽出方法についても、前回の記事をご参照ください。

 

 

顧客領域のトピック

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期間中、顧客領域ではネガティブな拡散は18回、ポジティブな拡散は17回発生しています。

最も大きな拡散を引き起こしたネガティブなトピックは、2020年2月初旬に「今Uber Eatsで寿司の注文とったけどこれは酷いよね…」といった文言とともに、写真が投稿されたツイートです(現在は削除)。その他、注文商品の到着遅延や一方的なキャンセルなど、残念な顧客体験が語られています。

一方で最も大きな拡散を引き起こしたポジティブなトピックは、新型コロナウイルス感染拡大が本格化する中、顧客であるレストランが「(苦しい時期ですが)美味しい料理を提供しています」といったふうにUber Eatsを活用し、逆境を跳ね除けようとする以下のツイートでした。

https://twitter.com/__euglena/status/1241695912293855233?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1241695912293855233%7Ctwgr%5E%7Ctwcon%5Es1_&ref_url=https%3A%2F%2Fnote.com%2Flooopscom%2Fn%2Fn1ea2c1f6b26b

 

これ以外にも、Uber Eatsの便利さを伝えるトピックが多数生まれました。

 

社員領域のトピック

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期間中、社員領域ではネガティブなトピックが27件、ポジティブなトピックが16件発生しています。

ネガティブなトピックは、もっぱら配達員の不祥事です。最も拡散したトピックは9月11日の以下の投稿でした。

 

一方でポジティブなトピックとして最も拡散したツイートは、以下の颯爽と走る配達員を模したゲームのキャラクターのイラスト投稿です。Uber Eatsの配達員のイメージアップにもつながっていると思われます。

 

続いて強いポジティブな拡散を生み出したトピックは、Yahoo!ニュースの記事を引用した以下のツイートです。ウーバーイーツ配達員が収入的にもメリットがあり、社会的意義もある職業であることを示しています。

 

 

会社領域のトピック

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期間中、会社領域ではネガティブなトピックが17件、ポジティブなトピックが22件発生しています。

前述のとおりツイート件数の割合は圧倒的にネガティブな話題のほうが多いものの、トピックの件数はポジティブな話題のほうが多く検知されました。しかし、1件あたりの拡散規模はネガティブなトピックのほうが大きい傾向があります。

ネガティブなトピックで最も拡散したのは、以下のフランスで企業と配達員の雇用関係に関する判決に関する話題です。この他、ビジネスモデルに関する批判意見や配達員の教育体制に対する疑念などがありました。

 

一方で、最も拡散したポジティブなトピックは、宅配料金の月額定額制サービスを報じた日本経済新聞社の記事に関連するものでした。

 

 

トピック発生タイミング

以下は期間中の話題領域別のトピック発生タイミングを示しています。すべての領域でネガティブ/ポジティブいずれのトピックも頻繁に発生していることが分かります。

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その中でも、社員領域のネガティブなトピックは期間中の始まりから恒常的に発生していることが分かります。さらにその中でも、7~10月にかけて大規模なネガティブなトピックが発生しています。これから少し遅れて8月以降、会社領域のネガティブなトピックの発生が増加しているトレンドが見えてきます。配達員の振る舞いに対する批判の矛先が、徐々に会社にも向くようになってきたことの現れだと考えます。

 

出前館とUber Eatsのネット炎上リスクを比較する

最後に、出前館とUber Eatsでどのようにツイートが異なるのか見ていきましょう。下のグラフは期間中のツイート件数の日次平均値を比較しています。なお、ネガティブとポジティブのツイートを対比できるように、グラフ上はネガティブなツイート件数をマイナス値で示しています。

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下図にてそれぞれのツイート件数割合を各領域のネガティグ・ポジティブ別で示しました。前述のとおりUber Eatsのツイート件数は出前館のそれよりも圧倒的に多い状況がありますが、とりわけ社員領域でUber Eatsのツイート件数の割合が突出しています。

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さらに下図は、観測した期間のうち2021年1月1日以降だけのツイート件数の割合グラフ化しました。複数の領域で出前館の割合が増加していることが分かります。

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特に会社領域のポジティブのツイート割合が大幅に増加していることが分かります。ネガティブな話題含め、徐々に認知が広まってきていることがうかがえます。

次にトピックによって引き起こされた拡散規模を見てみましょう。以下のグラフは関心領域別の拡散規模の期中合計値です。この数字が多いほど大規模な拡散が発生したことを示しています。

