キリン「氷結」炎上から学ぶ!企業広告のリスク管理

関根健介 | 2024/03/25

キリン「氷結」炎上から学ぶ!企業広告のリスク管理

キリンビールは2024年3月4日、好調なRTD(栓を開けてそのまま飲めるアルコール飲料)市場を牽引する「キリン 氷結®無糖」シリーズの新キャンペーン「#ブームというより時代です」を開始しました。このキャンペーンには、お笑い芸人の小峠英二氏、タレントの若槻千夏氏に加え、新たに経済学者である成田悠輔氏が起用されました

成田氏は広告で「時代を作るものは、いつだってシンプルですよね」とコメントし、その独自の視点から「氷結®無糖」の魅力を訴求するWEB限定ムービーも公開されました。

しかし、この広告が公開されるやいなや、SNS上では成田氏の過去の発言が再燃し、キリンビールへの批判が殺到し、「#キリン不買運動」というハッシュタグが拡散される事態となりました。結果的に、キリンビールは3月12日には成田氏の広告を取り下げざるを得なくなりました。

この一連の騒動は、企業が著名人を広告に起用する際のリスク管理の重要性と、社会の変化に対応したブランディングの必要性を浮き彫りにしています。

概要:事実の時系列整理

  • 2021年12月:成田悠輔氏がインターネット番組「ABEMA Prime」に出演し、日本の少子高齢化問題の解決策として、「高齢者の集団自決、集団切腹みたいなことしかない」といった持論を展開しました。彼は、これは物理的な切腹だけでなく「社会的な切腹」であり、過去の功績に居座り続ける人が多すぎるのが問題だと述べました
  • 2022年2月:成田氏は自身の発言を「議論のためのメタファー」と説明しましたが、この発言が問題視され、YouTube番組「日経テレ東大学」および「ABEMA Prime」のコメンテーターを降板しました。
  • 2022年3月:キリンは、缶チューハイ「麒麟特製 レモンサワー」のWEB動画に成田氏を起用しましたが、この時点では上記の発言は大きな炎上には至らず、批判も目立ちませんでした。
  • 2023年2月:成田氏の「集団自決」発言は、米紙「ニューヨーク・タイムズ」などの海外メディアで大きく報じられ、国際的な批判を集めました。彼の所属するイェール大学も、彼の意見は大学の見解ではないと表明しました。
  • 2023年12月:キリン「氷結無糖」の広告に、過去のSNS投稿で一部から嫌悪感を示されていたラッパーの呂布カルマ氏が起用されました(現在掲載なし)。
  • 2024年3月4日:キリンビールは「氷結無糖」の新キャンペーンを開始し、小峠英二氏、若槻千夏氏に加え、成田悠輔氏を新たに起用しました。
  • 2024年3月4日以降:成田氏の「集団自決」発言がSNS上で改めて注目され、キリンの広告起用に対する批判が噴出し、「#キリン不買運動」のハッシュタグが拡散されました。
  • 2024年3月12日:キリンビールはSNSでの批判を受け、成田氏を起用したウェブ広告の投稿を取り下げ、公式サイトおよび公式Xから関連する広告・動画を削除しました。キリンは取り下げ理由として「(成田氏の発言に)過度な表現があったと判断した」と説明しました。

リスク兆候:炎上前後の兆候をどう検知できたか

今回の炎上は、いくつかのリスク兆候を事前に検知できた可能性が指摘されています。

過去の炎上経験

成田氏の「集団自決」発言は、2021年の時点ですでに論争を巻き起こし、2023年にはニューヨーク・タイムズでも報じられ国際的な批判を集めていました。これは、起用前に明確なリスクとして認識されるべき情報でした。

キリンの広報は「過去の発言について把握、確認しきれていなかった」と説明しましたが、広告業界の専門家は、広告代理店が人選時に「身体検査」を行うのが通例であり、この説明に疑問を呈しています。

