2024年1月18日に放送されたTBS系バラエティー番組「櫻井・有吉THE夜会」の「方言禁止記者会見」企画は、沖縄出身の俳優・二階堂ふみさんが沖縄弁の質問に対し標準語で答えるという内容でした。この企画は、明治時代から昭和にかけて沖縄で方言を禁じた「方言札(ほうげんふだ)」という歴史的背景を想起させるとして、SNS上で「差別的だ」との批判が殺到し、大きな物議を醸しました。
本件は、広報活動やプロモーション活動における潜在的な炎上リスクを管理する上で、歴史的・文化的背景への配慮の重要性、そして事前検知と迅速な対応の教訓を示しています。
【歴史的背景】沖縄出身俳優に「方言禁止記者会見」TBSの番組が物議「方言札を知らないの?」https://t.co/FtlemG4geM
沖縄県出身の俳優が、沖縄弁の質問につられることなく標準語で答えられるかという内容。TBSは「歴史的背景について十分な検討ができていなかった」などと答えている。 pic.twitter.com/rMhWkgSWey
— ライブドアニュース (@livedoornews) January 23, 2024
概要:事実の時系列整理
- 番組名と企画: TBS系バラエティー番組「櫻井・有吉THE夜会」の「方言禁止記者会見」企画。
- 放送日: 2024年1月18日。
- 企画内容: 沖縄出身の俳優・二階堂ふみさんが、沖縄弁で投げかけられる質問に対し、標準語で答えることに挑戦するというゲーム形式の企画。ルールとして、「方言3回でアウト」、ゴーヤチャンプルーなどの方言が入った料理名もNG、イントネーションはセーフとされていました。
- 炎上への発展: 番組の番宣投稿がX(旧ツイッター)に公開された後、批判の声が相次ぎ、物議を醸しました。
リスク兆候:炎上前後の兆候をどう検知できたか
本件では、放送前からリスクの兆候が見られました。
- 脳科学者の茂木健一郎氏は、放送前の番組公式Xでの番宣投稿に対し、「誰も、これ、マズイですよ、って言わないでそのまま宣伝していること自体が、信じられません。。。」とXで危惧を表明していました。これは、インフルエンサーからの初期警告サインとして捉えることができたでしょう。
- 番宣動画の公開後、SNS上で批判が相次ぎ、注目が高まりました。これは、企画内容に対する視聴者の即時的な反応がネガティブな方向へ傾いていることを示す重要な兆候でした。
これらの兆候は、番組制作側や広報担当者が、SNSモニタリングや専門家意見への注意を払うことで、炎上を予期し、事前に対策を講じる機会を提供していた可能性があります。
この番組に関わっている人たちの中で、誰も、これ、マズイですよ、って言わないでそのまま宣伝していること自体が、信じられません。。。 https://t.co/GqvGXFlM51
— 茂木健一郎 (@kenichiromogi) January 19, 2024
炎上原因:ユーザーの怒りのポイント
今回の炎上の主要な原因は、企画が沖縄の歴史における「方言札」を想起させた点に集約されます。
「方言札」の歴史
明治時代に日本政府が本土の標準語普及を推進する中で、沖縄の学校では方言(しまくとぅば、うちなーぐち)を使った生徒に罰として木札を首からかけさせました。この制度は、明治40年ごろから第二次世界大戦後まで、一部では1960年代まで続いたとされています。
- これは、1879年の琉球処分による日本編入後の同化政策の一環であり、沖縄独自の言葉や風習を改めさせるものでした。
- 太平洋戦争末期の沖縄戦では、日本軍が「方言で話せばスパイと見なす」と通達し、実際に方言を話したり標準語をうまく使えなかった住民がスパイ視され、虐殺された歴史も存在します。
「方言ではない」という認識
うちなーぐち講師の比嘉光龍氏は、沖縄の言葉は「方言」ではなく、独自の言語であると指摘し、その撲滅運動が行われてきた歴史を踏まえ、「うちなーぐちが方言と言われ、さげすまれてきたことに対して、社会に注意を促したい」と述べています。この視点は、単なる「方言」という言葉でくくれない、沖縄の言葉に込められた歴史的・文化的アイデンティティの重みを示しています。
主な批判ポイント
- 歴史的背景への配慮不足: 視聴者からは「方言札の再来」「デリカシーがない」「方言札を知らないのか」といった声が上がり、沖縄の歴史的背景に対する理解の欠如が批判されました。
- 差別行為との指摘: 茂木健一郎氏は、「沖縄で方言禁止という歴史があったことを考えると、今回の案件は一発アウトだと思う」と厳しく批判し、企画の感性自体が「完全にアウト」であり、「日本の笑いが調子っぱずれになっている根本原因」だと指摘しました。
企業の対応:実施内容と反応
TBSテレビ広報・IR部は、まいどなニュースや沖縄タイムスの取材に対し、以下のようにコメントしました。
- 企画は「どんな役も見事に演じ切る俳優さんでも、自身の出身地の方言には釣られてしまうのではないか?」を検証するもので、過去に別の俳優で同様の企画を放送した際は好評だった。
- 「沖縄の歴史的背景についての十分な検討ができておりませんでした」と、歴史的背景への配慮が不足していたことを認めました。
