【ステマ規制初の行政処分】マチノマ大森内科クリニック事例に学ぶ、炎上リスクとクチコミ戦略の落とし穴

関根健介 | 2024/07/01

【ステマ規制初の行政処分】マチノマ大森内科クリニック事例に学ぶ、炎上リスクとクチコミ戦略の落とし穴

2023年10月1日に「ステマ規制」が施行されて以来、初めての行政処分が下されたのが、医療法人社団祐真会が運営する「マチノマ大森内科クリニック」でした。この事例は、単なる違反行為にとどまらず、消費者の信頼を大きく損ね、企業活動に深刻な影響を与える「炎上」がいかにして発生し、どのような教訓を私たちに与えるのかを学ぶ貴重な機会となります。

本記事では、この事例から、マーケティング担当者や広報担当者が、クチコミという繊細な領域において、いかにして規制遵守と信頼構築を両立させるべきかを探ります。

概要:事実の時系列整理

  • 2023年3月28日:消費者庁が「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(通称「ステマ規制」)を景品表示法5条3号に追加指定する告示を公開
  • 2023年10月1日:ステマ規制が施行
  • 2023年10月2日〜17日:マチノマ大森内科クリニックが、インフルエンザワクチン接種のために来院した患者に対し、Googleマップの口コミ投稿欄で星4つまたは星5つの高評価を投稿することを条件に、接種費用から550円を割り引くことを伝えていた。
  • 2024年6月6日:消費者庁は、この行為が景品表示法に違反するステルスマーケティングに該当すると認定し、医療法人社団祐真会に対して措置命令を発出

命令内容

以下の措置が命じられました:

  1. 速やかに問題の表示(口コミ)を取りやめること。
  2. 当該表示が景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底すること。
  3. 再発防止策を講じ、役員、従業員、医療従事者全員に周知徹底すること。
  4. 今後、同様の表示を行わないこと。
  5. 講じた措置について消費者庁長官に文書で報告すること。

この事例では、Googleマップという身近なプラットフォームでのクチコミが対象となり、割引という少額のインセンティブが問題視されました。消費者庁は、割引と引き換えに投稿された45件の口コミをステマと認定しています。

リスク兆候:炎上前後の兆候をどう検知できたか

この事例では、以下のような兆候が炎上前後に見られました。これらの兆候は、事業者が自社のマーケティング活動を客観的に監視し、早期にリスクを検知するための重要なヒントとなります。

主要な兆候

  • 評価の急激な変化:割引依頼開始前は184件の口コミのうち9割以上が星1つだったのに対し、依頼期間中には269件もの投稿が寄せられ、その9割近くが星5つに急増しました。平均評価も1.3から3.2に跳ね上がっていました。このような不自然な高評価の集中は、明らかな兆候です。
  • 投稿頻度の異常な増加:依頼期間中の投稿頻度は、他の期間と比べて約35倍に増加していました。
  • クチコミ内容の不自然さ:一部のクチコミには、「口コミで星5を投稿すると料金値引きするというサービスを推されました」「Googleに星5のレビューを投稿すれば更に550円OFF!」といった、割引と引き換えに投稿したことを示唆する内容が明記されていました。
  • 均一的な表現や感情の欠如:全ての高評価が同様のトーンや表現であったり、人間らしい自然な表現のばらつきが少ない場合も疑念の兆候となります。