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Uber Eatsはツイート件数自体が多いですが、これを見るとUber Eatsの社員領域の拡散が突出していることが分かります。社員領域のネガティブなトピックは主に配達員の不祥事です。出前館よりもUber Eatsの配達員に対するネガティブなツイートが多いことが見て取れます。

一方、社員領域のポジティブなトピックは、配達員という職業が、コロナ禍で需要が急速に伸びた宅配事業を支えていることや、仕事を失った人の受け皿として機能しているといった話題が主でした。いずれにせよネガティブ・ポジティブの両面から配達員という職業に対する世間の関心が高まったことを示しています。

一方で、ツイート件数は圧倒的に少ない出前館は、会社領域のポジティブな拡散規模はUber Eatsよりも大きくなっていることが見て取れます。実際、抽出されたツイートを見ると出前館の配達員のマナーを称賛するツイートも少なくありません。

 

まとめ

Uber Eatsの会社領域ではネガティブなトピックが17件、ポジティブなトピックが22件発生しています。ツイート件数を比較しても、ポジティブなツイートがネガティブなツイートより1.5倍程度多くなっています。

つまり、ポジティブなトピックやツイートのほうが多いにもかかわらず、拡散強度の合計値ではネガティブのトピックのほうが3倍近く大きくなっています。Uber Eatsという単語がネガティブな話題を広めやすい状況にあることが考えられます。このような状況に至った原因をみてゆきましょう。

以下の図は話題の拡散状態をLEVELⅠ~Ⅳの4段階に分類したものです。

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LEVEL分けの考え方は、以下の記事を参考にしてください。

▼ネット炎上のメカニズム:ネット炎上の拡大プロセス
https://media.looops.net/fukuda/2019/10/16/flaming_process/

 

最も進行したLEVEL Ⅳ(イメージの定着)では、以下のような状態に至ったことを示しています。

マスメディアにも大きく取り上げられ、さまざまなメディアで繰り返し報道が続けらる状態です。
ネット炎上という言葉では収まらない、社会問題として世間が取り扱うまでに育った状況です。


昨年夏ごろから、出前・宅配サービスの配達員の振る舞いが社会問題としてマスメディアでも頻繁に取り上げられるようになりました。まさにこのころの配達員が原因となったネガティブなトピックは、以下のLEVEL Ⅳ(イメージの定着)まで進捗した状態であったと考えられます。

このような事象を通じて、危険運転に代表される配達員の不祥事がサービスのブランドイメージを固めていった側面もあるのではないでしょうか。人々は先入観を持ってこのサービスに関心を持つことになります。このため、会社領域でポジティブなトピックが生まれても、ネガティブなツイートの割合を改善することができていない状況が続いているのではないかと考えます。

また、下図は出前館とUber Eatsそれぞれの、社員領域の月次で発生したトピックが引き起こした拡散規模の累計値を示しています。なお、このグラフでもネガティブなトピックが引き起こした拡散規模の累計値をマイナス(赤い棒)で示しています。

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Uber Eatsでは、期間中のすべての月でネガティブな拡散(赤い棒)が発生していることが分かります。一方で、出前館では9月、12月、1月の3か月のみ発生しています。

会社領域でも同様な傾向が見られます。

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Uber Eatsでは昨年4月と12月以外のすべての月でネガティブなトピックが確認できます。一方で出前館では8~10月の3か月のみです。前述のとおり、Uber Eatsでは、海外での訴訟結果が会社領域のネガティブなトピックとして検知されていますので、海外で事業展開をしていない出前館では発生しない類のトピックが含まれています。このような事情も、結果の差異を生み出しています。

出前館もUber Eatsも、「契約したお店で商品を引き取り、依頼主に出前・配達するサービス」です。類似のサービスを展開しているにもかかわらず、このようにネット上のクチコミの様子はずいぶんと異なりますね。

以上のようにクチコミを定量化して分析することで、競合サービスと比較しながら世間の評判を把握したり、実施した施策の効果を測定することも可能になります。

 

 

ループス・コミュニケーションズでは、企業や商品・サービスのネット上での評判/今後の炎上リスクを分析する「ネット炎上リスク診断サービス」を提供しています。もしも皆さまの会社やブランドについて分析してみたいといったご要望がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

 

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  • 著者:福田浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理) 多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。
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