キャンペーン規模の拡大

2022年3月にも成田氏を起用したキリンのウェブ動画があり、当時は問題視されませんでしたが、今回の「氷結®無糖」キャンペーンは渋谷、六本木、上野などのターミナル駅でのグラフィック広告掲出やYouTubeでのWEBムービー展開など、はるかに大規模なプロモーションでした。露出が増えれば、過去の言動が掘り起こされるリスクも高まります。

企業イメージとの不整合

キリンは「公益財団法人 キリン福祉財団」を通じて高齢者福祉事業など、様々な社会貢献活動を掲げる企業です。成田氏の高齢者に関する発言は、企業の理念と矛盾する可能性があり、その整合性を問われることは容易に予測できたはずです。

社会の人権意識の高まり

近年、社会全体で人権意識が高まっており、特定の属性に対する差別的な発言は以前よりも厳しく受け止められる傾向にあります。

炎上原因:ユーザーの怒りのポイント

ユーザーの怒りの中心は、成田悠輔氏の「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」という過去の発言そのものでした。

  • 発言の差別性:この発言は「差別的である」と強く批判されました。
  • 歴史的背景への配慮の欠如:発言が「メタファー」であると説明されても、「集団自決」という言葉は、沖縄戦や満州開拓団など、多くの日本人が実際に集団自決を強いられた悲劇的な歴史と深く結びついており、笑い話ではないという強い反発がありました。
  • 企業倫理への疑問:国際的に批判され、彼自身も番組降板に至った経緯を持つ人物を、なぜ大手企業であるキリンが広告に起用したのか、企業の情報収集力やモラル、人権感覚が問われました。特に、キリンが「高齢者福祉」に関する活動を行っている点が、批判をさらに加速させました。

企業の対応:実施内容と反応

実施内容

  • キリンビールは、SNS上での批判を受け、2024年3月12日に成田氏を起用したウェブ広告の一部投稿を削除しました。
  • 同社の公式サイトや公式X(旧Twitter)からも、成田氏が出演する広告やWEBムービー、商品ページに掲載されていた彼の写真やコメントが削除されました。

企業の声明

  • キリンは取り下げの理由について、「(成田氏の発言に)過度な表現があったと判断した」とし、「今回、WEB広告に対して様々なご意見を頂戴したため、総合的に判断をいたしまして、一部のWEB広告の投稿を取り下げることにいたしました」と説明しました。
  • キリンはまた、成田氏起用の意図として「幅広い立場の方に、氷結無糖の良さをご自身の言葉で語っていただくことを目的に企画した」と述べ、過去の発言については「一人一人の発言、影響について過去にさかのぼって個別に把握、確認しきれていなかった」と回答しました。

反応

  • この迅速な広告取り下げは、メディアから「異例」と評されました
  • SNS上では取り下げに対して肯定的な意見が多く見られました。一方で、脳科学者の茂木健一郎氏やメンタリストのDaiGo氏、編集者の箕輪厚介氏など、一部の著名人からは広告取り下げ自体を批判するも上がりました。
  • ブランディング専門家は、キリンが「万人受け」を狙った中途半端なブランディング戦略をとった結果であり、「覚悟」が足りなかったと分析しています。

SNSの反応:感情のトーンや拡散ルート

感情のトーン

SNSでは「#キリン不買運動」がトレンド入りし、何で成田悠輔氏を起用したの」「不快感しかない」「リスクが高い選択肢を選んだ」といった、企業の人選に対する強い不満や怒りの声が多数寄せられました。その多くは、成田氏の「集団自決」発言に対する嫌悪感と、それを許容したかのような企業の姿勢への批判でした。

拡散ルート

  • 「#キリン不買運動」というハッシュタグがX(旧Twitter)上で自律的に拡散され、多くのユーザーが同様の意見を共有しました。
  • 弁護士のインフルエンサーが成田氏の過去発言をSNSに投稿したことが、批判が増幅される大きなきっかけの一つとなりました。
  • 海外メディアでの報道が国内に逆輸入され、さらに問題が大きくなるという連鎖も発生しました。
  • キリンが持つ高齢者福祉の活動と、成田氏の発言との矛盾が指摘されたことで、議論はさらに多角的に広がりを見せました。
  • 成田氏だけでなく、過去に「氷結無糖」の広告に出演したラッパーの呂布カルマ氏の過去発言にも批判が飛び火し、企業の人選基準全体への疑念が高まりました。