これらの兆候は、通常の利用者からの自発的なクチコミとは異なるパターンを示しており、事業者はこれらを早期に検知するためのモニタリング体制を構築しておくべきです。

炎上原因:ユーザーの怒りのポイント

ステマが炎上する根本原因は、消費者に対する欺瞞にあります。

主な怒りのポイント

  • 信頼の裏切り:消費者は、クチコミを「第三者の客観的な意見」として参考にします。それが事業者の意図的な広告であると判明した場合、消費者は裏切られたと感じ、不信感を抱きます。特に医療サービスのように、人々の健康や生命に関わる選択において、信頼性の高い情報が求められる分野での操作は、消費者の怒りを増幅させます。
  • 情報の透明性の欠如:広告であることを隠すことで、消費者の自主的かつ合理的な商品選択が阻害されます。消費者庁は、広告であると認識していれば、ある程度の誇張や誇大を考慮に入れるが、第三者の意見と誤認すればそうはならない、と指摘しています。
  • 公平性の侵害:割引などの経済的利益と引き換えに高評価を求める行為は、クチコミシステムの公平性を歪めます。これにより、真に評価されるべきサービスや商品が埋もれ、質の低いサービスが高評価を得てしまう可能性があるため、市場全体の信頼性が損なわれることに憤りを感じるユーザーも少なくありません。

企業の対応:実施内容と反応

今回の措置命令に対し、クリニック側はメディアの取材に対して「何もお答えできない」と回答しました。消費者庁からの命令は、以下の内容を含んでいました。

措置命令の詳細

  • 行為の速やかな取りやめ:問題とされた口コミ投稿(星5または星4の評価)を中止すること。
  • 消費者への周知徹底:違反行為であったことを消費者に明確に伝えること。
  • 再発防止策の実施:役員や従業員、医療従事者に対して再発防止策を講じ、周知徹底すること。
  • 今後の同様の表示の禁止:将来にわたって同様のステルスマーケティングを行わないこと。

措置命令後、当該クリニックのGoogleマップ上の口コミは520件に達し、平均評価は★3.0に落ち着いたと報じられています(6月7日時点)。ただし、処分の詳細な履行状況(口コミの削除や消費者への周知方法)については、記事執筆時点ではまだ不明な点が多いとされています。

SNSの反応:感情のトーンや拡散ルート

この行政処分は、各ニュースメディアやSNSを通じて広く拡散されました。

メディア報道と拡散

  • メディア報道:東京新聞、ハフポスト、日テレNEWS、ツギノジダイ、Web担当者Forum、企業法務ナビ など、主要なメディアが軒並み報じました。消費者庁自身もX(旧Twitter)で措置命令について発信しています。
  • ユーザーのコメント:現地取材では、「毎日遅い時間まで診療して頑張っているのに、こんなことしなくても。信用できなくなる」といった、クリニックの努力を認めつつも、その手法に対する不信感を表明する声が聞かれました。
  • 不信感と諦め:SNS上のユーザー反応には、オンラインレビューの信頼性に対する根深い不信感や、ステマが横行している現状への諦めといったトーンも見受けられます。一方で、「こんなことしてもバレる」「当たり前の規制」「妥当な処分」といった、法の執行を評価する声も上がりました。

拡散ルート

消費者庁の公式発表を起点に、ニュースメディアが記事化し、それがさらに各社のSNSアカウントや個人のシェアによって拡散されるという典型的な炎上ルートを辿りました。

教訓:他社が学ぶべきポイント+未然防止策

今回の事例から、企業が学ぶべき重要な教訓と未然防止策は以下の通りです。

重要な教訓と防止策

  • ステマ規制の広範な適用範囲を理解する規制対象は、SNSだけでなく、テレビ、新聞などのマス媒体、ウェブサイト上の記述、インフルエンサーの投稿、従業員の書き込みなど、あらゆる表示が対象となります。2023年9月30日以前に掲載された情報でも、10月1日以降に閲覧可能な状態であれば規制対象となるため、過去のコンテンツの見直しも必須です。
  • 「事業者の表示」の定義を正しく理解する事業者自身が行う表示:従業員や利害関係者が第三者を装う「なりすまし」や「自作自演」も含まれます。関係会社なども対象となる可能性があります。事業者が第三者に行わせる表示:インフルエンサーなどへの明示的な依頼や指示がある場合だけでなく、明示的な依頼・指示がなくても、事業者が表示内容の決定に関与したと客観的に認められる場合も含まれます。今回のケースのように、少額の割引であっても「対価」とみなされ、事業者の関与と判断されるため注意が必要です。
  • 「判別することが困難」な表示を避ける明瞭な表示が必須:広告であることを全く記載しない、あるいは、アフィリエイトサイトで表記がない場合は問題となります。
    推奨される明瞭な表示方法