- 「今回の企画が差別的であるとのご指摘は、私どもとして真摯に受け止めており、今後の番組制作に活かして参ります」と、反省と今後の改善への意向を表明しました。
この迅速な謝罪と反省の表明は、批判の鎮静化に一定の効果があったと考えられます。
SNSの反応:感情のトーンや拡散ルート
SNS上では、批判の声が多数を占めましたが、一部には番組を擁護する意見も存在し、賛否両論の状況でした。
批判的な意見(感情のトーン:怒り、失望、呆れ)
- 「方言札を思わせる差別」
- 「こんな企画が通ってしまう無神経さ」
- 「方言禁止をエンタメ化している」
- 「誰も止めなかったのか」
- 「怒りを通り越して、ただただ悲しい」
擁護・疑問の声(感情のトーン:困惑、反論、理解)
- 「放送見たけど何とも思わなかった」
- 「こんな遊びも許されないのか」
- 「そんなこと言ってたら何もできない」
- 「番組を見てない人が炎上させたいだけでは」
- 「騒ぐ方が面倒」
- 「他県はOKで沖縄はNGって、それこそ現代の差別では?」
- 「方言出たら札をかける企画ならわかるが、そうじゃない。英語禁止ルールは昔からあるのに」
拡散ルート:X(旧ツイッター)での番組公式アカウントによる番宣投稿が発端となり、茂木健一郎氏のような影響力のある人物が言及したことで、さらに広く拡散されました。これにより、ニュースメディアもこの騒動を取り上げることとなりました。
教訓:他社が学ぶべきポイント+未然防止策
今回のケースから、企業が広報活動やプロモーション活動で学ぶべき教訓と未然防止策は以下の通りです。
歴史的・文化的背景への深い理解と尊重
- 特に地域に根ざした題材や特定の地域出身者を扱う場合、その地域の歴史的・文化的背景、特に負の歴史(差別や抑圧など)について徹底的な調査と理解が不可欠です。
- 表面的な面白さだけでなく、それが特定のコミュニティにとってどのような意味を持つのか、過去のトラウマを刺激しないかを検討すべきです。
- 沖縄の「方言札」のように、単なる「方言」としてではなく、独自の言語としてのアイデンティティや、その抑圧の歴史を理解する視点を持つことが重要です。
企画段階での多角的なリスク評価と審査
- 企画立案の初期段階から、多様な視点を持つ関係者(社内外の有識者、当該地域の出身者など)を交えた多角的なリスク評価会議を実施する。
- 「誰も、これ、マズイですよ、って言わない」状況を避けるため、忌憚のない意見が出せる風土を醸成する。
- 「面白さ」を追求するあまり、倫理的・社会的なラインを見誤らないよう、「リテラシー」と「教養」の向上に努める。
SNSモニタリングと早期警戒システムの構築
- 番宣や告知段階から、SNS上の反応を綿密にモニタリングし、ネガティブな意見や懸念が表明された場合は、迅速に検知し対応を検討する体制を整える。
- インフルエンサーや著名人の発言には特に注意を払い、それが炎上の引き金となる可能性を認識する。
危機発生時の迅速かつ誠実な対応
- 批判が起こった際には、問題点を素直に認め、誠実な姿勢で謝罪する。
- 再発防止に向けた具体的な取り組みや改善策を表明し、実行することで、信頼回復に努める。
類似事例との比較
本企画は、2023年12月にも長崎県出身の俳優・仲里依紗さんが長崎弁を我慢する同様の企画を放送していましたが、この時は批判騒動には至りませんでした。
この違いは、沖縄が本土への編入後、独自の言語文化の抑圧という特有の歴史的背景を抱えていることに起因すると考えられます。長崎弁の企画では問題にならなかったことが、沖縄の企画では深刻な差別と受け止められたのは、地域ごとの歴史の重みや、方言に対する認識の違いが世論の反応に大きく影響することを示しています。
一部の意見には「他県はOKで沖縄はNGなら、それこそ差別」という反論もありましたが、これは歴史的背景が十分に考慮されていない視点と言えるでしょう。エンターテイメント評論家の中には、「時代とともに差別意識も変化してきている」「それが(放送)できるようになったということはある種、沖縄が特別ではなくなってきた」という見方をする声もあり、社会の価値観の変化と、それに伴うメディアの役割を常に問い直す必要性が示唆されます。
まとめ:行動につなげる振り返り
今回のTBS番組の炎上は、広報リスクマネジメントにおいて、「歴史的背景への配慮」「多様な視点での事前審査」「SNSの早期モニタリング」「誠実な危機対応」がいかに重要であるかを再認識させる事例となりました。
特に、文化や地域のデリケートな要素を扱う際には、過去の経緯を深く理解し、それが現在も影響を与えている可能性を認識する「歴史リテラシー」が不可欠です。「面白そう」という安易な発想だけでなく、潜在的な「傷つける可能性」を予見する感性を、組織全体で高めていく必要があります。
他社が同様のリスクを未然に防ぐためには、企画段階からの多様な意見の取り入れ、社会の価値観の変化に合わせた継続的な学習、そして万が一の際に迅速かつ誠実に対応できる体制の構築が、今後の広報・プロモーション活動における最重要課題となるでしょう。
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