教訓:他社が学ぶべきポイント+未然防止策

今回のキリンの事例から、企業が今後の広報・プロモーション活動において学ぶべき重要な教訓と未然防止策は以下の通りです。

1. 徹底した人選時の「身体検査」とリスク評価

  • 広告に起用する著名人の過去の全ての言動、特に社会的な発言や思想信条を徹底的に調査する。比喩表現か否かを問わず、世間がどう受け止めるかを慎重に検討し、潜在的な炎上リスクを過小評価しないことが不可欠です。
  • 過去に大きな議論を呼んだ発言がある場合は、それが再燃する可能性を常に考慮し、その規模感を正確に予測する
  • 企業自身の理念や社会貢献活動と、起用人物の言動との間に矛盾がないかを厳しく確認する。

2. ブランドの「覚悟」と一貫性

  • ブランディング専門家は、ブランドが「ポリシーを貫く覚悟」を持つことが重要だと提言しています。もし、特定のメッセージ性を持つ人物を起用するならば、その人物の「生き方や哲学」にブランドが共感していることを明確にし、批判に耐えうる覚悟を持つ必要があります。
  • 万人受けを狙う場合は、強い主張を持つ著名人の起用は避けるべきです。曖昧な立ち位置は、かえって批判を招きやすい。
  • 企業は、「自分たちの信念や在り方に共感してくれるファンづくり」に重点を置くことで、価格競争やコモディティ化を避け、強いブランドを築くことができます。

3. 社会の価値観の変化への感度

  • 人権意識の高まりや、特定の属性(高齢者など)への批判に対する社会の受容度の変化に敏感である必要があります。
  • SNSは、世間の「空気感」や「価値観の変容」を測る重要な指標であり、その動向を正確に把握する努力が求められます。

4. 広報の透明性と説明責任

  • 問題が発生した際には、迅速かつ明確に理由を説明することが、消費者からの信頼を維持する上で非常に重要です。キリンの対応は「異例の明確さ」と評されました。
  • SNSでの声は一部に過ぎないという見方もあるが、今回の事例のように「何かおかしい」と感じる「集合智」は、時に大きな社会的な動きにつながることを認識し、軽視しない姿勢が求められます。

まとめ:行動につなげる振り返り

キリンの氷結広告における成田悠輔氏の起用と、それに続く広告取り下げは、現代の企業プロモーションにおけるSNS時代の敏感な世論と、人選の複雑なリスクを改めて浮き彫りにしました。

企業は著名人を起用する際、その人物の専門性や知名度だけでなく、過去の発言や思想信条が企業ブランドの価値観や社会貢献活動と矛盾しないか、徹底した事前調査と深い理解を行う必要があります。特に、人権や歴史的背景に関わるデリケートな発言については、たとえ比喩表現であっても、世間がどう受け止めるかを慎重に検討し、潜在的な炎上リスクを過小評価しないことが不可欠です。

SNSの声をすべて受け入れる必要はないものの、「何かおかしい」と感じる集合知は、時に大きな社会的な動きにつながるため、そのトーンや広がりを正確に把握し、真摯な対話と説明責任を果たす姿勢が求められます。

今回の事例は、企業が社会の変化を捉え、より倫理的で包括的な広告戦略を構築するための重要な警鐘であると言えるでしょう。

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AUTHOR PROFILE

  • 著者:関根健介
ループス・コミュニケーションズ所属。某コンサルティング会社にてWebマーケティングやバイラルマーケティングを経験した後、数年放浪し2011年12月からループスへジョイン。ソーシャルメディアの健全な普及をねがい日々精進しています。関心のあるテーマはO2O・地域活性×ソーシャル・医療×ソーシャル・ソーシャルコマース ま〜ソーシャル全般です。 【座右の銘】 意思あるところに道あり 【Facebook】www.facebook.com/kensuke.sekine.7 【Twitter】 @kensuke_sekine
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