    • 広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった明確な日本語を用いる。
    • A社から商品の提供を受けて投稿しています」などと文章で明文化する。
  • プラットフォームの規約遵守も重要今回のGoogleマップの事例のように、各プラットフォーム自体も、インセンティブを伴う投稿や操作的な評価を禁止しています。規制をクリアしてもプラットフォーム規約に違反すれば、コンテンツ削除やアカウント停止のリスクがあります。
  • クチコミマーケティングの健全な運用を徹底する割引や金銭の提供と引き換えに高評価を求める行為は、ステマ規制の対象となる可能性が高いため、絶対に避けるべきです。企業は、「第三者の自主的な意思による表示」であると客観的に認められるように、広告や広報活動を行う必要があります。真に価値のあるサービス提供に注力し、消費者の自発的な良いクチコミを育むことが、結果的に最も強固で持続可能なブランドイメージを築きます。

まとめ:行動につなげる振り返り

マチノマ大森内科クリニックの事例は、ステルスマーケティングが法律違反となるだけでなく、消費者の信頼を深く損ない、企業のレピュテーションに壊滅的なダメージを与えることを明確に示しました。

炎上リスクを未然に防ぐための重要ポイント

  • 透明性の確保:あらゆる広告・プロモーション活動において、それが事業者の表示であることを、誰が見ても一目でわかるよう明瞭に表示すること。
  • 社内啓発の徹底:マーケティング部門だけでなく、経営層、現場の従業員、関係会社に至るまで、ステマ規制の内容と重要性を徹底的に周知し、共通認識を持つこと。
  • クチコミのモニタリングと分析:自社に関連するオンライン上のクチコミや評価を定期的にモニタリングし、不自然な動きや疑念を抱かせる内容がないか、常に監視すること。
  • 倫理観の醸成:目先の利益や評価にとらわれず、消費者の信頼を最優先する企業倫理を醸成すること。真に質の高い商品やサービスを提供し、それが自然な良いクチコミにつながるような本質的な努力を惜しまない姿勢が、最も強力なブランド力を生み出します。

今回の措置命令は、デジタル時代のマーケティング活動において、企業がより一層の誠実さと透明性を求められていることを強く示唆しています。この教訓を活かし、消費者に信頼される企業活動を推進していくことが、今後の企業成長の鍵となるでしょう。

貴社のリスク対策は万全ですか?

貴社の広報戦略は、予期せぬ文化的な地雷を踏まないための準備ができていますか? 私たちは、これらの事例で得られた深い洞察に基づき、貴社が直面しうるソーシャルメディア上の炎上リスクを詳細に分析し、予防策の策定から危機発生時の最適なコミュニケーション戦略まで、包括的なサポートを提供いたします。

今こそ、貴社のブランドを守り、社会からの信頼を勝ち取るための強固なリスク対策を構築しませんか?

ぜひ一度、当社にご相談ください。

お問い合わせはこちら

   

AUTHOR PROFILE

  • 著者:関根健介
ループス・コミュニケーションズ所属。某コンサルティング会社にてWebマーケティングやバイラルマーケティングを経験した後、数年放浪し2011年12月からループスへジョイン。ソーシャルメディアの健全な普及をねがい日々精進しています。関心のあるテーマはO2O・地域活性×ソーシャル・医療×ソーシャル・ソーシャルコマース ま〜ソーシャル全般です。 【座右の銘】 意思あるところに道あり 【Facebook】www.facebook.com/kensuke.sekine.7 【Twitter】 @kensuke_sekine
  • x
  • facebook

ARCHIVES